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スタジオに音が鳴り響く。ギターとドラムのリズムの中、涼ちゃんのキーボードだけがほんの少し遅れていた。

元貴は気づいていた。

何度目かの同じ箇所で、手が止まる。

そのたびに若井がフォローの音を入れている。


曲が終わった瞬間、元貴が深く息をついて言った。

「なあ若井。最近の涼ちゃん、なんかおかしくね?」


若井はチューニングのふりをしながら目を伏せる。

「……別に。ちょっと疲れてるだけだろ」

「それ、前も聞いた。

 “疲れてるだけ”でこんなに続くか?」


涼ちゃんは黙って譜面を直している。

表情に感情が浮かばない。

若井は横目でそれを見ながら、小さく息を飲んだ。


「お前、何か知ってんだろ」

元貴の声が低くなった。

「一緒に来たって聞いた。

 昨日も何かあったんじゃねぇの?」


若井は答えない。

ただ黙って、弦をゆっくり指で弾いた。

微かな音がスタジオに消える。


「……言えることじゃねぇよ」

「は?」

「今はまだ、俺が見てる。

 だから元貴は何も聞かなくていい」


その言葉に、元貴は一瞬言葉を詰まらせた。

けれど涼ちゃんの方を見たとき、その目がどこか壊れかけてるのを感じて、

それ以上追及できなかった。


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