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それにしても、とナッキは思う。
――――随分感謝されてしまっているようだけど…… 少し大げさ過ぎるよなぁ~、なんの役に立ったかは判らないけれど、自分の勝手な都合でやった事なんだし…… 寧(むし)ろこちらサイドが感謝しなければいけない場面のはずなんだけどぉ…… 命を救って貰った訳だしね…… 良しっ! 一応伝えておかなくっちゃなっ!
ナッキはメダカの群れを見渡しながら言う。
「なんか凄く褒めてくれるのは嬉しいんだけれどさ、あの壁? あれを壊したのは完全に自分の為だったからね、そんなに感謝される事ではないと思うのだけれど…… 何て言うのかな? あ、そうだっ! 偶然なんだよ、偶然…… それより僕こそ君たちが助けてくれなかったら死んじゃってたんだよ? どう考えてもこっちがありがとなんだよ? ね? 僕にとっては君たちこそ命の恩人、救世主なんだよぉ? 判る?」
一所懸命に説明したナッキであったが、聞いてくれているのか、はたまた聞かない事に決め込んでいるのか、数百匹のメダカ達は揃って画一的(かくいつてき)な笑顔をその顔面に貼り付けたままで、ニヤニヤとナッキを見つめ続けていた。
狂信者、なのか? 人間やそれ以上の知性を持つ者ならば、そう感じて、気持ち悪いと思ってしまったかもしれない。
だが、ナッキは純粋で素朴、素直が売りの銀鮒である。
当然の事だが、生きる事を命題として日々を過ごしている野生動物には、信仰とか、哲学とか、善悪の区別とか、そんな下らない事に頓着している余裕など無いのだ。
んな事していたらすぐに死ぬ、それも種族ごと…… それが野生、そう言う事なのである。
と言う事で、ナッキは狂信者っぽい笑顔を恐れるでもなく、言葉を続けるのであった。
「それにね、さっきから君たちってば言っているよね? この僕の事を、『魚の王様』ってさぁ~! 何だっけか? 強くて美しいだったかな? 後は…… そうだっ! 大きい、って言っていたでしょ? あれも違うんだよぉ?」
『?』
相変わらずメダカ達は貼り付けた笑顔のままだったが、そのままで首を傾げる仕草をピタリと合わせて見せたのである。
返事は得られなかったが、そのままナッキは説明を続けたのである。
「つまりね、僕たちの仲間、あっ! 銀鮒って言うんだけどね? 僕ってばその中でも一番小さくて弱い鮒なんだよ? 良い、だから大きいって言うのは当たらないでしょ? どう? ここまで判ってくれたかな?」
『……』
一糸乱れぬちょっと気持ち悪い笑顔を浮かべたままで、数百匹のメダカ達は、またもや頷く動作をシンクロさせていた。
ナッキは一切気にする風でもなく言葉を続ける。
「判ってくれて良かったよ、それでねぇ? 次に言いたいのは強い、って所なんだけどさ! 僕なんか全然弱い部類なんだよ? 仲間たちの中でもヒットって言う凄く強い鮒がいるし、大人の鮒たちはそれよりもずっと強いんだよ? 特に僕たちの先生なんか頭も良いし大きいし凄いんだよ? それだけじゃなくてね、世界には僕たち鮒よりもっともっと大きくて、強い強いそんなお魚が一杯居るんだってよぉ! 海って言ってね、凄っくっ、大きな湖があるんだってさっ! そんでそこのお魚は皆大きかったり、鋭い牙を持っていたり、風よりも素早く動けたりするんだってよ? どう? 凄いでしょ? だから、僕は強くないし、全然立派な存在じゃないんだよ? 判ったぁ?」
『っ! ……』
メダカ達は驚いたのか、多少ビクゥッと緊張を見せた後で、またもや頷く仕草を揃えて見せたのである。
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