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大きな欠伸(あくび)と同時に、鰭(ひれ)を目一杯に伸ばしたナッキは、目を開けて呟いた。
「んー、なんだかたっぷり眠れたみたいだけれど、お腹がぺこぺこに…… えっ?」
ナッキの目前には、数十匹の小さな魚達が集まって、その可愛らしい尾鰭を懸命に振り続け、ナッキに水を送っている様であったが、彼らは、突然言葉を発したナッキの顔を一斉に振り返り、揃ってにっこりと笑顔を見せて来たのである。
ナッキは目を見張るのであった。
彼らは小さなナッキと比べても、信じられないほど小さく、その体は半透明に輝き骨や内臓までが透き通って見えて居り、ナッキの目には、とても美しく映っていたのだ。
ナッキの目覚めを目にした小さい魚の内、何匹かが急いで四方に泳ぎ出し、彼らに呼ばれたのか、あれよあれよという間に集まって来た小さな魚は数百匹にまで達しているようであった。
その数の多さに、ナッキは真ん丸い目をキラキラとさせながら、空腹も忘れ小さな魚たちに話し掛けるのであった。
「ねえ、もしかしてだけどさ、君たちって、その、メダカ、かい?」
ナッキの声に、一番近くに居た、十数匹の小さな魚が声を揃えて答える。
『仰る通り、私達はメダカです、大きく強く、美しい魚の王様! お体は大丈夫ですか?』
――――な、なんで同時に話すのだろう? 若(も)しかしてメダカさん達にとっては、当たり前なのかもしれないぞ? むぅん、興味深いなぁ!
ナッキは疑問に思ったけれども言葉には出す事はせず、今この場においてもっともっと大切だと感じている事を口にするのであった。
「ああ、勿論大丈夫だよ、すっかり痛みも消えたしね、もう剥がれた鱗(うろこ)以外は全部治ってしまったみたいだよ、でもこれってさ、君達が皆で僕を助けてくれたお蔭なんだよね? ありがとうだよ、心から本心からのお礼を言うよっ! 皆さん、メダカの皆さん、お蔭で助かりましたぁ、本当にありがとうございましたぁ!」
本当の事を言えばまだ少しは、痛む所はあったのだけれど、ナッキは全快したかのように振舞うのである。
目の前に集まった小さな魚、メダカは声を合わせて答えるのである。
『お礼などとんでもない事でございます! メダカは何も特別な事をしてはいませんよ? お目覚めを待つ間、せめて新鮮な水をお送りしていただけ、あとは失礼とは思いましたが、回復の一助になればとの思いから御身に添わせて頂きましたが、不敬であったならお叱りを頂きたい、そう思うばかりでございますぅ、それにしても、伝説に聞いておりました、大きく強く、美しい魚の王様、貴方様がメダカにして下さった救世(ぐぜ)、その大いなる御業(みわざ)に感服して居る次第にてござります! その奇跡の如き救いの御業の前で、我々が貴方様、魚の王様にさせて頂いた事等、とるべくも無いほんの些事(さじ)でございます、魚の王様ぁ!』
「へ? お、王様ぁ?」
ナッキの左側に位置したメダカが二十数匹、今度もピタリと同時に声を合わせて長文のせりふを一糸乱れぬ感じで答えたのである。
ナッキは少し引きつつも思うのであった。
――――うわあ! やっぱりメダカはこうやって話すんだなぁ、だけれど一体どうやっているんだろうか?
ナッキは再び不思議に思ったけれども、今度も口にせず左のメダカ達に別の質問を返した。
「ねえ? 僕、何かやったのかな?」
思い当たる節が全く見当たらなかったナッキはキョトンとした顔でメダカ達を見渡した。
すると、今度は居並ぶメダカの群れのそこかしこから、またもや揃った声が聞こえたのである。
『おお、なんと偉大なるかな魚の王よ、あれ程の奇跡を実践せしめて尚何事でも無いとは…… メダカにとって、災厄その物として立ち塞がり続けた、かの死の岩壁を破壊し我らを恐怖から解放した救世の御手、大きく強く、美しい魚の王様、貴方様が如何に謙虚であろうとも、メダカは貴方様によってもたらされた奇跡の御業に感謝を奉げてやむものではありません』
「死の岩壁? あ、若しかしてこの池の入り口にあった石積みの事かな? 僕が壊しちゃった」
『そうです! そうです!』
この池に辿り着く前に、不思議なつるつるの洞窟の行き止まり、最奥にあった石の壁を壊した事を、どうやらメダカ達に感謝されている様である。