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第101話 「遠い春」
2025年10月。
秋季福岡県大会。
柳城高校は準決勝へ駒を進めていた。
勝てば九州大会。
センバツ甲子園へつながる大きな一戦だった。
試合前日。
福間監督はいつもどおりだった。
「今日は確認だけです。」
シートノック。
バント処理。
走塁確認。
一時間半で練習は終わった。
啓介部長は少し驚いた。
「監督。」
「明日が準決勝ですよ。」
福間監督は頷く。
「だからです。」
「前日に疲れてはいけません。」
啓介はまた一つ学んだ。
試合当日。
球場には秋らしい風が吹いていた。
対戦相手は。
福岡南学院高校。
今年最も勢いのあるチームだった。
試合開始。
柳城は初回に先制。
一番打者の二塁打。
送りバント。
四番の犠牲フライ。
1対0。
しかし四回。
相手四番の本塁打。
1対1。
試合は投手戦となる。
七回終了。
1対1。
八回。
二死一・二塁。
柳城に勝ち越しのチャンス。
打席は五番。
鋭い打球。
センター前へ抜ける。
二塁走者がホームを狙う。
クロスプレー。
アウト。
柳城は勝ち越せない。
九回。
相手の攻撃。
一死三塁。
スクイズ。
三塁手が素早く前へ出る。
ホーム送球。
間一髪。
セーフ。
ゲームセット。
2対1。
柳城高校。
準決勝敗退。
九州大会出場はならなかった。
試合後。
整列。
スタンドへ一礼。
応援席からは温かい拍手が送られる。
ベンチ裏。
部員たちは涙を流していた。
主将・中村は唇をかみ締める。
啓介は選手たちのもとへ向かおうとする。
その時。
福間監督が静かに歩き出した。
部員たちの前へ立つ。
「あと一歩でした。」
誰も顔を上げられない。
「しかし。」
「皆さんは弱くありません。」
「足りなかったものを、この冬で身につけましょう。」
「春は必ず来ます。」
短い言葉。
それでも。
選手たちは涙を拭き、前を向いた。
帰り道。
夕焼けのグラウンド。
啓介は一人、ベンチに座っていた。
福間監督が隣に腰掛ける。
「悔しいですね。」
「はい。」
しばらく沈黙が続く。
やがて福間監督が静かに話し始めた。
「啓介。」
「はい。」
「負けた試合ほど、私たちは学べます。」
「勝った試合では気づけないことがあります。」
啓介は深く頷いた。
この一年。
部長として多くのことを学んできた。
だが。
まだ福間監督の背中は遠い。
夕日が二人を照らす。
冬が来る。
柳城高校はまた、一から鍛え直す。
その先にある春を信じて。
第101話 終
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#前世
shima7a
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コメント
1件
いやあ、もう1点差の敗戦、胸が締め付けられるわ…。序盤の先制、相手四番の同点弾、勝ち越しチャンスでのクロスプレーアウト、そして最後のスクイズ決められる流れ、全部リアルで読んでて苦しかった。 でも福間監督の「春は必ず来ます」っていう台詞がめっちゃ沁みた。短い言葉なのに重みがある。啓介が監督の背中をまだ遠いと感じるところも、この作品の「成長の途上感」がしっかり出てて好きだわ。冬を越えて、次に繋がる終わり方、いいエピソードだった🔥