忌々しいシプリートという名前は捨て去り、アズキールという名前をつけて蘇った。
暇だったのでその町を彷徨っていたら、一人の男が捕まっていた。紫の肌に四つの角を持つモンスターだ。彼は人間たちに棒で叩かれ、酷い目に遭っている。
そこで闇魔法を使って人間たちを消し去り、モンスターを助けた。彼の名はガレスという。彼は丁寧な口調で、お礼を述べる。
「助けてくださりありがとうございます。陛下と呼んでもいいですか?」
そう言われると、良い気分がした。初めての仲間ができたんだから。
彼は悪魔のような笑みを浮かべる。
「ああ、いいぜ。アズキール陛下と呼ぶといい。二人で人間を懲らしめないか?そして人間のいない理想の世界を作ろう」
「はい、かしこまりました」
二人は手を取り、それから協力することにした。
アズキールとガレスは手を取り合って、たくさんの街や国を崩落させていく。こうすることで人間を絶滅させることができるのだ。モンスターが生活しやすい環境を作るために。
人間たちは醜い争いに、自然を荒らしまわる害悪だ。潰しても問題はないし、人間たちはモンスターになった方がのんびり暮らすことができる。
アズキールは人間を次々とモンスターに変え、小さな子供は使い物にならないので操っているモンスターに殺させた。人間だったモンスターを操れば、もう悪さはできまい。
ガレスもロボットや洗脳装置を作成し、それらを使って人間を次々と懲らしめていく。連れてきた人間をモンスターに変える装置を作り、そして人間たちを洗脳し抵抗できないようにした。
カノーカ王国に拠点を置いた後、地下にある王座に座り部下のガレスへ偉そうに命令する。
「ガレス、一つお願いがある」
「なんでしょうか?」と主君に忠誠を誓うそぶりを見せて言う。
「この娘を連れてこい」
アズキールが紙に描いたのは、金髪のロングヘアの美しい女性だ。眉目秀麗で鼻は高く、唇は薄くてとても愛らしい顔。
この女の名はエミリ・マーガレット。寝ている際、いつも夢に出てくる女だ。シプリートの婚約者で、ずっと話し合ったりお花を庭で育てたり。
とても羨ましくて、彼のことが憎いのだ。エミリをこのアズキール様のものにしたかった。その笑顔をこちらに振りまいてほしい願望がある。
伝承で伝わるカノーカ王国の宝石「ルーペント」を盗んで滅ぼし、この地を自分とモンスター共の拠点とした。ここを筆頭にガレスに命令して、エミリを連れてきたというわけだ。
今思い出しても懐かしいが、回想はここまでだ。もうこれ以上考えても憎しみが増えるだけ。
彼は闇の中に消えていき、「フリーダム城」の地下へ戻るのだった。
一度夜になって、馬車の中で寝た。皆ぐっすり眠れて、気分爽快のようだ。次の日の昼、食事を少し取りようやくザルメタウンの近くへ着く。曇っていてあまり良い天候ではない。
カノーカ王国とはずいぶん離れてしまったが、気にすることはない。雑木林をぐんぐんと進むと数多くの民家があり、ここには住民が生息している。皆分厚いコートを着て、雪かきしている。
半数以上の人は家で温まり、外出はしていないようだ。辺り一面真っ白で、なんだかパレットみたい。
ドミニックは震えながら他の四人に話しかける。カロリーヌ以外、全員寒くて体を震わせていた。
「こんな寒いところに星のかけらがあるのか?」
「人に聞いてみるというのはどうでしょう?」
「でも、なんかここにいる人おかしいよ!目が赤いもの」と慌ててアンジェが言う。
「本当だ……これは操られているのか?」と顎に指を当てて考えるシプリート。
「ひぇ!まじかよ……」とオーバーなリアクションをするザール。
雪かきをしている人や家にいる人を見ると、全員目が赤かった。その瞳の奥には、黒い人影アズキールが写っている。
人々の声にもならない叫び声や「助けて」の声が聞こえながら、人間の口が大きくなり、腹と背中が白い毛むくじゃらになって大きくなっていく。
そこに現れたのは、先ほど人間だったイエティだ。寒い地方に住んでいるモンスターで、普通人を襲わない。しかし操られているのでそんなことは関係ない。
倒さなければいけないのに、元人間を倒すべきか迷ってしまう。確かに彼らは見た目はモンスターだ。元々は人間だったと知ってしまうと、殺すのに抵抗が生まれる。みな躊躇していた。
「おい、あれを見ろよ!」
ドミニックが指を指した方を見ると、建物を壊して這い出てくる巨大な熊が姿を現す。その熊は建物の破片を握りしめて、こちらに攻撃してきたのだ。
五人は別々に避けるが、これは罠だった。避けた瞬間転んでしまい、イエティに全員捕まってしまう。彼らに床に投げ捨てられ、顔と服とズボンからはみ出ている部分が冷え冷えして痛い。しかも何回も繰り返してくる。どうしたら倒せるんだ!?
考えていたら、先にイエティから手を離されて立ち上がったザールが手を挙げる。
「おいらに一つ提案があるっす!」
「なんだ?」と叩きつけられた状態で尋ねたため、声がグラグラと揺れている。ようやく解放されて目が回ってしまったが、それでも集中して聴く。
「冷たいものに強いってことは、炎で暖かくすればいいんじゃないっすか?おいらも太ってるから暑いし」
それはいいアイディアだ。成功する確率が高そうだな。
炎魔法が使えるのはカロリーヌのみ。彼女にお願いすることにしたが、恐怖のあまり体をさらに震わせ戦う気力を放棄していた。
そんなカロリーヌを見て、シプリートは強い言葉で声をかける。
「カロリーヌ。お前はなんのためにここにきたんだ!それを思い出すんだ!」
「っ……!そうね。彼らは人間。そんなことは分かってる。でも、王子を死なせたくない!」
彼女の震えは止まり、立ち上がってモンスターたちの腹を眺める。目を見ると恐怖を感じるなら、他の場所を見ればいい。それにシプリート王子は、初めて恋をした人物だ。彼が死んだのを見てしまえば耐えられなくなる。だから今全速力で戦う!
カロリーヌは戦う決意をした。王子を守るために、メイドという仕事があるもの。
彼女は手を前に突き出し、呪文を唱えずに炎を吹き出す。一直線に渦を描いた炎は一瞬で道に雪を無くし、地肌が見える。これで滑らずに走ることができる。
カロリーヌは風のように駆けて、炎の拳をイエティ三体に向けて殴りかかる。全ての方向に拡散して、一瞬で灰にした。恐ろしいほど強い。
それからも彼女は無双し、白い熊も白い狼も全部パンチで片付けていった。炎の幅はかなり広く、数メートルは伸びている。メラメラと燃える炎は一瞬触れるだけで、全てのものを溶かすほど熱い。
モンスターは全て浄化され、カロリーヌはその場で倒れる。体力をかなり使ったようだ。こんなに強いなんて知らなかった……。
「もう……無理……」
その場で大の字になり、目を閉じて眠りにつく。もう疲れて動けない。
ザールはカロリーヌを抱え、全員でまっすぐ道を進む。