コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ナイトメア「邪魔者はこの夢から出ていけ!」
莫「富士見さんが爆弾魔の悪夢を望むなんて…何か理由があるはずだ!」
幸呼奈「じゃあ見にいこうよ」
莫「?」
幸呼奈「富士見さんがどんな風に自分の信じる夢を歩いてきたのか、見てみようよ。うちの図書館に来て」
「人間の深層心理は誰にも分からない。夢を見ている本人でさえ…」
またあの声。言いたいことは分かる。だから見にいくのだ。
やってきた図書館。
幸呼奈「渚冬兄!」
「んー?」
渚冬(以後:渚冬兄)。私の上の兄だ。一緒に帝國図書館で働いている。次期館長の最有力候補だ。簡単に自己紹介を済ませる。
幸呼奈「あれある? 」
渚冬「おう。ちょうどメンテ終わったところだよ」
ナイス。数世代前のカメラのような道具を受け取る。
莫「それ何?」
幸呼奈「召装《しょうそう》。これがあれば、過去から未来に流れている時間内で起こった光景を映し出すことができるんだ。前は召装所ってところもあったんだけど…」
渚冬「おい!ちょっとこれ、見てみろ」
ニュース。富士見さんたちがいる押見警察署で爆破事件が発生したのだ。パトカー爆破事件に続き、痕跡は見つかっていないという。ひとまずゼロにビデオ通話で連絡。呑気に紅茶(風の燃料)をしばいていたが、まあいいだろう。
莫「夢で起きたことが現実でも起きてるんです!」
ゼロ「それがナイトメアの恐ろしさだ。悪夢を現実のものにする」
ただ夢の中にいるわけではないと。言っていることは分かった。だから私たちで他人の夢に潜入し、悪夢を止めるのだ。そのために必要なことは1つ。心の扉を探すこと。夢の世界のどこかに3つある心の扉。その先に夢主の深層心理の世界がある。確か莫くんと初めて会った日も…。それが全て開いてしまうと、夢主は悪夢から目覚められなくなってしまう。
ゼロ「それができるのはゼッツだけだ」
莫「ゼッツ…」
幸呼奈「じゃあ見てみようか(召装を取り出して)富士見さんに何があったか」
東堂司《とうどう つかさ》「怪事課だが、解体することが決定した」
富士見「どういうことですか、部長!」
東堂「前部長から引き継いだ時から怪事課の存在意義については疑問視していたんだが…」
そこからの言葉は散々だった。もはや税金の無駄遣い。ナイトメアなんてものがいるはずない。単なる夢だ。ありもしない妄想に取りつかれているだけだから目を覚ませ。頭を冷やせと休暇届まで出されていたのだ。彼のやってきたことがこのたった数分で踏みにじられてしまった。
富士見「俺が今までやってきたことは何だったんだ…!」
幸呼奈「これってどれくらい過去のこと?」
莫「俺たちが最近会ってた時は怪事課を名乗ってたことを考えると…」
渚冬「たった今、過去になった現在…つまりさっきだな。多分もう時間ねぇぞ…」
幸呼奈「莫くん!」
司書室まで彼の手を引く。目覚めると穏やかな夢が始まっていそうな中華風のベッドを錬成する。実は館内は至るところに茉津李兄の影の異空間が応用されているが、司書室は私の異能力が使われている。やたら内装が思い通りなのもそのせいだったりする。指を指して…
幸呼奈「寝て!」
何のためらいもなくベッドに入ってくれる莫くん。
莫「富士見さんが願う悪夢って何なんでしょう…」
幸呼奈「分からない。だから見に行くんだよ。寝れないなら歌ってあげるよ?“夕焼、小焼の、あかとんぼ、負はれて見たのは、いつの日か”…」
莫「💤」
渚冬「はえぇ…」
何だか騒がしい。事件でも起きっているのだろうか。いつものエージェントの格好になった莫くんと一緒に富士見さんを探す。良かった。今回は皆と同じ目線だ。
ねむ「許せない!犯人を捜索して!」
富士見「はい!出動だ!」
莫「待ってくれ!富士見さん」
富士見「お前は…指名手配犯、万津莫!」
見つかってしまった。彼の深層心理に繋がるという心の扉はどこなのだろう。彼の本当の願いは何なのだろう。何故、爆発を望むのだろう。そうだ。彼がそんなことを望むはずがない。投げられた拍子にそこは牢屋に変わっていた。私も捕まったということは莫くん(指名手配犯)を匿ったということになるのだろうか。なら犯人蔵匿罪か。寝言は寝て言うものだ。寝ているが、寝言ではないのだ。
ねむ「セブン酷いです。富士見さんは正義感のある警察官なのに」
莫「ねむちゃん…相変わらず迫真の演技だな」
ねむ「怪事課は事件の捜査で忙しいんですから、もう大人しくしててくださいね」
幸呼奈「怪事課って解体されたんじゃ?」
ねむ「解体なんてしませんよ。ブラックケースを取り扱う大切な部署じゃないですか」
幸呼奈「あの人の言葉を信じるなら…夢は夢主の深層心理…それが本当なら…心の扉の場所は… 」
莫「早く爆弾魔を止めないと、富士見さんが危ない!」
ねむ「もうその手にはのりま…」
莫「俺は…!富士見さんの夢を守りたい!協力してほしい」
鍵を取り出し、錠が開く音がする。ねむちゃん。協力してくれるのか。
ねむ「警察は市民の安全を守ってくれる尊い仕事だって知ったから。私にとって富士見さんも大切な市民です」
莫「よく言った、1日署長!」
早速、変装用の警察服を羽織って外に出よう。
幸呼奈「恩(on)に着るよ!」
そうして私たちは赤い月明かりの下…色々と調べて知った現実世界で怪事課の拠点になっているトラックを探していた。窓際を超えて窓外と言っていたのはこのためだったのだ。すれ違う警察官たちに挨拶をしながらたどり着いた。早速、入ろう。そこにあったのは心の扉と思われる扉。同じだ。莫くんと初めて会った日のと…。ビンゴ…だけど中は妖しく鎖でがんじがらめになっていた。心の扉…もうすでに2つ開いてしまっている。もう1度、署に戻ろう。そこには署を見つめる富士見さん…心を海にでも放られてしまったかのような顔をしている。
富士見「何もかも…木っ端微塵になれ…」
幸呼奈「何でそんな…」
莫「さっき唯一開いてなかったあの扉の中を見たんだ。富士見さんが無意識のうちに願っていた悪夢は…警察の壊滅…!どこだ!ナイトメア!」
ナイトメア「何もかも…木っ端微塵になれ!」
突然、ナイトメアの声。署が爆ぜる。入り口の扉のガラスも私たちを目掛けて吹っ飛んできた。
一同「うわあああああああああああああっ!」
なすか「何が起きてるの…!」
召装にはここと同じように署が爆ぜている現実の世界の光景が映った。ついに最後の扉が開いてしまった。そんな…
幸呼奈「富士見さん!」
富士見さんがナイトメアに引き寄せられるように扉のように開いたナイトメアの体へと入っていった。 これが…肉体を乗っ取られるということ…?
ナイトメア「お前の夢は叶った…!」
莫「富士見さん…!」
現実世界を見てみる。赤い月。周りが暗黒に染まっていく。
「さあ世界よ…悪夢に目覚めろ…!」
またあの人だ。夢の中でメッチャ干渉してきた人。紫の蝶々が空を埋め尽くし、人々の体内に侵入していく。
真っ暗闇で目を覚ました私たち。ここは…
茉津李「俺の異能力で作った影の異空間だ」
陶瑚「2人とも大丈夫?」
ゼロ「いきなり君たちの眠っていたベッドが消えたし、緊急事態につき搬送してもらった。早くナイトメアを止めなければ、世界が滅びる」
幸呼奈「じゃあそうなったら夢も現実もとんでもないことになるってこと⁉︎」
それだけは避けなければ。行かなければ。
陶瑚「幸呼奈。これを」
受け取ったのはポケットに入れられてしまえるほどのサイズのピストル。
幸呼奈「ありがとう」
ゼロ「それで立ち向かうのか?」
莫「絶対、後悔するよ…」
幸呼奈「大丈夫。後悔については色々と考え方があるけど、これなら絶対、後悔しない」
こうして私たちはパトカーのサイレンと非常ベルの音がつんざく警視庁へと向かった。
莫「ナイトメア!富士見さんをどこへやった!」
ナイトメア「ハハハ…全てはこの男が望んだことだ。こいつは自分の使命を信じない無責任な警察という組織に失望していた。こいつ自身の深層心理が悪夢を生み出したのさ!」
ある日、茉津李兄としたある会話を何となく思い出した。てか踏みにじられた時に出る性格が本性って考え方、シンプルにラジカルすぎるよね…。だな。人の心を踏みにじり…心を守る行動を取らせておいて…挙句それが本性などと…。
幸呼奈「それは富士見さんの願いじゃなくて、貴方の願いだろ!」
莫「富士見さんは苦しみながら自分の使命を貫いていたのに… 悪夢なんてこの世からなくなればいい。だから…お前を倒す!」
でもここは夢ではない。現実だ。攻撃を避ける背後であのナイトメアの能力である炎の渦が巻いている。冷や汗が流れる。吹っ飛びながらでもドライバーを拾い直す。だからといって逃げるわけにも隠れる訳にもいかない。
ナイトメア「さあ集大成だ!夢主の体ごと爆発し、悪夢は完成する!」
幸呼奈「“夕焼、小焼の、あかとんぼ、負はれて見たのは、いつの日か”…」
持ってきたピストルに言霊の力が集まる。まばゆい光を放つとそのピストルは歯車があしらわれた大きな銃へと変わった。
ナイトメア「あぁ?」
莫「させない…ストップ ザ ボマー。ミッションを遂行する」
ここまできてしまったらもうやることは1つである。莫くんもドライバーをはめる。
莫「アイム オン イット…変身っ!」
変身したゼッツ。現実でもできることはある。爆風を背後に壁を走り、爆発を避けたり、新しいアイテム…カプセムの力で足を鞭のようにして蹴りを入れ込んだり、腕を伸ばしたり。腕の伸縮能力を利用して爆発をお返ししたり。
ナイトメア「無駄だ…俺の体は爆弾そのもの…いくら攻撃を続けても最後は爆破あるのみ」
幸呼奈「“山の畑の、桑の実を、小籠に、つんだは、まぼろしか”…」
ナイトメア「?」
弾丸にも言霊を込めていく。
幸呼奈「“十五で、姐やは嫁にゆき、お里の、たよりも、たえはてた”」
心の臓にすごい1発をお見舞いした。
ナイトメア「ハハハ!じゃあ…」
奴は急に力を失ったのか膝から崩れ落ちた。体が地面に叩きつけられている。
幸呼奈「“夕やけ、小やけの、赤とんぼ。とまつてゐるよ、竿の先”…銃が効かないからって油断したね…?」
奴には金縛りという状態異常を与えたのだ。
陶瑚「まつ兄ちゃん。あそこ」
茉津李「ああ」
気づいてやってきてくれた2人。奴の真上に陶瑚が横向きの円柱形のシールドを張る。茉津李兄の光の触手で奴は捕えられた。円柱形のシールドに触手を引っ掛け、そのまま奴を吊し上げた。
茉津李「よし!いいぞ、ゼッツ!」
陶瑚「やって!」
伸縮の力で伸ばされた腕が奴の心臓を貫いた。そして中で爆弾は解除された。
莫「あいにく、爆発物の処理はエージェントのたしなみでね」
莫くん有能すぎ。こうしてナイトメアは倒された。今度こそ本当に富士見さんは救われたと信じたい。
莫「おはようございます…」
富士見「君たちは…」
莫「ただ悪い夢に魘《うな》されてたんですよ」
なすか「課長!課長!大丈夫ですか!」
富士見「あぁ…おはよう…」
なすか「寝てたんですか!」
これからはいい夢が見られますように。そう願いながら皆と帰路についている。
「楽しみだ。歪んだこの世界をぶち壊そう」
まただ…いつもの声…あの人は誰なのだろう。
「次に悪夢を叶えるのは…誰だ?」
“朝めざめて、きょう一日を、充分に生きる事、それだけを私はこのごろ心掛けて居ります。”
抜粋
三木露風「赤とんぼ」
太宰治『私信』