テラーノベル
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暗闇。
何も見えない。
聞こえるのは、遠くで鳴り続ける警報だけだった。
『人格同期を開始します』
機械音声が響く。
「……やめて」
母の声。
「014、お願い……」
少年は答えない。
悠真は暗闇の中で、手探りで母の腕を掴んだ。
「母さん!」
「悠真、聞いて」
「何を?」
「今から見るものを、全部信じないで」
「……どういう意味だ?」
母は答えなかった。
その直後。
パッ。
照明が戻った。
悠真の目の前に、巨大なモニターが映し出される。
そこに並んでいたのは。
十三人の少年だった。
幼い。
まだ五歳ほど。
全員、同じ顔。
全員、神崎悠真。
「……これ……」
悠真は言葉を失う。
画面の一番左に、
【001】
と表示されている。
その隣には、
【002】
【003】
【004】
と続いていく。
そして最後。
【013】
「十三人……」
母が小さく呟く。
「違う」
悠真が振り返る。
「何が違うんだ?」
母は画面を見つめたまま言った。
「十三人の人間を作ったんじゃない」
「……」
「一人の人間を、十三回作ったの」
悠真の背中に寒気が走る。
「つまり……俺を?」
母は頷いた。
「あなたの身体を使って」
「でも、俺は今ここにいる」
「それも違う」
母が振り返る。
「あなたは、最初から一人じゃなかった」
その言葉と同時に、モニターの映像が切り替わる。
001。
少年の悠真が目を開ける。
次に002。
同じ少年が目を開ける。
003。
004。
005。
次々と映像が流れていく。
そして、それぞれの映像の最後に一つの文字が表示される。
【死亡】
【死亡】
【死亡】
【死亡】
【死亡】
悠真は息を呑んだ。
「……全員、死んだのか?」
「そう」
「どうして?」
母は答えない。
代わりに、014が口を開いた。
「失敗したから」
「何が?」
「記憶」
014はモニターを見る。
「記憶を入れすぎた」
悠真は少年を見る。
「……記憶を?」
「人間の脳は、他人の人生を全部受け止められない」
014は自分の頭を指差す。
「だから、壊れる」
画面に表示された。
【001 記憶適合率:12%】
【002 記憶適合率:19%】
【003 記憶適合率:24%】
【004 記憶適合率:31%】
数字は少しずつ上がっていく。
しかし。
【012 記憶適合率:87%】
そこで止まった。
そして、
【013 記憶適合率:96%】
悠真の目が見開かれる。
「96……」
母が呟く。
「十三号だけは違った」
「……俺?」
「そう」
「じゃあ、俺は成功したんじゃないのか?」
母は苦しそうに首を横に振った。
「成功したと思っていた」
「……?」
「でも、違った」
母の視線が014へ向く。
「あなたの中に、一つだけ存在しない記憶があった」
悠真は眉をひそめる。
「存在しない記憶?」
「あなたが、どうやって生まれたのか」
沈黙。
014が言った。
「だから、十三号は完成していない」
「……」
「お前には、最初の記憶がない」
悠真は自分の記憶を思い返す。
幼い頃。
母。
父。
学校。
刑事になった頃。
事件。
廃病院。
そこまでなら覚えている。
しかし。
その前。
自分が生まれた瞬間。
母に抱かれた記憶。
父と初めて会った記憶。
何もない。
「……俺は」
悠真の声が震える。
「最初から、記憶を持っていなかった?」
「違う」
014が答える。
「最初の記憶は、消された」
「誰に?」
014は母を見る。
悠真も母を見る。
母は目を逸らした。
「……私」
悠真の表情が変わる。
「母さんが?」
「そう」
「なぜ?」
母はしばらく黙っていた。
そして。
「あなたを守るため」
「何から?」
母は答えた。
「あなた自身から」
悠真は意味が分からなかった。
その瞬間。
背後の扉が開いた。
ガチャ。
白髪の神崎が入ってくる。
「もう十分だろ」
母が振り返る。
「……あなた」
白髪の神崎は悠真を見る。
「ようやく理解してきたようだな」
悠真は睨みつける。
「お前は誰だ」
「何度も言わせるな」
男は自分の胸を指差す。
そこには、
【001】
の文字。
「俺が最初だ」
「最初……?」
「お前たちが十三号、十四号と呼んでいるものは、全部俺から派生した」
悠真は言葉を失う。
「じゃあ……父さんは?」
白髪の神崎の表情が一瞬だけ変わった。
「お前の父親か」
「ああ」
「奴は俺を殺そうとした」
「……!」
「だから俺が殺した」
母が叫ぶ。
「嘘よ!」
白髪の神崎が笑う。
「母親なら知っているだろう?」
母は震えている。
悠真は母を見る。
「どっちなんだ?」
母は答えられない。
白髪の神崎が続ける。
「悠真」
「……」
「お前が父親を殺したという記憶」
悠真の心臓が跳ねる。
「それは、お前の記憶じゃない」
「……じゃあ誰のだ?」
白髪の神崎は014を見る。
「俺の記憶だ」
014が目を閉じる。
そして。
「違う」
小さく呟いた。
「それも違う」
白髪の神崎の表情が変わった。
「何?」
014はゆっくりと目を開ける。
その目には、もう子供の面影がなかった。
「父さんを殺したのは」
一歩。
悠真へ近づく。
「十三号でも」
もう一歩。
「001でもない」
さらに一歩。
「俺でもない」
014は悠真の目の前で止まった。
「父さんを殺したのは」
悠真の頭の中で、突然、記憶が弾けた。
白い部屋。
銃声。
倒れる父。
泣いている母。
そして。
幼い自分。
手に握られた拳銃。
しかし。
その後ろに立っていた人物の顔だけが、どうしても見えない。
014が呟く。
「十五年前の、あの日」
悠真の目の前が真っ暗になる。
「もう一人いたんだ」
そしてモニターに、新しい番号が表示された。
【SUBJECT 000】
悠真は凍りついた。
「……000?」
白髪の神崎が初めて動揺する。
「そんな番号は存在しない」
014が笑った。
「存在するよ」
画面が切り替わる。
そこに映っていたのは。
幼い悠真でも。
001でも。
014でもない。
全く別の少年だった。
そして、その少年の名前は。
【被験者000】
【神崎悠真】
だった。
「……俺?」
悠真の声が震える。
014が答えた。
「そう」
「お前が十三人目だと思っている悠真よりも」
少年は画面を指差す。
「もっと前に」
「最初の神崎悠真がいたんだ」
その瞬間。
モニターに表示されていた【000】の少年が。
ゆっくりとこちらを向いた。
そして。
画面越しに。
悠真を見て笑った。
「……やっと見つけた」
悠真は息を止めた。
その声は。
自分の声だった。
コメント
1件
わあ、一気に持っていかれました……! 第16話、めちゃくちゃ重くて、でも引き込まれました。特に「一人の人間を十三回作った」という母の告白と、悠真の中に“存在しない記憶”があるって核心、それからまさかの **000** の登場……鳥肌が立ちました。最後の「やっと見つけた」が悠真自身の声なのが、一番怖かったです。次が気になりすぎます!
#ミステリー