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登場人物
藤本博雅(ふじもと はくが)
川上明 (かわかみ あきら)
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川上 明が目を覚ましたのは、真っ白な天井と消毒液の匂いの中だった。
「……ここ、は……?」
明は全く思い出せず、考えるほど頭痛がして声はかすれ、視線は揺れている。
ベッドの横で、博雅は息を呑んだ。
「明……!目、覚めたんだな……!」
名前を呼んだ瞬間、明の肩がびくりと跳ねる。
まるで、そこにいる博雅が“恐怖の対象”であるかのように。
男性……そう、事故に遭った原因。それだけは信じられないくらいにはっきりと覚えていた。
「……っ、来ない、で……」
その言葉に、博雅は責任と罪悪感に心臓を握り潰されたような痛みを覚えた。
泣きそうな顔を引き攣らせて、なんとか笑顔を浮かべる。
「大丈夫だよ。……俺は、博雅。お前の――」
そう続けようとした言葉。
「恋人」という真実は、明の瞳に残る怯えを見て、喉の奥で凍りついた。
(俺のせいだ。全部……)
事故のライト。
衝突音。血。
最後に見たのは、動かなくなった明。
その結果が、これ――。
医師が言っていた。
記憶喪失になっていること。
そして、“男性に対する強い恐怖心”が残ったことを。
博雅は拳を震わせ、その感情を押し殺す。
「……俺たちは、親友だ」
はっきりと、ゆっくりと言う。
自分でも驚くくらい、優しい声で。
「無理に思い出さなくていい。また、一緒に作ればいいんだ。……親友として」
明は怯えながらも、少しだけホッとした表情を見せた。でも体の震えは止まらなかった。
「……友達……なんだ」
その小さな安心の欠片に、胸が痛む。
好きだ。触れたい。抱きしめたい。
でも、それは全部、明を傷つける。
だから嘘をつく。
「うん。俺はお前の親友。……ずっとそばにいる」
声が少し震えていたことに、明は気づかない。
博雅は決意する。
恋人の代わりに、“親友”として明を守り続けることを。
たとえその嘘が、自分を壊してしまっても。
俺には………恋人の資格が無いから……