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失敗を重ねて落ち込む華の前に、ふわりと柔らかな声がかかった。
「大丈夫ですよ。誰でも最初は失敗するものです」
振り返ると、ロビーに立っていたのは柊木琴音だった。落ち着いた笑顔で近づいてきて、そっとハンカチを差し出す。
「少し汗を拭いたほうが、気分も変わります」
「……ありがとうございます」
華は慌てて受け取り、深く頭を下げた。
横で律が「柊木先輩……」と声を落とす。その響きは、華に向けるときとは違い、どこか敬意と憧れを含んでいた。
琴音はそんな律に穏やかに頷くと、華に視線を戻した。
「焦らず、一つずつ覚えていけばいいんです。あなたなら大丈夫」
優しい言葉に救われる思いがした。だが同時に、琴音に向ける律のまなざしが心に残り、華は小さく唇を噛んだ。