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水都に帰った俺達は門にいた衛兵に冒険者達を引き渡してから、冒険者組合ギルドにやって来ていた。

すぐに組合長ギルドマスターに会うことになり、最近慣れた部屋へと通された。

そこで今回の試験合格とその後の事件のあらましを伝えた。


「そうか。済まなかった。組合を代表して謝罪する。もちろんリリーにも」

「リリーさんにも?」

どういうことだ?どちらかと言うと被害を被ったのはマークさんだろ?

「言ってなかったか?リリーはBランク冒険者で、今回の試験官は依頼だ」

「聞いてませんでしたよ。まぁ、試験には関係ないからいいですけど…」

そうだったのか。

かなりの実力者だと思ったけど…上級と言われるBランクだったのか。

爺さんと同じくらいの実力者なら勝てへん勝てへん。

その後は取り調べが終わって報告が上がったらまた教えてくれるとのことで、俺達は新しくなったカードを受け取り帰路に就いた。

地球だと被害者もかなり聴取に時間を取られるが、この世界ではあってないようなものだった。





家では爺さんが待っていてくれて、これから打ち上げをすることになった。

「リリーさんやマークさんも世話になったから呼びたいな」

女子達…リリーって言っただけで睨むのはやめて…マークさんもちゃんと入れたじゃん?

することがない俺が冒険者組合にとんぼ返りしてリリーさんとマークさんに声をかけることに。

マークさんは、試験官である自分が対象者とプライベートで付き合うのは。と、辞退した。

リリーさんは特に予定はないからお呼ばれするといい、参加することに。

どうやらスープの味が忘れられなかったようだ。マークさんはかなり残念そうにしていた。




「凄いぞ。初めて見る食べ物ばかりだ!」

リリーさんはそう言うと、手始めにチーズフォンデュに手を伸ばした。

横では食べ方をミランがレクチャーしている。

好きな具材を食べれるからいいよな。

爺さんはキムチ鍋を食べている。

最早異世界を隠す気がないメニューだが、そもそもそこに思い当たるわけがない。

逆ならすぐにバレるだろうが、この世界の人達は情報や娯楽が少ないので、失礼だが想像力に掛ける。

いや、想像力を培う機会がないのだろう。

やはり注意すべきは同じ転移者か、もしくは会頭のような転生者だな。

あの時は砂糖の瓶だけでも気付きそうだったから、危なかった。


「なんだこの酒は…この世にこんなに美味い酒があったとは…」

それはカルーアミルクですよ。聖奈さんが悪酔いするから魔法の鞄に隠していたはずなのに……

ん?カルーアミルクが好きということは……

「リリーさんって、普段お酒を飲まないんですか?」

「ああ。殆ど飲めないな。あんなのただ苦いだけだからな!しかし…この酒ならいくらでも飲みたい」

完璧に泥酔してお持ち帰りされる女子大生やないかい……

「あ、あの…こちらのお酒に変更しませんか?」

俺はオレンジジュースかなり多めのカシスオレンジを作って渡した。

「うん。これも柑橘の味が濃くて美味いな!だけど、最初の酒の方が私好みだ」

「それは酒精が強いんです。酔っ払ってしまう前にこちらにしましょう」

俺は強く勧めたが『大丈夫だ!一度酔ってみたかったんだ!』と言われては、もう自己責任だ。

なんで酔っ払いの俺が人の心配をしなきゃいけないんだ。

いいんだ。ほぼ初めてのお酒でゲロを吐けば。

ちなみに爺さんには我が家に住んで貰っている。俺達が家を空けている時には鍵を渡しているので、完全なる同居人だ。

日中は道場(?)で過ごしていて、夕食時には帰ってきているようだ。

これまでは四六時中一緒だったから、昨日今日はそうしていたみたいだ。

そんな爺さんは早々に自室へと戻っていった。

「先程のビクトール氏は、あのビクトール氏か?」

なんだ?リリーさんはもう酔っ払ったのか?

「どのビクトールかわかりませんが、Bランク冒険者のビクトールですよ」

「やはり『剛拳のビクトール』か…」

なんだその厨二心を擽ぐる二つ名は……

ずるいぞ爺さん!

「ビクトール氏は近接戦のかなりの強者だ。私は以前手合わせを断られたが…セイが知り合いなら頼んでくれないか?」

「それはいいですけど…」

それで爺さんがいた時に、なんかソワソワしていたのか。

どっちが強いんだ?リリーさんは俺と同じか少し速いくらいだと言っていたな。

それだと爺さんの方が強いのか?

まぁ、フィジカルだけじゃ測れないか。

そもそもリリーさんは魔法も使わずになんでそんなに強いんだよ……

そんなチート野郎がゴロゴロいたら俺が活躍出来ないじゃないか!!

「よし!約束だぞ!」

めちゃくちゃ嬉しそうだな…まるで恋する乙女……

まさかな…?





翌朝、俺の足元には頭がある。綺麗な頭だ。持ち主はさぞ美人なのだろう。

「頭を上げてください」

「しかしっ!あのような痴態を見せてしまったのだ…どうすれば許されるのかわからん…」

俺の前には俺のシャツを着たリリーさんが土下座している。

なんか色々と際どいから、その体勢というか姿勢をやめて欲しいんだけど……

「とにかく、昨夜のことは忘れましょう。それより気分はどうですか?頭が痛いとかはありませんか?」

リリーさんは昨夜あの後さらに酒をがぶ飲みして…服を脱いだ。

何故か俺は3人に追いかけられて、目潰しされそうになるし…冤罪だ……

その後、何を思ったのか俺達が遊んでいると思って、リリーさんまで追いかけっこ(捕まれば目を潰される)に千鳥足で参加した。

もちろんそんな状態で走れば、酔いは回る。

リリーさんは俺を捕まえて抱きしめながらマーライオンになった。

焦ったリリーさんは床に溢れた汚物を自分の脱いだ服で拭いてしまった。そして今朝、目覚めてからずっとこの通りだ。

「絶好調と言えば嘘になるが、問題はない。本当に済まなかった」

「ホントに大丈夫ですよ。酔っ払いなんてそんなもんです。それよりも、良ければ朝食の時に爺さんに頼んでみましょうか?」

恋する乙女モードになったリリーさんは首を上下に動かした。

まさかホントに恋じゃないよな?孫くらい違うぞ?

ここに優良物件がありますよ?





「ふむ。模擬戦のう。儂は他人ひとの強さは気にせんからなぁ。じゃが、師匠として卒業した弟子へと、最後に教えられるかもしれんのう」

食後のデザートのタイミングで、昨日の話を爺さんに切り出してみた。

ちなみにデザートはフルーツヨーグルトだった。

俺は幼児二人にアーンしている。

俺がデザートを分け与えるからすっかり両隣を押さえられて、リリーさんとは遠距離だ……

どうせならリリーさんにアーンしたかった……

聖奈?聖奈さんは流石にリリーさんの前では横入りしなかったよ。

「俺も魔物以外と爺さんが戦うところを見てみたい。相手がリリーさんなら文句ないな」

「よかろう。昼前に王都の外でどうかのう?」

「私は構いません!ありがとうございます!」

ホント、リリーさんどうしちゃったの?むしろ爺さんが何者ってことか?




「じゃあ、転移するからみんな掴まってな」

右側に聖奈さん達。左側に爺さんとリリーさんだ。

王都近くの何もない場所に転移した。

周囲は大きな岩もないし木もない。春になれば草が生い茂るみたいだが。

聖奈さん達には三方に散らばり魔物の警戒をお願いした。

俺は審判だ。この二人を止めれる気はしないが……

「では、ルールはありません。リリーさんは木剣で大丈夫ですか?」

「流石に真剣は使えないからな。大丈夫だ」

「儂もじゃ」

ふぅ。

「構えて!始めっ!!」

ダッ!

速い!!リリーさんが爺さんに突っ込んだ!

ブォン!

最初の一撃はリリーさんの斬撃だったが、爺さんは難なく躱した。

木剣だとしても、あんな豪剣当たれば死ぬだろ…爺さんの足元の砂が舞ったぞ……

躱した爺さんは、そのままリリーさんへと肉薄する。

あまり近いと、どちらも攻撃の手段がなくなるんじゃ?

俺がそう思うや否や。

ヒュンッ!

爺さんがほぼ密着している状態から飛んだ!空中は逃げ場がないぞ!?

あれ?リリーさんが爺さんを見失っている?

即座に後ろへ振り返ったリリーさんの首に、着地前に爺さんが手を添えた。

「勝負アリ!!勝者ビクトール!!」


「参りました…流石です」

「いやはや…速かったのう」

お互いが健闘しあっていた。

案外簡単に決着がついたな。やはり爺さんが何枚も上手だったか?

「どうじゃった?」

「どうと言われてもな…何で空中に逃げたのに気付かれなかったんだ?」

「空中でしたか…私にはわかりませんでした」

「それはのう。フェイントじゃ。身体が密着した状態を利用してのう。

膝を使わずに足首だけで飛んだんじゃ。リリー殿の技術が達人の域に達しているのは、一太刀目を見てわかった。

じゃから身体が密着した状態なら、目を使わずともこちらの次の行動を読んでくれると思ったのじゃ。

セイに使っても、逆にすぐに上にいるのがバレたじゃろうな」

そうだな。俺なら消えたと思ったら上をすぐに疑うだろうな。

リリーさんは達人だからこそ、逆に自分の感覚を信じすぎてしまったのか……

それより、爺さんが密着密着言うたびに顔を赤くしているのは気のせいだよなっ!!?

「セイ。済まないがビクトール氏と話したい。暫く席を…」

「いいですよ。聖奈達を見てきます」

まさか告白?いやいや、ないから!戦闘について聞きたいんだよね!?





俺は聖奈さんのところへ行き、模擬戦が終わった事を伝えた。

「早かったね。お爺ちゃんの勝ちかぁ。流石セイくんの師匠だね」

「どうもリリーさんはフィジカル面では爺さんと良い勝負みたいだ。爺さんは年の功で勝てたって言ってたな」

俺はリリーさんに気を使い、大回りでミランとエリーを回収しに向かった。




「それで、何を話しているんでしょう?」

「何か只事ではなさそうです」

「大人にはそれぞれ事情があるんだよ」

聖奈さんは一番出歯亀しそうだが…ここは保護者モードか。


「あっ!?」


ヤベッ!!つい声が出てしまった!





〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓


ミラン「リリーさん達は何を話しているのでしょう?」


聖「きっと明日の天気についてだ」


エリー「でも深刻な顔をしています」


聖「明日は洗濯物が多いんだろう」


聖奈「セイくん…涙拭こう?」

〜ぼっちの月の神様の使徒〜

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