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ある日の夕方、鍛錬帰りの不死川実弥は、炊事場から漂う香ばしい匂いに足を止めた。
「……ん?」
ふらりと覗き込んだそこには、派手にエプロンをつけた煉獄杏寿郎がいた。
羽織も脱いで腕まくり、顔には粉までつけている。
「おぉ、不死川! ちょうどいいところに来たな!」
「……なんだその格好。……何してんだよ」
「ドーナツを作っていたんだ! 任務帰りの皆に振る舞おうと思ってな!」
「……はァ?」
実弥の目が点になる。
鬼を斬る風柱にとって、ドーナツなど縁があるようでまったくなかった。
「手伝え! お前、こねるの得意だろう?」
「誰が得意だっつった! ……けど、まぁ……暇だから手ェ貸すだけだ」
言い訳をしながら、エプロンを手に取る実弥。
まぜたり、丸めたり――
気づけば二人で粉まみれになって笑っていた。
ドーナツが揚がるころには、外はすっかり夕焼け。
煉獄が一つ差し出した。
「ほら、不死川。お前の初ドーナツだ!」
「……なんか、ふにゃってしてんぞ、これ」
「揚げすぎだな! だがそれもまた一興!」
実弥はぶっきらぼうに受け取って、一口。
「……あっつ……でも、悪くねぇ」
「そうだろう! 甘いものは心に効く!」
その言葉に、実弥は少しだけ、笑ってしまった。
(うるせぇのに……なんだか、あったけぇ)
その後、柱たちがひとり、またひとりと戻ってきて。
台所は、甘い香りと笑い声で満ちたのだった。