前夜の睡眠が明け方のみ、そして半年ぶりのアルコール摂取のためか、私はそのまま深い眠りについた。
体が痛くて目覚めたときには、座ったままベッドにもたれて寝ていたようだ。
ゆっくり伸びをしてから台所へ行き、お酒と暖房でカラカラの喉を潤すと時間を確かめる。
3時半か……身体中が乾燥しているみたいだな、とお風呂に入ることにする。
湯はりをする間にベッドに置いたままのスマホを見ると、1時くらいに颯ちゃんから
‘着いた。おやすみ、リョウ’
とメッセージが入っていた。
今日の仕事にちゃんと行けそうだね、良かった。
‘来てくれてありがとう。おやすみ’
もうすっかり寝ているだろうが、それだけ送るとお風呂に入る。
こんな生活リズムになることがまずは普通じゃないよね……きっと私は、周りにもこういうことをさせてしまっていたのだ。
そして今も尚……
お母さんたちにも会えると言えそうだ、と思って電話したけど、また逃げてしまった。
あの思いを直接受け止めるのは自信がないし、怖い。
チカさんが結婚出来ませんと言ったって……じゃあチカさんのご両親も‘あのこと’を知っているの?
見ず知らずの人に、可哀想な子とか結婚の障壁となる子とか思われてるのだろうか。
その後あれこれと考え始めた頭は、考えることを止めてくれずに一睡もしないままアラーム音を聞いた。
ノロノロと顔を洗い着替えていると、7時15分に
purururu………
「おはよう、颯ちゃん」
‘おはようじゃねぇよ、リョウ’
「うん?どうしたの?何かあった?」
朝から不機嫌な颯ちゃんの声に、やっぱり睡眠不足だよね……と思う。
‘何かあったのはお前だろ?違うか?’
「…別に特には……」
‘なら、何でぐっすり眠っているはずの3:42にメッセージが入ってる?何で朝起きたら電話と言ったのに電話して来ない?’
「ごめんなさい、颯ちゃん…すっかり忘れてました……」
‘チッ…すっかり忘れる何かがあったんだろ?’
「久しぶりにお酒を飲んだから、あのまますぐ寝てしまったの。喉がカラカラで目覚めたのが3時半くらいかな……だった。それからお風呂入っちゃった」
しばらく黙った颯ちゃんは、何を考えているのだろう。
もう出勤準備をしないと……と時計に目をやったとき
‘リョウ’
朝に似つかわしくない、やけに真剣な声が聞こえてきた。
「うん?」
‘昨日言っただろ?一生一緒にいると’
「…うん」
‘デートもキスもすると言ったが、楽しいことだけを一緒にするんじゃない。長い長い一生だぞ?悲しいことも辛いこともあるだろう…誰でも絶対にある。その悲しいこと辛いことも一緒に味わって経験して一生過ごすと…一生一緒にいるというのはそういうことだ’
そして
‘嫌なこと、辛いこと、悲しいことほど吐き出せよ。俺にだけは吐き出せ’
そう続けた。
「颯ちゃん……」
‘うん、どうぞリョウ…何でも言ってみ?’
先ほどまでの真剣な音色を甘く優しいものに変えた彼に、お母さんに電話したことと、その会話を伝えた。
‘それが事実、現実な。で?リョウはいろいろ考えて弱ってるってことだろ?’
「そう…かな?」
‘考えたこと、思ったこと…考えたくないのに考えたことと言うのが正解か……それを省略せず言え’
颯ちゃんの声に導かれるまま、考えることを止められなかったことを全て伝えた。
「頭では、そうじゃない大丈夫って思っても心が痛んだり、気持ちでは大丈夫ってわかっているけど、頭でぐるぐる考えることを止められなかった。でも今、少し落ち着いた気がする。颯ちゃん、言い逃げで悪いけど出勤準備しなきゃ遅れちゃう」
‘ああ、そうだな。昼休みに電話しろ。忘れんなよ’
私は電話の前にノロノロと準備していたのが嘘のように、素早くロールパンを口に放り込みながら牛乳をグラスに入れる。
本来、冷たい飲み物は好きではないけど、今はそんなこと言っていられない。
牛乳で口の中に残るパンを胃に流し込むと、簡単にメイクを済ませて部屋を飛び出した。
コメント
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そう、楽しいことだけを一緒に過ごすだけじゃないね。弱ってるときこそ分かち合えたらいいよね。それをしてくれのが颯ちゃんで今日も察して吐き出せてくれた。こんなに愛情深く真っ直ぐで、強い意志を持った人に大切にしてもらえる良子ちゃんは幸せꕤ︎︎·͜·気持ちを切り替えて出勤できそうだね☺️お昼休み忘れずに電話してよ〜!じゃないと颯ちゃん突撃してくるよ🤭