晩酌の刺し身を味わう間もなく、ビールで流し込む。「くぅー!たまんねぇ」
そう言ってまた1口。
静かに大根のつまが机に落ちている事にも、
気付いていないみたい。
僕は思う。
あんな大人にはなりたくないって。
地味に暑い不快感に目を覚ます。
隙間の開いたカーテンに、日は差し込んでいない。
「今、何時だ……」
昨夜は冷え込んで掛け布団を3枚も被ったのに、
今はタオルケット1枚で十分だ。
布団をはぎながら、枕元の時計を見る。
深夜2時。
嫌な時間だ。
なんだかトイレにも行きたくなってきた。
「いっかい行くか……1階だけにな……」
面白くもない捨て台詞を吐いて、階段を降りていく。
「さ、用も足したし戻るか……尿だけにな」
下品極まりない。
しかし、いつもならそれを止めてくれるはずの
悠希がいない。
二階建て2LDKアパートに俺と悠希で住んでいる。
部屋はメゾネット型。 もうひと部屋あるが、
明かりは付いていなかった。
1階に降りてきても見当たらないということは……。
俺は外に出た。
しかし、悠希はいなかった。
「あ、違うわ」
鍵を開けて外に出た事を忘れている。
鍵がかかったままなら、外にいるはずがない。
俺は2階のカーテンを開ける。
「やっぱり……」
突き出た屋根の上に、
1万ちょっとの安い望遠鏡に寄りかかっていた。
「おま……そんなとこで寝てたら風邪引くぞ」
窓を乗り越えて悠希に語り掛ける。
「大丈夫だよ。起きてるもん」
「いや起きてたのかっ……望遠鏡が彼女みたいに寄り添ってただけか?」
「うん、眠れなかったし、ただ布団で横になるのは暇だったし」
悠希の言い訳に文句を言っても、無駄なことは分かっている。
いくら屋根がせり出しているとはいえ、
いくら風はない星の観測びよりだからって。
「はいはい、分かった。でも、流石に外だ。危ない」
「はーい」
悠希は昔の俺とよく似ている。
俺が学生時代に親へおねだりした望遠鏡も、
深夜まで起きて星を見つめることも。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!