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Protect the VIP bride《要人の花嫁を警護せよ》
ここは結婚式場。今日のミッションは新郎新婦の警護だ。牧師となった莫くんがもう中にいる。今日はリハーサルらしい。 私のこの夢での役割は…アテンダー?用は新郎新婦のサポーターだ。キャビンアテンダントの結婚式場版のような仕事だ。演劇でいうところの黒子枠。アテンダーの仕事は「当日の」新郎新婦のサポートだが、壁をよじ登って侵入だ。なぁ〜に。やましいことなど考えていない。ただちょっと世界平和に貢献したいだけだ。こうしてまた莫くんの夢を俯瞰している私。中は荘厳としか言いようのない空間だった。 なんだか浮世離れしている。
莫「新郎 光輝《こうき》。貴方はここにいるみゆきを病める時も、健やかなる時も妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
光輝「はい」
麻宮《あさみや》みゆき「リハーサル、ありがとうございました」
莫「お2人ともおめでとうございます」
光輝「挙式本番もよろしくお願いします」
莫「はい」
一旦、外の見回りに行こう。後ろを見てみると入り口の前に誰かいる。アイツじゃないか。いつもどこから話しかけていて、何が目的なのか全く分からない人。何かを聞いて目星をつけてやってきたのだろうか。盗み聞きしよう。
「ナイトメアよ…さあ…世界を悪夢に導け…」
…?初めて彼の声を聞いた時からずっとこうだ。彼の言葉からも彼自身からも、謎しか感じない。カラスの羽が舞っている。式場に目を戻す。
ねむ「あ、セブン!おやすみ!」
莫「ねむちゃん!おやすみ」
また会ったねむちゃん。おやすみ。現実世界でいうところのこんにちは格。
ねむ「また会いましたね。今日はセブンは牧師さんで、幸呼奈さんはアテンダーですか」
幸呼奈「あ、バレてた?」
もう誤魔化す必要ない。2人の元へよっていった。
莫「そういうねむちゃんは?」
ねむ「ウエディングプランナーです!結婚式っていいですよね。関わる人みんなが幸せになれる。そんな記念日に立ち会えて嬉しいです」
莫「俺もねむちゃんに会えて嬉し…」
ねむ「セブンは今日も任務ですか?」
莫「ああ」
幸呼奈「要人警護で花嫁を守ってるんだって」
ねむ「ああ。花嫁の父親、現職の麻宮外務大臣ですもんね」
突然、悲鳴。ナイトメアだろうか。私はそもそもまだ呼ばれていないが、仕方ない。緊急事態だ。男の人がナイフを持っている。結婚式場に呼ばれていない人がナイフを持ってやってくるというのは…まあそういうことなのだろう。
幸呼奈「みんな離れて!」
莫「誰だ?麻宮外務大臣の対立派閥か?」
みゆき「幼馴染です…」
「どいてくれ…みゆきは俺が連れて帰る…」
やっぱりそういうことじゃないか。予想通りすぎて乾いた笑いさえ込み上げてくる。ナイフなど持っていても肉体強化のカプセムを持っている莫くんに敵うわけもなく…莫くんに投げられたところを私が確保した。
みゆき「おぉ…」
光輝「やるな…牧師さんとアテンダーさん…」
莫「あんたが夢主か。何故悪夢を願…」
莫くんが起きた。私もいつもの部屋で目を覚ました。皆も呼んでゼロのところに報告に行くべきか。
ゼロ「グッドモーニング」
莫「おはようございます!」
ゼロ「ミッションの進捗は?」
莫「まだナイトメアは現れていませんが、夢主と思われる人を突き止めました」
ゼロ「花嫁を狙う人物か?」
幸呼奈「幼馴染らしいですよ」
明らかに怪しかった。今度、会ったらカツ丼でもぶつけてやろうか。力か復讐か。あるいは別の何かか。
ゼロ「らしい?君たちの知らない人間か?だとすれば爆弾魔事件の感染者の1人だろう」
莫「感染?」
陶瑚「何のことですか?」
ゼロ「先日、爆弾魔を止められず、ナイトメアが現実になってしまったことで、悪夢の感染者被害が拡大した」
茉津李「悪夢は…感染する…?」
確かにあの時は不吉な空と音を感じた。あれでその夢にナイトメアを宿す感染者がそれこそ爆発的に増えてしまったのだ。
莫「俺が爆弾魔を止められなかったせいで…」
幸呼奈「莫くんは悪くないって」
それはそうだが…心身が穢されていたのか。悪夢はそこまで人の心と体を食い荒らすものなのか。彼らはどうして呪われたのだろう。
陶瑚「だとしたらどんな手段を使ってでもナイトメアを止めないとまずいわよ」
渚冬「だからずっとそう言ってんだろ…何で?」
陶瑚「まずこのことが公《おおやけ》になれば人々は感染者と非感染者に分断される。すると非感染者は感染者を呪って迫害する。そして迫害された感染者は非感染者を恨む。最終的には感染者と非感染者の争いで世界が…!」
幸呼奈「言ってること的確だけど…陶瑚、最近、そういうアニメ観た?(BGMはAliveで)」
ゼロ「すごいな、君の想像力…」
莫「でも…俺にエージェントなんて務まるんでしょうか…」
不安になってしまっているのだろうか。ただの夢のうちはよかったのかもしれないが、現実となると少し変わってくる。
ゼロ「君はすでに夢を叶えたんだ」
新しいアイテム、潜入カメラ、警戒センサー、バイザー付きのID。色々なエージェントアイテムをくれた。使い方は使っていけば分かるだろう。新しいカプセムもある。ウイングは空を飛ぶ力が込められている。ストリートには大気の力。しまっておくためのアイテムまで。あらゆる条件は整った。
ゼロ「君の心1つで、本物のエージェントになれるんだよ」
莫「俺の…心…」
気になって召装で怪事課がどうなったのか見てみることに。2人とも屋上に呼ばれている。
東堂「先日の爆破事件だが、あれだけの規模であったのにも関わらず、未だに原因は解明されていない。怪事課の君たちが真相を突き止めるんだ」
なすか「しかし…怪事課はすでに解体されたのでは…?」
東堂「ああ。だから非公式で動いてもらう。今後ブラックケースと思われる事件の情報は逐一そっちに回す」
富士見「全ての原因はナイトメアに違いありません!」
東堂「君がそう信じるなら、それが事実であるという証拠を掴め。いいな?」
この前の言いようは散々だったが…うん。メッチャいい人たち。メッチャ応援したい。
さて。夢主を探さなければ。本当ならもっと詳しく話を聞いておかしいところを探っていきたいのだが。臭いのがあの人だ。今は渚冬兄と外を歩き回っている。
渚冬「で、その1番臭い奴の顔は覚えてるのか?」
幸呼奈「多分大丈夫…だと思う」
しばらく歩いていると莫くんと美浪ちゃんが一緒にランニングをしていた。
幸呼奈「あ、莫くんじゃん!おーい!」
「いった!」
急に見えない何かをぶつかった。後ろには誰もいないはずだが。
渚冬「はぁ…」
ため息をつきながら小さく手を叩くといきなり振動が少し大きくなり、声のした方に向かっていく。渚冬兄は音撃の異能力者だ。
「それやめてって、なぎ兄!」
渚冬「やっぱりお前だったか、磨輝」
いきなり見慣れた姿が現れる。コイツは磨輝。我が家の末弟だ。ゼロのところに行っていた時からこっそりついてきていたらしい。莫くんと美浪ちゃんのところに寄って簡単に自己紹介。
2人とも体力をつけるために一緒に走っていたらしい。
莫「俺だって体力つけないと。ミッションのためにも…」
美浪「ミッション…?莫、また何かやろうとしてるの⁉︎」
莫「ああ、いや、その…就職ミッションね」
近くの地下通路の階段をおばあちゃんが上っている。結構、大きな荷物を持っている。
磨輝「僕、ちょっと行ってくる!」
渚冬「おう」
莫「あ、俺も…」
美浪「危ない!」
目の前の木の大きな枝がきしみ、真一文字に降ってきた。いや、本当に危ない。というかもう助けようとしただけでダメなのか。
莫「あっぶな…」
美浪「お願いだから、誰かを助けたいなら夢の中だけにして!じゃないとまた大怪我するよ!」
莫「ごめん…」
「大丈夫ですか?持ちますよ」
同じ地下通路の階段から別の人が上ってきた。あの人じゃないか。夢主であろうあの人。みゆきさんのことを連れて帰ろうとしていた人。
磨輝「一緒に行きましょ」
莫「あの人…(小声)」
幸呼奈「だよね(小声)」
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
磨輝「気をつけてくださいね」
何だ。全然、良い人じゃないか。ならあの夢での彼はどういうことなのだろう。一旦、美浪ちゃんと別れて皆で追ってみることにした。磨輝もついてくるので、今、何をしているのか教えた。
磨輝「そういう場合1番、怪しくない人が夢主だよ。任せて」
というと磨輝の姿が影と影が溶け合うように消えていった。
磨輝「僕は近くから。みんなは遠くから」
莫「透明になるのが異能力なの?」
磨輝「厳密にいうと変身の異能力です。透明化は応用編みたいなものですね」
ゼロに録音した夢主であろうその人と、彼の友人との会話を聞いてもらう。聞くにみゆきさんの婚約者の光輝さんは宝田《たからだ》財閥の御曹司らしく、みゆきさんとは家が近所だっただけの夢主に勝ち目があるわけもなかったという。
「みゆき本人が望んだ結婚とは限らないだろ」
「なあ一平《いっぺい》(夢主と思われる彼の名前)。お前とは住む世界が違いすぎるんだよ。初恋の幼馴染を忘れられないって聞こえはいいけどさ、一途な男とストーカーは紙一重だからな?」
莫「(録音データを止めて)現場からは…以上でした」
ゼロ「なるほど。やればできるじゃないか」
情報収集もエージェントの仕事。夢の中で長年エージェントをやっていた経験が活かせた莫くん。もうすぐ夜だ。悪夢が現実になったら夢主も危ない。一旦、それぞれの場所で寝ることに。
もうすぐ結婚式が始まる。新郎新婦にはスタンバイをしてもらっている。
ねむ「綺麗」
みゆき「世界一可愛いねむちゃんにそう言ってもらえて、夢みたい」
ねむ「今、世界で1番綺麗なのはみゆきさんですよ」
莫「何としても守らないと」
ねむ「こんな幸せな日を、邪魔する権利は誰にもありませんもんね」
磨輝「また何かあったら言うからその時はお願い」
ねむ「ラジャー」
警戒センサーを持ち、入り口の扉前を陣取る私と磨輝。やっぱりあの人がいる。
一平「みゆき…」
式場ではパイプオルガンが鳴り響いている。新郎新婦が入場したのだろう。私たちも居たかったが。赤い月を眺めていると黒い羽のナイトメアが空から門に突っ込んできた。すると門に言霊が浮かび上がり、ナイトメアを捕らえた。縛り付けられたように動けなくなっている。
幸呼奈「“此者ハ不忠ナル偽病者ニツキ、麻縄ヲ解クコトヲ禁ズ”…(持ってきた短剣を蟹のハサミを模したような巨大な大鋏に変形させて)かかったね 」
そろそろ私たちの出番だ。式場に突っ込んで行く。
幸呼奈「皆さん!落ち着いて聞いてください!たった今、ナイトメアが現れました!」
莫「やっぱり…」
莫くんは警戒センサーで勘付いていたらしい。
幸呼奈「ねむちゃん!私の拘束も長くは持たない。もうすぐここは危なくなる。みんなを逃して」
ねむ「はい。皆さん!入り口から離れて!」
思ったとおり30秒もしないうちに拘束から抜け出してきたナイトメアが式場に突っ込んできた。奴が召喚した大量のカラスが暴れ回り始める。
ナイトメア「そこをどけ。花嫁は連れて行く」
莫「Protect the VIP bride《要人の花嫁を警護せよ》それが俺のミッションだ。(ドライバーとカプセムをセット) I’m on it 《さあやろうか》…変身っ!」
戦闘開始だ。磨輝と先ほど錬成した刃を抱えていつもの竹杖に乗る。ナイトメアの能力なのか大量のカラスの羽で攻撃をしてくる。私たちも負けじと食いついていく。外へ飛び出す。相手はカラスのナイトメアだ。風に吹っ飛ばされた私たちは式場のてっぺんまで飛ばされた。いや。よく見てみると…私たちが吹っ飛ばされたのではなく…この世界がひっくり返った⁉︎その拍子なのかみゆきさんも私たちの目の前を落ちていった。
莫「みゆきさん!」
ウイングのカプセムの力を使って辿り着くと後ろに縋り付くように一緒に飛び降りている。私も一緒に飛び降りた。恐怖はなさそうだ。上へ上がる気は無いのか、もがくこともしない。髪は視界をメデューサにでもなったかのように揺れている。何とかみゆきさんの手を取って背中と膝に腕を差し入れる莫くん。自分でも一瞬、分からないくらい簡単に抱き上がった。何とか一緒に竹杖に乗せて逃したが、それでもナイトメアは食らいついてくる。再び空へ。
小林多喜二《こばやしたきじ》「幸呼奈!聞こえる!」
幸呼奈「多喜二さん!何ですか、こんな時に!」
小林多喜二。彼も図書館にいる文豪だ。
多喜二「ごめん急に。1つ気になることが…今の状況におかしいところはない?」
幸呼奈「というと?」
光輝「みゆき!」
一平「みゆき…」
多喜二「いや…なんで世界がひっくり返ったのに彼女しか落ちなかったのかなって…」
ナイトメア「それこそが夢主の望む悪夢!」
言葉が終わらないうちに磨輝の腕を掴んでみゆきさんのところに竹杖で戻っていった。
磨輝「え?え?」
困惑の声が上がる。
磨輝「待って…何してるの?あぁっ!」
問いは無視して飛び降りた。
幸呼奈「磨輝!あの竹杖はもう使えない!腕をあのウィングフォームみたいにするんだ!」
磨輝「はぁ!」
と言いながら言ったとおりのことはできる磨輝。手を握って飛んでいるところにやっと繋がった。よく考えるとこれだけの騒ぎを起こしておきながら犯人…一平さんは被害者…みゆきさんに配慮している…?1度も手を出していない。
磨輝「夢主はあの人だ!」
莫「夢主は…花嫁…?」
磨輝「じゃあこれは…みゆきさんの本当の気持ち…深層心理が悪夢になったところ?」
“愛する心のはちきれた時
あなたは私に会ひに来る
すべてを棄て、すべてをのり超え
すべてをふみにじり
又嬉嬉として”
高村光太郎『智恵子抄‐人に』
抜粋
小林多喜二「蟹工船」