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その後はもう、何と言うか……酷いなんてもんじゃなかった。
「ぐっ!?」
「よっしゃぁっ!」
乱戦も乱戦、というか連戦。
どうにか指示に従いながら移動を続けているものの、行く先々でプレイヤーと遭遇。
流石に疲れて来て、集中力が切れて来たのが分かる。
ほんのちょっと囲まれただけなのに、対処が雑になって背中に銃撃を受けてしまった。
とはいえ、防弾スーツのお陰で即死判定にはならなかったのは助かった。
もう一度集中し直して、撃って来た相手にすぐさま接近しゼロ距離射撃。
その際向こうの武器を奪って、周りに向けて乱射。
これによって相手は一定の距離を置きながら物陰に隠れ、一旦時間を作る事が出来た。
更に追加で進行方向から飛び出して来たプレイヤーに向かって、奪った銃を投げつけてからハンドガンで撃退。
しかし。
「チッ……弾が」
残り少ないマガジンを装填してから、その場を離脱。
これまた建物に飛び込んでみると……あぁ、不味い。
入った場所が悪かったとしか言いようが無い。
ここ、なんか工事中……というか、リフォーム中? みたいだ。
お陰で建物内には誰の姿も無い。
つまり、プレイヤー側からしても思う存分に戦える環境だという事。
『二階に上がれ! そのまま突き抜ければベランダから逃走可能!』
兄の言葉に従って、建物内を全力疾走。
後ろからは追って来るプレイヤー達が、乱暴に扉を蹴破りながら入って来る音が聞こえる。
しかし確認している時間などある筈もなく、構わず背を向けたまま走り続けたのだが。
再び、背中に衝撃。
「がっ!」
『足を止めるな! 回復アイテムを使うにも時間が足りない!』
という事で、どうにかそのままダッシュ。
やばいやばいやばい、HPゲージも半分を切った。
例え満タンであっても、頭とかに攻撃を貰うと一瞬でゼロにはなるけど。
このままでもジリ貧なのは確か。
もはや疲れすぎて、イベントが始まってからどれくらい時間が経ったのか分からなくなってきている。
なんとか弾の消費を抑えようと、可能な限り相手の武器を奪いながら戦闘を続けているのだが。
都合良く私の得意な武装を相手が持っている筈もなく、慣れない武器は殆ど牽制程度にしかならない。
私がたくさん倒しても意味のないイベントだというのは理解しているけど、それでも倒さないと逃げ切る事など不可能。
結局は自分の銃を使う事になり、マグチェンジしてから残っているマガジンを確認してみると……うげっ、予備はもう一本しかない。
今装填されているものが一つと、予備の銃が一丁。
腰の予備も合わせて、計三本分のマガジンしか残っていない。
この状態でまだまだ時間がありますとか言われたら絶望的なので、兄に対しても残り時間が怖くて聞けない。
一回リスポーンしてしまえば、最初の段階同様に武装は戻って来るって言われているけど……これを利用して戦略に生かすのは、プレイヤー側だ。
こちらは仕事で、しかも“賞金首”としてやっている以上、負ける事自体が本来タブー。
ましてや自分から死に戻りして準備を整えるなんて、NG行為以外の何でもないだろう。
コレはゲーム、だからこそそこまで難しく考えなくても良いのだろうが。
どうせやるなら、“楽しい”方が良い。
ゲームはロールプレイング、このキャラクターは私自身。
だったら私は、楽な方向へ逃げたくない。
仕事を受けたからには全力で、絶対に1キルも取られないんだという気持ちでイベントに挑まないと嘘だ。
なので、どうにか生き足掻きながら後ろに向かって何発か発砲。
当然当たる筈もなく、少しだけ相手の銃撃が止んでもすぐに再開される。
うわぁぁぁ! これは本気でヤバいかもぉぉぉ!
なんて、心の中では泣きそうになったところで。
『作戦変更! 左手に見える窓から全力で跳べ! 思いっ切り! あとは祈れ!』
兄の叫び声が聞こえ、窓に向かって数発発砲してから……何も考えず、建物の外へと飛び出した。
すると。
「ちょっ……ちょぉぉ!?」
『どうにか、乗れ。コケるなよ?』
このキャラクターの高い身体能力のお陰で、結構な距離まで飛び出した私の視線の先。
そこを……電車が、通過しているのだ。
いやいやいや! 無理だって流石に!
とかなんとか思っている間にも、走行中の電車の天井が迫り。
「がっ!? ぶっ!」
『耐えろ! しがみ付け!』
ズドンッ! と凄い音と同時に、電車の天井に衝突。
それどころか、走行中の電車なのだ。
当然綺麗に着地出来る筈もなく、天井の上をゴロゴロと転がっていく。
速度はそれなりだったみたいだけど、それはもう盛大にゴロンゴロン。
むしろふっ飛ばされなかっただけ奇跡だ。
必死に両手両足を広げ、転がる身体を天井にへばり付けてみれば。
「……ぁっぶなぁ!?」
ギリギリ、本当にもうちょっとの所で。
履いている革靴の踵が、天井の出っ張りに引っかかって止まった。
映画では電車の上で戦ってるアクションとか見た事ある、けどね……無理だコレ。
立てないよ、立ったら多分風圧で吹っ飛ぶよ。
どうにか電車の天井にへばり付きながらも、ずりずりと這い蹲って天井の真ん中あたりまで移動してみると。
『お疲れ、しばらくは大丈夫だ。今の内に回復しておけ』
「りょ、了解……」
落下の衝撃でHP全損しなくて良かった……とか思っているのは私だけでは無いらしく。
兄の方も、物凄くホッとした様な声を上げているのが分かる。
そのまま指示に従って、アイテム欄から回復薬をコンバートしたのだが。
「あっ」
腕に押し付けてプシュッとする様な、なんか医療機器みたいな回復アイテム。
それが、コンバートした瞬間に後方へと吹っ飛んで行った。
もちろん、風圧で。
『…………数、そんなに無いから。大事に使え、な?』
「ご、ごめん……」
仕方ないじゃん! とか言いたくなったけど、今度は飛んで行かないように気を付けつつアイテムを使用。
視界端のHPバーが、徐々に回復していくのが見えるが……全回復とはいかない。
『HPと防御に結構数字を振ってるからな、一本じゃ足りないか』
「あぁぁ……弾も無ければ回復薬も無くなるよぉぉ……」
本気で泣きそうになりつつ、また一つ回復アイテムを使用するのであった。
こんなに頑張って回復しても、頭とか心臓撃たれたら即死。
致命傷になりそうな場所に傷を受けても、物凄い勢いでHPが持続的に減るのだ。
今更過ぎるけど……このゲームってホント、かなり鬼畜仕様だよね。
防弾装備着ていてもダメージ蓄積するのに、直接受ければ大ダメージどころの騒ぎじゃないし。
さっきの落下ダメージと、電車の上で転がったせいでこれだけボロボロになっているのだ。
こういう回復アイテムだって、本当に“御守り”みたいな物だよホント……無いと困るんだけどさ。
はぁ……と情けないため息を零して、何本かの回復アイテムを使っていくけど……ホントこれ、生き残れるのかな?
◆
プレイヤー同士の交流掲示板が、完全にお祭り騒ぎになっていた。
各賞金首の名前でスレットが立ち上がり、街中で発見した場合にはとにかく情報交換が行われている。
「4件目……いや、5件目か? 討伐報告上がってんな」
「これだけの時間やって、しかもこんな数のプレイヤー相手に全体で5回しかやられてないって何だよ。マジの化け物連中じゃねぇか……あぁいや、スレを遡ってみるとまだあるな。とはいえ、マジで少ないけど……」
現状戦闘に陥っていない面々同士で集まり、ゲーム内の端末でそれらを確認していた。
何人かは討伐され、再び発見されたという報告も上がっている為、賞金首もリスポーンするというイベントなのは確定。
倒した人物によってドロップするアイテムや武装も異なる様で、相手の武器を手に入れたと自慢しているプレイヤーも度々見かけられる。
投稿された武器データを見るに……“ぶっ壊れ性能”という訳ではなさそうだが。
しかしまだユーザー側では流通していないカスタムモデルではある為、かなり価値は高くなるだろう。
今の所確認されたのは、サブマシンガンとアサルトライフル。
つまり、他の武装を得意とする面々は未だ一度もやられていないという事。
流石にコレは……ぶっ壊れ性能のアバターか? なんて疑いたくなってしまうが、実際に戦闘してみるとよく分かるのだ。
アイツ等は、ごく普通に戦闘している。
しかも、もし。
もしも賞金首がドロップ品と全く同じ物を使っているのだとしたら……やはりあの10人の強さは、各々のプレイヤースキルによるもの。
向こうからすれば「ふざけんな」と言える状況の祭りだろうに、討伐したという報告があまりにも少ないのは異常過ぎるだろ。
このゲームにおいて、一番のアドバンテージになるのは“銃火器に対する慣れ”と、自らのアバターをどれだけ動かせるかという“感覚”。
そしてこれらは、フルダイブにおいて誰もが苦労するポイントでもあるのだ。
人間は、自らの身体以上の動きは簡単に出来ない。
脳みそが勝手にセーブを掛けて、無意識の戸惑いが生れる。
コレが発生すれば、アバターでは再現可能な動きだって、本人側の問題で失敗するという訳だ。
それが分かっているからこそ、賞金首達の働きにはゾッとするというもの。
「こりゃ本気で、運営は“プロ”を雇ったとしか思えねぇな……」
そんな訳で、思い切りため息を零しながら端末で時間を確認。
イベント時間も残り僅かとなって来ている。
自分も最後に一花咲かせるくらいはしたいのだが……こんな事を思っているプレイヤーは、俺だけじゃない筈。
というか、周りで情報を集めている奴等だってそうなのだろう。
誰もが必死に情報をまとめ、ここから一番近くに居る賞金首を探していた。
「“seven”が近くで暴れてるって書いてあるな……行くぞ! アイツをキルすれば、向こうが使ってるP90がゲット出来るかもしれねぇ!」
「またアイツかよぉ……イベント開始直後に狩られて、結構トラウマなんだけど。セブンの動き、マジで頭おかしぃよ……」
なんて言葉を残しつつ、何チームか移動を始めた。
現状俺達が集まって居るのは、時計塔の広場。
闇雲に探しても無駄だし、いきなり遭遇してもやられるだけってのは良く分かった。
だからこそどうにか、即席でも良いからパーティを組んで対抗しようかと思ったのだが……報酬の分配が難し過ぎる為、急ごしらえでは中々話がまとまらなかったという訳だ。
なので普段通りの仲間達とどうにか集合したい所だけれども、こうも広いフィールドじゃなかなかどうして難しい。
そう言った事情で、結局誰もがバラバラに動き始めるが。
「どこだ……どこに居る、“シックス”」
必死で端末をいじくり回しても、なかなかアイツの目撃情報が更新されない。
ひたすらに追いかけて、結構良い所まで追い詰めたと思ったのに。
あろうことか、電車に飛び乗って逃走するという。
本当に映画の主人公かよ! とか言いたくなってしまったが、結局そのまま相手を見失ってしまった。
次の駅で多少の目撃情報が上がっていたのだが……その後、討伐したという報告も発見したという報告も無し。
ここに来て全員の視界から外れ、ステルス戦特化らしい動きを見せ始めたという訳だ。
ただ登場時から、何やら一直線に此方の方向を目指していた様な気がした為。
この場で試しに待機してみたのだが……そろそろ動かないと、イベント時間が終わってしまいそうだ。
もう一度ヤツと戦ってみたい。
どう見ても不利な一対多の状況で、しかも武装はこっちより何倍も弱い筈の賞金首。
だというのに、何故か狩れない相手。
気付いた時には仲間達や、行動を共にしていた奴等がバッタバッタとやられているという。
まるでブギーマンだな、こりゃ。
どっかの国の都市伝説みたいに、ひたすらに恐怖を振り撒く狩人。
本来は悪い子の元に現れるらしいけど、ゲームの世界観からすれば俺等全員が“悪い子”に当てはまる訳で。
思わず、ククッと引き攣った様な笑みがこぼれてしまったが。
「な、なんだっ!?」
このタイミングで、短い銃声が数発分。
単発射撃、銃声からしてそこまでデカイ武器じゃない筈。
そこに残った僅かな面々が、慌てて音がした方向へと銃口を向けてみると。
視線の先には……スーツの男が無表情で立っていた。
足元には、早速やられたらしい三名程のプレイヤーが転がっている。
おい、おいおいおい。
マジかよ、このタイミングで現れてくれるのかよ。
自然と吊り上がった口元を隠しながら、ブギーマンに向かって一気に突入した。
アイツの戦法は逃げながら戦う事、狭い位置で相手の自由を奪う事。
そういう場所なら、相手が得意とするハンドガンが最大に輝くポイントだから。
だったら――
「こうも広くっちゃ、お前の特技は生かせねぇよなぁ!? “シックス”!」
相手はまず“逃げる”、絶対にそういう行動に出る。
これまでの経験からそう予測したからこそ、思い切り興奮しながら周りの者達と一緒に駆け寄った先で。
パタッと、先頭に居た一人が倒れた。
……は? キルされた? 誰に?
などと一瞬だけ全体が混乱した瞬間、ブギーマンが自ら俺達集団の中へと駆け込んで来たではないか。
「いやいやいや! 嘘だろ!? この状況で正面から――」
手前に居た二人を素早く片付けたかと思えば、もう一人に向かって御自慢のハンドガンを投げつけ。
顔面にヒットさせたと同時に、ソイツを盾の様にして此方に向けて来た。
だが俺達は仲間という訳じゃない。
だからこそ、一緒に撃ち抜いてやる! くらいの気持ちで銃口を向けたのだが。
「速っや……」
どうやらもう一丁隠し持っていたらしい。
先程投げたハンドガンと同じ物を構えると同時に、またやられた。
もう残っているのは、俺ともう一人……も、隣でいきなり倒れた。
本当にどうなってんだよ! なんて叫ぼうとしてみれば、盾にしていたプレイヤーを押し付けられ、そのまま二人一緒に地面に転がされてしまったではないか。
そして、その上に膝を乗っけたスーツの男は。
「私の勝ちだ」
此方の上に乗っかった奴と、俺の額に向かって。
一発ずつ銃弾をぶっ放して来たのであった。
撃たれた後、徐々に暗転する視界の中……僅かに、遠くの建物の屋上で。
キラッと何かが輝いたのが見える。
いやぁマジか、狙撃か。
今のシックスには、他の賞金首からの援護射撃が付いてたのか。
だから真っ向から、しかも広い場所でも攻めて来た。
は、ははは……こんなゲームで、すげぇ度胸。
とはいえ……賞金首がタッグ組んで攻めて来るとか、流石に考えて無かったわ。
だが、とんでもない経験を味合わせてもらったのだけは、確かなのだろう。