朝、目が覚めたら超絶間近に好みのどストライクのお顔があって、
〝――っ!!〟
私は声に出して悲鳴を上げるのを、寸前のところでかろうじてこらえると、恐る恐るすぐそばにある宗親さんのお顔を眺めた。
(あーん、寝顔まで綺麗とか……どれだけハンサムなのっ)
もっとこう、明け方の男性っておひげとかちょっと伸びてきたりしてるものだと思ってたのに、宗親さんはそんなこともないみたい。
(何? この完璧さ……。やっぱり宗親さんってば人工物か何かなの!?)
ってお義父さまとお義母さまの愛の結晶だから……ある意味人工物か……などと馬鹿なことを考えてから、
(あ、待って待って。その論法でいくと私も人工物!)
と思い至る。
だけど当然、私はそこまで綺麗じゃない。
宗親さんと私の間には、芸術家が作った一級品と、素人が作ったやっつけ仕事くらいの差がある。
おひげの気配も感じない宗親さんと違って、私は寝起き、たまにヨダレの跡とかついてるしっ。
そこで私はハッとした。
(私、まさか宗親さんに寝顔見られてません、よ、ね!?)
自慢じゃないけど宗親さんみたいに美し〜お顔で眠れている気がしない。
今までは同じベッドで眠っていても、端っこに寄って彼に背中を向けていたから辛うじてセーフだったけど、今日はこんなにも間近で……しかも宗親さんの腕の中。
まさか半眼開けて寝ているとは思わないし、思いたくないけれど……。
(いや、まさか、ね)
絶対ない!って言えないところが怖くなる。
私は何とか寝起きのダメダメな顔面をそこそこ見られるぐらいに整えるため、そぉっと宗親さんの腕の中から抜け出した……――かったのに!
ゆっくりと身体を起こしたところでグッと腰に腕を回されて。
「にゃひっ!?」
今度こそ変な声を漏らしてしまって、宗親さんにクスクス笑われてしまった。
っていうかっ。
ふと見下ろした先、自分が全裸なことに気が付いて、私は慌てて布団を引っ張った。
「春凪ってば、そんなに僕の裸が見たいの?」
途端、宗親さんの身体を覆い隠していた布団を私が奪う形になってしまって、宗親さんの超絶引き締まった美しいお尻を見てしまった私は真っ赤になった。
(むっ、宗親さん、うつ伏せでよかった!)
じゃなくて!
「ななななっ」
うまく言葉が紡げなくて盛大にどもる私を、宗親さんが腰をしっかりホールドしたまま楽しそうに見上げてくる。
そうして、
「……なななな〜、なななな、軟骨!とか続けたいわけじゃないですよね?」
って、どこかで聞いたことのある、お笑い芸人さんの歌を口づさんだ。
私は意外すぎるその展開に、宗親さんをキッと睨み付けて。「宗親さんにジョイ●ンは似合いません!」ってケチを付けたらククッと笑われた。
宗親さん、絶対私の反応を楽しんでいらっしゃいますよね?
「春凪は僕が何をしても見捨てないでいてくれるんでしょう? こう見えて僕、お笑い好きなんですよ。春凪にだけ初めて明かす、僕のトップシークレットです」
って、そんな意外な告白、今は要りません!
下から見上げるようにして、みんなには内緒ね?って腰元でウインクされて、胸がキュンとときめいて。
思わず〝私だけ〟というところにほだされて「そうなんですかっ?」って食いつきそうになった自分をグッと制した私を、宗親さんが楽しそうに観察しているのを感じる。
「みっ、見ないでくださいっ」
その視線に耐えられなくなって――というか、まだ洗顔すら出来てないんだもん――ふぃっと顔をそらしたら、
「で、本当は何を言おうとしたの?」
そこでやっと私の腰から腕を離してくれた宗親さんが、ムクッと起き上がってすぐそばにあぐらをかいた。
目の端でそれを捉えた私は、
「――っ!」
素っ裸の宗親さんのあまりに堂々とした態度に、声にならない悲鳴をあげて、布団を頭から被った。
「な、んでっ。私たち裸のままなんですかっ!?」
目のやり場に困るじゃないですかっ。
ついでに言うと、こんな格好じゃ私、逃げたくても布団から出られないじゃないですかっ。
バフッと被った布団の中。
ドキドキしながら叫んだ私を、宗親さんがクスクス笑うの。
「何でって、あの甘ぁ〜い一夜をキミは忘れてしまったの?」
言いながら布団をめくられそうになって、中から必死に押さえて阻止したら、ますます楽しそうに笑われてしまう。
昨夜、私の前では素を出してくださいって言ったけど……言いましたけど……い、いきなり出し過ぎじゃないですかっ?
宗親さんの豹変ぶりに戸惑って、布団の中でフルフル震える私に、彼が言うの。
「昨夜途中で春凪が気を失ってしまったので一応ある程度は身体、清めてはおいたんですけど……お風呂、入りたいですよね?」
お湯はためてあります、とふわりと布団の上から優しく撫でられて、私はドキドキしてしまう。
身体を重ねたからでしょうか?
今日の宗親さん、やけに甘くないですか?
気のせいですか?
「む、ねちかさんは――」
もう入られたのですか?って続けようとしたら「僕もまだです。――心地よいキミの温もりから離れがたくて」って……私が言いたいこと、分かっちゃうとか凄いですし、ちょいちょい甘い言葉を挟んでいらっしゃるから恥ずかしくてとろけそうです!
「一緒に――」
「入りません!」
いくら何でもまだそんな恥ずかしいこと無理ですっ。
先んじて宗親さんの言葉を被せるようにして封じたら、「何で僕の言おうとしたこと、分かっちゃうかな?」って嬉しそうに微笑まれた。
布団の隙間からその笑顔を盗み見て、
(くぅーっ。宗親さん! ここでその〝腹黒くない〟笑顔は反則です!)
私は密かに悶えた。
***
結局宗親さんに先にお風呂へ入っていただいている間に、私は何とかベッド下に散らばっていた服をかき集めて身体を隠した。
そうして一人、薄暗い寝室で昨夜のあれこれを思い出して――。
(す、すごかった!)
何が、とは恥ずかしいから具体的には思い出さないようにしたけれど、とにかく色々すごかったのっ。
初めてだらけで私、どうにかなってしまいそうで――。
いや、実際、途中で意識が飛んでしまったのだから、どうにかなってしまったんだと思う。
これから先も、宗親さんと肌を重ねるたびにあんな風になるのかもしれないって思うと、ぶわりと身体が熱くなった。
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