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「樹は俺の患者。気管支拡張症っていう病気なんだよ」
北斗の低い声が、やけに冷たく聞こえた。しんとした外気のせいかもしれない。
「……知らなかった」
優吾が悔しげに言う。
「樹のことだから、迷惑かかるのが嫌で言ってなかったんだろうな」
「でも、気管支の病気ならたまに咳してたのとか酸素のスプレー持ってたのにも辻褄があう」
慎太郎の言葉に、北斗はうなずく。
「よく気づいてたな。…今までは薬でコントロール出来てたけど、喀血は初めてかも…」
「かっけつって何?」とジェシーが尋ねる。
「気管支から出血して、咳とかと一緒に出ちゃうんだよ」
「救急車呼ばなくてよかった?」
大我が訊く。
「ここから要請したらだいぶ時間がかかる。俺が処置したほうが速い」
そして「ちょっと様子見てくる」といって樹の部屋に向かった。
「全然気づいてあげられなかった…」
「まあ、隠したかったのかもしれないしょや。咳して苦しそうなときでも、心配してもいっつもはぐらかされたから」
「プライベートなことだしね」
「…所詮は他人だもんな…」
優吾がぼそっとつぶやく。誰も反論はできなかった。
ふと、慎太郎は立ち上がった。階段を上がっていく。
樹の部屋から出てきた北斗と鉢合わせした。
「あの、北斗くん」
意を決して声を掛ける。
「どうした」
言葉を選びながら、
「…俺の、主治医になってくれますか」
北斗の部屋に入り、ベッドのふちに座って向かい合う。北斗は戸惑いながらも手で促した。
「…俺、生まれつきファロー四徴症があるんです。手術はしたけど今でも薬が欠かせなくて。そのせいで、親が亡くなって親戚に引き取られたあともずっと見放されてて。生活も上手くいかなくて逃げ出してきたんですけど、ここにお医者さんがいるって聞いて安心して…」
一息に話した。少し情報を入れすぎたかなと思ったが、北斗は無表情で聞いている。
ファロー四徴症とは、先天性心疾患の一つだ。
「俺を診てほしいんです」
「……俺の専門は呼吸器内科なんだけどな」と苦笑したが、「カルテとか診断書ある?」
目つきは仕事モードに変わっていた。
慎太郎の部屋へ取りに行き、隅々まで読む。
「…けっこう重いんだな」
慎太郎はうなずいた。
「わかった。じゃあ薬が切れたら同じものを変わらず出す。あと2、3か月に一回、俺の診療所で定期健診な。近いうちに来て」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに答えた。
「もっと早くに言ってくれてもよかったけど。…ったく、家にも担当患者2人いるって何なんだよ」
と呼吸器内科医は笑った。
続く