「合格だ」
リリーさんの言葉に、歓喜の声が草原に響いた。
「やったですっ!!」
「おめでとうございます」
保育園児達が保育士聖奈に賞賛の言葉と共に駆け寄る。
「セイくん!やったよ!」ガシッ
「お、おう。おめでとう」
何故抱きつく…お姉様に勘違いされるだろ!?
まさか…それが狙いか…?
「次はミランだ」
「はい。準備出来ています」
ミランも心配ないな。こういう時は調子に乗らなければ俺達の中で一番堅実だからな。
調子に乗れば一番危険だが…若いから仕方ない。
ミランもすぐに帰ってきた。もちろん合格だ。お姉様は帰る度に唇が紫色になっているが…大丈夫なのか?
焚き火にあたり体温を戻すと、すぐにエリーを連れて試験へと向かっていく。
ちなみにここは野営地より湿地に近い場所だ。
野営地にはマークさんが荷物番を買って出て残ってくれている。
「大丈夫でしょうか?」
「ん?大丈夫だろ?エリーは魔法も銃も使えるから」
「セイくん。魔力視と魔力波でひっきりなしに確認してる人のセリフじゃないよ?」
やめて!ミランにはバラさないで!
だって心配で何もしないなんて無理なんだから!
もちろんミランの時も確認しました。
暫くすると、エリーも無事に帰ってきた。
「お疲れ様!そしておめでとう!」
聖奈さんが口実を見つけて、少女達にハグの攻撃をここぞとばかりに決めている。
「あ、ありがとうございます!私はCランクではなくDランクですけど…」
「それでもだよ!飛び級なんてすごいよ!」
聖奈さん。それはあなたの口で勝ち取ったものだよ?
組合長も最後は『はい…』しか言ってなかったじゃないか。かわいそうに……
「よし、全員合格だ。戻るぞ」
「「「「はい」」」」
俺達はマークさんが待っている野営地まで戻って行った。待っていたのはマークさんではなく、トラブルだったが……
「どう見ても縛られてるよな?」
草原にしゃがみ、身を隠しながら双眼鏡を覗いた。
「そうだね。でも、野盗じゃなくない?」
「アイツらは…冒険者だな」
リリーさんの言葉にミランも頷いている。
確かに装備の感じがそれっぽいな。俺にはまだまだ野盗と冒険者の装備の違いはわからんが、二人がそう言うのなら間違い無いだろう。
「ど、どうするですっ!?魔法を撃ち込みますっ!?」
「やめてくれ…マークさんが死んでしまう…」
エリーはここぞという時にミスを犯すからな。間違いなくマークさんが犠牲となるだろう。
本人はわかっていない表情をしているが、それが尚更タチが悪い。
「セイ達は遠距離攻撃が得意だよな?それで数を減らしたら私が斬り込もう」
作戦を伝えるとリリーさんは腰の剣に手を添えるが……
「ここからあそこまで走って間に合いますか?」
それはマークさんが盾にされないか、ということだ。
マークさんが生かされているのは人質として利用する為だろう。他に理由が見当たらないしな。
「…無理だろうな。マークは自分でどうにかしてもらうしかない…」
その言葉を聞いて、俺は皆んなに視線を送る。
「いいよ」
「気をつけて下さいね」
「が、頑張ってください!」
三人から了承の言葉を受け取る。
「なんだ?何かあるのか?」
「あります。マークさんを助ける方法が。但し、これからすることはたとえ相手が組合長だとしても伝えないと約束してください」
リリーさんは暫く考えた後。
「わかった。墓場まで持っていくと約束しよう」
姉御!素敵!!
「わかりました。では、作戦を伝えます。・・・」
・
・
「そんな事が…いや、ここで嘘をついても意味がないな。わかった。信じよう」
よし。後はタイミングだ。
「俺はきっちり2分で転移する。だから発動5秒前くらいに攻撃してくれ」
「わかったよ。気をつけてね」
「死なないで下さい…」
「えっ!?死ぬですっ!?」
エリー…殴ってもいいよね?
「修行の成果を見せてやる。俺は近接も出来る様になったからな!」
遂に、身体強化魔法のお披露目だ!!
えっ?解体の時に使ったって?
あんなのは…アレだ…アレだよアレ!!
「よし!始めるぞ!リリーさんは肩にでも掴まっててくれ!」
「あ、ああ」
しまった!距離が近すぎて、柔らか……
ブルッ…なんだ寒気が……
こんなアホな事をしていても、きっちり2分で詠唱出来るとは…慣れたものである。魔導書は手放せないけど。
パンッパンッパンッ
『テレポート』シュンッ
「うおっ!ホントに移動したぞ!?」
驚いてキョロキョロしているが、身体を離さないので柔らかい部分が……
「マークさんのところへ!」
俺が声を掛けると、リリーさんは我に返り走り出した。
流石に速い!
俺も身体強化魔法を使いそれに追従した。と言っても、10メートルも離れていないが……
「マークさん!大丈夫ですか!?」
縛られていたロープはリリーさんが剣を一振りすると外れた。
何それ!?カッコいいんですけど……
俺もしたい…でも、怖いからされたくはない……
「大丈夫です…助かりました。いきなり後ろから殴られて…気付いたら縛られていました」
side聖奈
聖くんの詠唱が終わる。今だ!!
パンッ!パンッ!パンッ!
私達は引き金を引いた。
やった!全弾命中してる!
聖くんの魔力波では5人いるはず…どこだろう?
「当たりましたね。後の二人は姿が見えないので、馬車の死角にいるのでしょうか?」
「そうかもね。私達が行っても足手纏いだから、ここから援護できそうならしようね。もちろん二人に当てないように」
「もちろんですっ!」
エリーちゃん。最後の言葉は貴女に向けたものだよ……
「一先ず3人は死んだか無力化は出来ているので、後は二人に任せましょう」
流石ミランちゃん。初めから援護なんて言わなければ良かったんだね……
side聖
「他の奴らはどこだ?」
「馬車の中のようです。わざとマークさんを見える位置に放置して、俺たちが来たところを不意打ちする予定だったんでしょうね。
今は馬車の中で動きがないようです」
魔力波でなくとも目と鼻の先にある馬車の中、魔力視に二人の魔力が視えていた。
「出て来い!さもなくば火を放つぞ!」
えっ!?それは困るんですけどっ!?
リリーさんの叫びを聞いた冒険者が出てきた。
どうやら遠距離攻撃を警戒しているようだ。
「うるせー!出たところを魔法で攻撃するつもりなんだろ!?」
「馬鹿めっ!それならそこに篭って生きながら燃やされればいい!!」
その言葉が決定打となったのか男達は馬車から飛び降りてこちらに斬りかかってきた。
「リリーさん。良ければ手を出さないでくれませんか?
リリーさんはマークさんを守ってください」
「なに?…わかった。危なそうなら手を出すからな」
よし!これで活躍の場は頂いたぜ!
『身体強化』
俺が出来る限界の4倍くらいの強化魔法を使用した。
男達の動きが酷く緩慢に感じる。
勢い任せな大振りの初撃を紙一重で躱し、足をかけて一人を転ばした。
そのまま二人目が反応する前に鳩尾に掌底を当てる。
掌底を振り抜いたら殺してしまいそうだったから、当てるまでに留めた。
「さあ。一人になったぞ?」
男は俺とリリーさんを見比べて、リリーさんの方へと走った。
「やらせるかよ!」
そう!このままではリリーさんに美味しい所を持って行かれてしまう!
男に追いついた俺は、男の顎に優しく触れた。
「がっ!?」バタンッ
「終わりました。聖奈達を呼んできます」
俺はそう告げると、リリーさんに魔法の鞄からロープを取り出して渡し、みんなの元へと向かった。
「見てたよ!見えなかったけど!」
これは聖奈さん談だ。
「流石です。見えませんでしたが」
もちろんミラン。
「消えてました」
エリー……
どうやら速すぎて何をしたのか分からなかったようだ。
「凄かったぞ。私より速かったかもしれん」
おい!魔法のブーストなしで俺と同じとか、立場がないじゃん!!
「あ、ありがとうございます…」
くそっ!まだまだ強者は多いな…修行しよ……
「コイツらは持ち物から、CランクとDランクの冒険者だとわかった。
水都に持ち帰って判断を仰ぎたいのだが…いいか?」
それは馬車のことだよな。
「もちろんです。みんなも良いよな?」
「「はい」」「うん」
こうして、漸く試験は終わった。
いや、帰るまでが遠足だったな。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
聖「界◯拳4倍!!どうだ!」
リリー「私と同じくらい速いな!」
聖「もう主人公やめます…」
聖奈「聖くんが主人公?主人公はどう考えてもミランちゃんだよ」
聖「…」グサッ
ミラン「セーナさん。息してません」
エリー「早く起きておやつください」
聖「はい…」
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