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第100話 「受け継がれる背中」
2025年9月。
秋季福岡県大会。
柳城高校は順調に勝ち進み、準々決勝を迎えていた。
新チームになって一か月。
部員たちの動きは少しずつ噛み合い始めていた。
放課後。
グラウンド。
啓介部長はノックの準備をしていた。
すると福間監督がノックバットを差し出す。
「今日はお願いします。」
「私ですか?」
「はい。」
啓介は少し驚きながらバットを受け取った。
部員たちが整列する。
「いきます!」
カキーン。
鋭い打球。
だが。
強すぎる。
弱すぎる。
左右にばらつく。
選手たちは必死に追いかける。
練習が終わると。
啓介は苦笑いを浮かべた。
「難しいですね。」
福間監督は静かにバットを受け取る。
「ノックは守備練習ではありません。」
啓介は首をかしげる。
「選手への思いやりです。」
「捕れる打球。」
「少し難しい打球。」
「成長させる打球。」
「一本一本に意味があります。」
そう言って福間監督がノックを打つ。
打球は正確だった。
一歩目を鍛える打球。
前へ出る打球。
逆シングルになる打球。
選手は夢中で追いかける。
啓介はその姿を見つめていた。
「これが…。」
福間監督は笑う。
「ノックにも性格が出ます。」
翌日。
準々決勝。
柳城高校は5対2で勝利。
準決勝進出。
試合後。
部員たちは喜んでいた。
その輪から少し離れた場所で。
啓介はノックバットを磨いていた。
福間監督が隣へ来る。
「まだ磨くのですか。」
「はい。」
「高校生の頃、先生が毎日磨いていたのを思い出しまして。」
福間監督は少し照れくさそうに笑う。
「覚えていましたか。」
「忘れません。」
啓介はバットを見つめながら続けた。
「当時はただの道具だと思っていました。」
「でも今は違います。」
「選手を育てるための大切な道具なんですね。」
福間監督はゆっくり頷いた。
「そうです。」
「そして。」
「いつか、そのバットはあなたの相棒になります。」
夕日が二人を照らす。
グラウンドには部員たちの笑い声が響いていた。
その光景を見ながら。
啓介はノックバットを静かに握り直した。
まだ福間監督のようには打てない。
まだ学ぶことばかりだ。
それでも。
いつの日か。
自分もこのバットで、多くの選手を育てる日が来る。
そんな未来を思い描きながら。
秋の風が柳城高校のグラウンドを吹き抜けていった。
第100話 終
コメント
1件
第100話、おめでとうございます。福間監督がノックの意味を「選手への思いやり」と教える場面がとても沁みました。一本一本に込める意図を背中で示す大人の姿と、それを見てバットを磨く啓介さんの静かな継承の意志が、秋の日のグラウンドにぴったり合っていて。節目の回にふさわしい、優しくて力強いお話でした🌿
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#前世
shima7a
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