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フレアに案内されて廊下に出た来賓達は見た。
オスルェンシスとノエラに脱がされている、人型に戻っているアリエッタとニオを。
『ほぶゎっ!?』
見てしまった王子2人とミデア王妃が、血を噴き出しながら後方へと吹き飛んだ。
「なんでこんな所で?」
サンクエット王妃がその疑問をぶつけたが、
「えっ、なんでもう終わってるんですか?」
オスルェンシスもビックリしていた。
どうやらまだ食事は続くと思って、手早く着替えさせて4人まとめて寝かせようとしたらしい。アリエッタだけは起きたままだが。
「誰も来ないからって……」
「身内以外も男性も普段はここに入らないので」
「それに(密偵さん達も)皆様大人ですわ」
例のハニートラップで密偵にはディラン王子程の危ない人物はいないと判断。まだ年齢が1桁のニオと、ニオより少しだけ下に見えるアリエッタを見る目が完全に親や兄目線なので、エルトフェリア内であれば安心してどこでも着替えさせる事が出来た。
今回の誤算は、年齢の近い王子が2人いた事と、なぜか王妃が1人同じリアクションしたという事である。
「なんでお母様まで鼻血を?」
「あんな可愛い子達に興奮しないわけないでしょう」
「えぇ……」
「分かります」
娘の王女が引いているが、フレアは迷いなく同意。後ろで他の王妃達も頷いている。
「どんな服着せても似合うでしょうね。あんな娘が欲しかったわ」
「わたしを見てそんな事言わないでください! 確かにあんな妹欲しいですけど!」
ちょっぴり存在を否定された王女は、怒りつつも否定しきれなかったようだ。
そんなハプニングに遭遇したが、目的のドアは目の前である。あまり見ているのも2人の小さなレディに失礼なので、ここはオスルェンシスに任せてノエラと共にフラウリージェに入る事にした。
そこで困ったのが顔を押さえている2人の思春期男子。王妃達という壁が無くなったせいで、2人のあられもない姿が丸見えになってしまった。しかもドアに入る為には無防備な美少女達に近づかなければいけない。
3人の王女達はそれに気づき、ニヤリと笑った。
「あらあら、未来の王様が小さな女の子達を辱めるなんて」
「酷いですわねぇ」
「うぐっ」
ミデア王子は痛い所をつかれて呻き声をあげたが、サンクエット王子は違った。
「ニオ嬢の責任は喜んで取らせていただくっ」
『ちょっと待てい!』
恥ずかしがってはいるが、思ってた反応と違い、王女達は声を揃えてツッコミを入れていた。
「一応私の嫁ぎ先に、サンクエットも候補に挙がってるんで、やめてもらえますか?」
「そうですよ。わたしの候補にもあるので! そりゃ恋愛には憧れますけどっ」
「え、あの、はい」
流石王子、モテモテである。
ユオーラとミデアの王女が慌てて止めたのには理由がある。
まずは政略結婚で他国に嫁ぐ事で、その国との友好条約をより強固にする目的。2つ目はサンクエット王子の評判が良い事。そして、実際に見て格好良いと思った事である。
そんなイケメン王子が、有名店とはいえ服屋で働く少女を見初めてしまったので、焦りを感じたのだ。
「ニオさんは確かに可愛いですが、あまりデレデレ見つめるようであれば」
「わたし達が王子のお尻をシバきますわ!」
「なんで!?」
サンクエット王子の罰が増えた。
「ついでにお前もね」
「やめてください姉さんお願いします限界なんですっ」
ミデア王子も巻き込まれた。
2人の王子は王女3人に包囲されながら、フラウリージェへと連行されていった。
ここで丁度ニオが目を覚ました。
「ん、あれ? ぎゃあああ!!」
と思ったら、アリエッタを見て悲鳴を上げた。
(そんなに驚かなくても……)
「ニオ、ニオ」
「ひっ、ごめんなさいごめんなさいいいい!!」
声をかけたオスルェンシスにも怯えて謝りだす始末。
ちょっと傷ついたオスルェンシスは、息を吐いてから優しくニオに触れ、語り掛ける。冷静じゃない今なら、もしかしたら本心しか漏らさないのではという下心を持って。
「魔王になるってどういうことですか?」
「うち、死ぬ前に魔王やってたことがあってぇ。それでもうなっちゃダメですよって神様に言われてぇ……」
(おおぅ、思ったより変な話に)
そんな魔王の話に、オスルェンシスは1つだけ心当たりがあった。
「その魔王って、魔王ギアンのこ──」
「はいそうなんですっ! 悪い事いっぱいしてしゅみませんでしちゃっ」
予想が当たってしまい、オスルェンシスは絶句。被せてきたカミカミの謝罪にツッコミも出来ない。
(そういえば夢で酷い目に合ってって……まさか)
その事に気づいてからは、アリエッタや自分達が異様に恐れられる事に心当たりしかない。
「魔王って事は両親には?」
「言ったけど信じてくれませんでした……」
(言ったんかい!)「それでは、夢の事は誰かに話した?」
「ひうっ! ごめんなさい、ここを探す為に顔の特徴とか沢山の人に話しましたっ」
「ああ、それで……それなら仕方ないね」
元々夢で見た自分達を手掛かりに、エルトフェリアに辿り着いたのだ。話していて当然である。
そもそもが夢の話なので、信じる信じないよりも「変な夢見たねー」で済まされる話だった。
「えっと、魔王の事は誰も気にしてないから大丈夫だけど、ニオはこれからどうしたい?」
「誠心誠意働かせていただきますう!」
言うと、ニオは慌ててフラウリージェへと飛び込んでいった。着替え途中の薄着のまま。
「いやそういう事じゃなくて……」(今の、罪滅ぼしというよりは、怯えて働いている感が凄かったなぁ)
フラウリージェからドア越しに聞こえるサンクエット王子の悲鳴と、必死で働こうとするニオの魂の叫びを聞きながら、オスルェンシスはアリエッタに服を着せた。家のベッドで寝てもよし、寝られないならフラウリージェに戻ってもよしの、シンプルなワンピースである。
ただしフラウリージェに戻ったら、色々着せ替えられてしまうが。
「ま、ネフテリア様に報告するにも、まずはあの2人を寝かせてからだな。帰るよアリエッタちゃん」
「はいっ」
ともかく、今はミューゼとパフィを家に捨て……もとい寝かせたいオスルェンシスであった。
「そう、ニオは魔王ギアンの生まれ変わり……はぁ~」
頭の上で花を踊らせながら、1人寂しく食卓の片づけをしていた王女ネフテリア。普段手伝ってくれるフラウリージェ店員は、現在来賓達の相手をしているのでここには来られないのだ。
オスルェンシスの報告を受けて、大きなため息を吐いた。
「わたくし達が怯えられるのは間違いなく……」
「ドルナ・ギアンが原因ですよね」
「それしかないわ」
かつてシャダルデルクで戦った魔王ギアンの夢。生まれ変わりとはいえ、本人がその夢を見ていたとしたら、あの時の戦いはニオ側からしたら恐怖でしかないだろう。
まぁ分離したうえに消滅までした夢が、あそこまで本体の心にダメージを負わせている原理は、人であるネフテリア達にはまったく理解出来ない。しかし、夢の神と女神の娘による被害なので、経緯を理解するよりも結果だけを見て「そういうものだ」と納得した方が、人であるネフテリア達にとっては気が楽なのだ。
「見た目の歳が近いからってアリエッタちゃんを近づけようとしたけど」
「あの攻撃と消滅の結末ですからねぇ。しかも生まれ変わったせいか気が弱いですし」
「でも手放したくないし、克服してくれたら嬉しいなぁ」
2人は『生まれ変わり』という事もあっさり受け入れた。身近に神が増えたので、それくらいでは動じないのだ。
どちらかというと、前世の記憶を持っているという方に問題を感じているが、本人の様子では過去の状態に戻る様子も無い。
「生まれ変わったら、性格も性別も変わるもんなのかしらね?」
「そういう事もあるんじゃないでしょうか。ネフテリア様の前世だって、もしかしたら女々しい雄のトトネマかもしれないですし」
「人ですらない!?」
「虫の方が?」
「なんかヤだ!」
前世や魂というものが誰にでもあるとしても、前世が何者で何をしたかなどというのは、雑談時の話題性以外はどうでもいい……というのがネフテリアの持論。今世は今世、前世は前世という事である。
しかし記憶があるという事で問題が生じてしまう。それが歴史に名を遺した人物であれば、その知識だけでも国に与える影響が大きいのだ。
「とりあえず、ニオには魔王の事を話さないように言い聞かせないとね」
「こういう時、アリエッタちゃんみたいに言葉が分からない方が幸せでしたねぇ」
「アリエッタちゃんの前世って、絵を描くのが得意な人だったのかしら」
「ミューゼさんの事好きになってるので、男性だったりして?」
「おお、いいわねそれ! ちょっと捗るわぁ」(女神に前世とかあるのか分からないけど)
「じゃあミューゼさんの前世は……」
「きっと綺麗なお花よ」
アリエッタについては正解しているが、それは神ですら確かめようが無い事実(エルツァーレマイアは除く)なので、正解している事には気付けない。
前世についての妄想談義をしながら、2人はせっせと部屋を片付けるのだった。といっても、食器を集めて運びやすくするまでだが。
「これでよしと。それじゃあナーサに知らせてきますか」
「自分はフラウリージェに向かいますね。ニオとアリエッタちゃんが気になるので」
「あれ? アリエッタちゃんは寝てなかったの?」
「元気だったので。ピアーニャ総長を手伝うつもりのようでした」
「そっか。さすがお姉ちゃん」
世話好きのアリエッタなら、そのように行動しても仕方ない。大人に出来る事は、優しく見守る事のみ。女神の娘が喜ぶならば、年長者のストレスなど些細な事である。
廊下に出ると、フラウリージェの方から笑い声と悲鳴が聞こえてくる。フレアとアリエッタが絶好調で来賓達を笑わせているようだ。
「……楽しそうで何よりだわ」
「外交の教育って、こんなんで良いんでしたっけ」
相手方に失礼の無いようにするという点では理解出来るが、こんな特殊なケースで躾ける意味はあるのかと、ネフテリアの頭を見ながら思うオスルェンシスであった。