コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。レイミがガズウット元男爵を連れ帰って三日が過ぎました。ガズウット元男爵及び筆頭従士ニフラーの二人はシスターが秘密裏に処理してくれました。死体も遺されていません。
どんな手法を使ったのか気になりますが、怖いので聞かないことにしておきます。
ラメルさん、マナミアさんの情報部が十五番街で『血塗られた戦旗』の残党狩りを行っていますが、現時点ではガイアを含む三名の所在は分からないままです。
ただ、幸いなことに現在大規模な暴動などは発生していません。
『血塗られた戦旗』の所有する倉庫に山積みにされていた食糧を無償で配給した為か、治安も安定しています。どうやら食糧の配給を渋っていたようで、気前の良さを示すことが出来ました。
レイミ曰く、占領政策は極端な圧政かまるで赤ん坊を相手にするように甘くするか、どちらかしかないと。
統治をするつもりはありませんが、『血塗られた戦旗』を完全に壊滅させるまでは責任を持たないと。
とは言え、大規模な戦いはしばらく起きないでしょう。警戒は維持しつつも組織の拡大に邁進しなければいけません。
この日は一旦帝都へ戻っていた『ライデン社』の副社長マーガレットさんが再び来訪されました。今回は打ち合わせのためです。
「ごきげんよう、シャーリィさん」
「ごきげんよう、マーガレットさん」
黄昏には広大な空き地があり、まだまだ開発の余地がたくさんあります。
その一つにマーガレットさんを案内しました。
「ここが予定地、そう考えてよろしくて?」
「はい、その通りです。資材については此方がある程度は融通できますよ」
去年立ち上がったまま延期となっていた『ライデン社』の工場を『黄昏』に建設する計画です。
色々あって実行に移せませんでしたが、『血塗られた戦旗』との戦いが済んだので計画を一気に。
具体的には近日中に着工するまで進めたいと思います。
立地としては市街地より離れていますが、川の近くであり住宅地からのアクセスも悪くない空き地が選ばれました。
ここで生産されたものは、そのまま『暁』に販売されるので自前の工場を持つような感覚ですね。
「建材としては、黄昏の木材を使いたいのですが」
「もちろん構いませんよ」
最近ドルマンさん達が解析したのですが、『大樹』の影響下にある木材は恐ろしく頑丈で火に強いことが判明。建材としてこの上なく便利なものであることが判明しました。
コンクリートも建材としては優秀なのですが、道路の舗装を最優先にしているので後回しになりがちでした。
使えるものがあるなら使うまで。いつの間にか近くの森が影響範囲に入っていたので、そこで伐採を行うことになりました。
まあ、使えるものが増えるのは素直にありがたいです。
唯一問題があるとするなら、伐採する際に多大な労力を要するところでしょうか。
何せ普通の斧では斬り倒せないので、特別製の斧を使うか私が駆り出されます。
勇者の剣ならばどんなに頑丈でも斬ることが出来ますし、最近では斬る範囲を調整できるようになりました。
「では、直ぐに職人達を呼び寄せましょう。到着次第建設工事に取り掛かりますわよ?」
「スパイが紛れ込む可能性がありますから、うちからも人員を出します。了承していただけますね?」
「もちろんですわ。建材を用意していただけるならば、工期の大幅な短縮が期待できますわ」
「では、速やかに取り掛かってください」
「分かりましたわ。それと、これはお父様からの個人的なお願いなのですが……」
マーガレットが差し出した書類には、直線で最低一キロ、幅も同じ程度の土地を貸し出して欲しいとの要望が記されていた。
「これは?」
「分かりません。多分またお父様の悪癖関係だとは思うのですが……」
「周囲に障害物が存在しない開けた場所ですか。何を作るつもりなのでしょう?」
二人揃って書類を見ながら頭を悩ませるが、隣から覗き見たレイミが何かに気付く。
「これはまさか……飛行場?ライデン会長はライト兄弟を気取るつもりかしら?」
レイミの呟きに反応したのはシャーリィである。
「レイミ、意味が分かるのですね?」
「はい、お姉さま。石油の安定的な供給が果たされた今、ライデン会長は次のステップに進んだと言うことです」
「次のステップ、ですの?」
「つまり、飛行機械の開発ですよ。おそらく設計図は用意しているはず」
「「飛行機械!?」」
「はい。いわば、空を飛べる機械ですよ。ただ飛行機械、いや飛行機を運用するためには周囲に障害物が無い広い土地が必要になります」
「そのために黄昏周辺に作りたいと」
「そうだと思います。帝都近郊に適した土地が見付からなかったのでしょう」
またハヤト=ライデン個人としても、これまで新技術を確立してもことごとく理解されず妨害されてきたので、新技術に対して理解があり貴族や帝室の影響を受けないシェルドハーフェンの黄昏で航空機開発を本格化させたいと言う思惑もある。
「レイミ、受け入れた場合は?」
「お姉さまの全面的なバックアップがあれば、飛行機開発にも弾みが付くでしょう。そして実用化されれば」
じっと姉を見つめるレイミ。
「されれば?」
「あらゆる面で大きな戦略的優位を確立できるでしょう」
「あらゆる面で、ですか」
「『帝国の未来』にもあると思いますが、飛行機の潜在能力は軍事の常識を容易く覆してしまいます」
地球でも第一次世界大戦で運用が始まり、第二次世界大戦で飛躍的な発展を遂げた航空機の存在は、それまでの戦争のあり方を一変させてしまう程の潜在能力を秘めている。
「では採用しましょう。土地に関しては『ラドン平原』を開発すれば直ぐに用意できますので」
「シャーリィさん、魔物が居るのでは?」
「先のスタンピードでほとんど殲滅してしまいましたからね」
奇しくもスタンピードで暁が多数の魔物を討ち果たしたことでラドン平原の危険度は大幅に改善され、生き残った魔物達はシェルドハーフェンの遥か南にある『ロウェルの森』へと逃げ込んだ。
再び発生するには永い年月が必要であり、当分は心配無用とマリアが太鼓判を押した。
「ありがとうございます、その件も父に伝えておきますわ。シャーリィさん、今後とも良しなに」
「此方こそ。『ライデン社』とはより一層の強い関係を望みます。新兵器の類いはいつでも大歓迎です」
「もちろんですわ。工場の建設が順調に進みましたら、私も此方に常駐するつもりです」
「その日を楽しみにしていますよ、マーガレットさん」
知らず知らずのうちに取り込まれようとしているライデン社。マーガレットはその事に気付いているが、貴族達を相手にするより遥かに楽しいので否定をしない。
『血塗られた戦旗』との戦いに一段落付いたシャーリィは、次の段階へ進むべく『ライデン社』との関係強化を図る。
この決断は、後に『暁』へと大きなアドバンテージを与えることとなる。