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(……わ、私の胸、このままでもいいって言ってもらえた……ん、だよ、ね?)


今はすっかり元通り。

恥ずかしそうに引っ込んでしまった胸の先端を、パジャマを引っ張るようにして首元から覗いていたら「何してるの? 僕にも見せて欲しいな?」って声を掛けられて、飛び上がってしまった。


「なっ、何もしてませんっ」


慌てて逃げようと立ち上がった私の手首をギュッと掴んだ宗親むねちかさんが、そのまま私の手を引いて腕の中に閉じ込める。


お風呂上がりの宗親むねちかさんからは、石鹸とシャンプーのいい香りがして。


私はその香りにくらくらしてしまう。



春凪はな、キミがお風呂から上がったら、中途半端なままになっている指輪の話、今度こそちゃんと煮詰めようね?」


そう宗親むねちかさんがおっしゃって左手の薬指をなぞっていらして。

私はぼんやりした頭のまま、「はい」と答えてしまっていた。



それで今現在リビングで宗親むねちかさんとふたり。

初夜のあれこれで有耶無耶になった話を蒸し返すみたいに、指輪の話になっています。



***



「極端な話、偽装結婚な訳ですし、シルバーリングだって私は満足なんですよぅ」


言って、カフェオレの入った愛用のナマケモノ柄マグカップをギュッと握って眉根を寄せたら、「偽装だからこそ形式かたちが大事なんですよ?」と畳み掛けられてしまった。


またここでも宗親むねちかさんは「形から」。

婚姻届の提出の時に感じた切なさが胸の奥でチクリとうずく。


それで自然俯いてしまった私をチラリと見て、宗親むねちかさんも悪いと思ったのかな。


春凪はなの言いたいことが分からない訳ではありませんよ? ただ、これ以下のものではうちの母が許してくれないんです」


とどこか困ったように言われてしまっては、渋々ながらもうなずくしかない。


宗親むねちかさんの表情を見て、織田家おりたけ柴田家うちの格の違いを思えば、「ごうに入ってはごうに従え」は、〝偽装妻〟として守るべき最低ラインだよねと思い直した私だ。


それでも、私は言わずにはいられない――。


「でっ、でしたらっ……。こっ、この中でもなるべくお安いのでっ」


さすがに七桁は有り得ないし、せめて一桁下げて欲しい。そうお願いしたのだけれど――。



宗親むねちかさんとウダウダ揉めているうちに、〝何故か〟葉月さんが訪問していらして、彼女が懇意にしておられる宝石店を紹介されてしまった。


宗親むねちかさんめ!

絶対お風呂の時とか……私が目を離していたうちに葉月さんに連絡を取ったに違いないの!


さすがにそうなると引っ込みがつかなくなって。


宗親むねちかさんは「まぁ後手に回り過ぎましたし、せっかちな母からすると当然の流れでしょうね」と、困ったをしつつも、どこかで続けるの。


「断ると後々あとあとが面倒なので、ここで購入しましょう」


そんな、退路を断たれる形での、ゆるっとした流されモード。


そもそもお義母かあさま、入籍も済ませた後の嫁に婚約指輪は必要ないとかおっしゃらないの!?とそこも引っかかってしまう。


葉月さんに直接聞くのは何だかはばかられて、彼女が帰られた後で宗親むねちかさんにそう言ったら、「あの人も形から入る人ですから」って納得いくようないかないような微妙な答えを返された。


――形から、には順番は含まれないの?


などと思っている私に、宗親むねちかさんが追い討ちをかけてくる。


春凪はなは僕と話していた時、シルバーリングでも何でもいいみたいに言ってましたし、ここのブランドでないとダメみたいなこだわりはないんですよね?」


じっと目を見つめられて、グッと言葉に詰まった私に、「だったら、どこの指輪にしてもきっと大差ないですし、母お勧めの所でも大丈夫だと思うんだけどな?」と、微笑まれてしまった。


くぅー。私のバカっ! 要らないこと言ったりするから墓穴掘って言い返せなくなっちゃったじゃないっ!



***



結果、そのお店で婚約指輪のみではなく、結婚指輪までもが私のお給料のは優にポーンと飛んでいきそうなお値段のものを選ぼうとする宗親むねちかさんに、私は涙目で「後生ですっ! もっとランクを落としてください! 恐縮して指が腫れてしまいそうですっ」と懇願する羽目になりました。


だってだって! 普段使いにもなるであろう結婚指輪がとか、狂気の沙汰としか思えなかったんですもの!


そんなだったので、婚約指輪も軽く7桁超え半ばのを選ぼうとなさって。


私は丁重に、一般的な相場との擦り合わせ作業をさせて頂いたの。



もちろん、お家柄というのもあるでしょうし、そこはある程度考慮して、私の思いだけを全部押し付けることは出来ないとも思って。


結婚指輪が三十万、婚約指輪がその倍の六十万円を超えないことを目安に選びましょう?と提案したのだけれど。


昨今のそれらの相場が、結婚指輪だと大体二十万円以内(正直十万円以内でも素敵なのが沢山あるから、本音言うと私はそこのゾーンをゴリ押ししたいくらい!)、婚約指輪だと三十万円前後なことを思うと、これでもかなり高いと思うの。


なのに宗親むねちかさんはこれに関しては「〝織田家おりたけとしての格式〟も組み込まないといけませんから」と渋る素振りをなさって。


結局、「春凪はなには申し訳ないですけど、結婚指輪が五十、婚約指輪が百以上がとして譲れない線ですね」と私の譲歩額を更に引き上げていらした。



実際葉月さん紹介の宝石店ともなれば、その嫡男ちゃくなんである宗親むねちかさんが、あまりにもお安いものを選んだのでは示しがつかないのかも知れない。


そんなこんなで、今現在私の左手薬指にはまっているは、用途通りの役目は果たしていないくせに150万円近くもするもので……付けているだけで手が腫れてしまいそうで。


一体これをつけていないといけないんですか?と宗親むねちかさんにお聞きしたら、彼ってば意味深に微笑むだけで何にも指示してくれないの……。


宗親むねちかさん、貴方は一体何を考えていらっしゃるのですか?

好みの彼に弱みを握られていますっ!

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コメント

1

ユーザー

お金の価値観ってセレブと一般庶民とではかなり違うからねぇ😔

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