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その声は、普段の穏やかな声とはまるで違い
氷のように冷たく、そして激しい怒りを宿していた。
その声の響きは、部屋の空気を一瞬で凍り付かせた。
碧だ。
彼は、まるで嵐のような勢いで部屋に踏み込んできた。
その足音は、床を揺らすほど重く、彼の纏う空気が一瞬で部屋の雰囲気を変えた。
男たちは一瞬怯んだように見えたが、すぐに警戒の表情を浮かべた。
「ぁ、お……っ」
俺の口から、かすれた声が漏れた。
その一瞬が、まるで永遠のように感じられた。
碧の顔を見た瞬間、俺の中に湧き上がったのは安堵なのか絶望なのか分からなかった。
助けが来たという安堵と、こんな惨めな姿を見られたという屈辱。
感情がごちゃ混ぜになり、熱い涙が目尻から溢れ落ちた。
碧は一瞬で状況を理解したのか、その冷たい視線を長官に突き刺した。
その瞳には、燃えるような怒りの炎が宿っていた。
「貴様……」
長官は僅かに動揺を見せたが、すぐに冷静な表情を取り戻した。
その顔には、一切の感情が読み取れない。
まるで何もなかったかのように、彼は碧を見据える。
「これは一体どういうことだ結城」
「それはこっちのセリフだよ。俺の遼くんをこんな風に扱うなんて」
碧の言葉に、俺は思わず顔を背けた。
誰が「俺の遼くん」だよ。
そんな所有物のような言葉、聞きたくなかった。
こんな状況で、そんなことを言われるなんて。
なのに、彼の存在が
助けに来てくれたという事実が俺の中の安堵を勝らせてしまう。
男たちは突然現れた碧に動揺しつつも、手にしていた銃を構えた。
「ちょ、こっ、こいつって例の…!!?」
男たちは叫んだが、碧は冷ややかな笑みを浮かべたまま、微動だにしなかった。
その瞳は、まるで深淵を覗き込むかのように冷徹で、一切の感情を読み取ることができない。
彼の周りの空気が、一層張り詰める。
「あーあ、だから行くのやめときなって言ったのにさぁ」
碧がそう呟いた瞬間、部屋の空気が変わった。
張り詰めた緊張感が、一瞬にして爆発する。
次の瞬間、男たちはみんな、糸が切れた人形のように地面に倒れ込んでいた。
何が起こったのか、俺には理解できなかった。
あまりにも速すぎる出来事に、脳が処理しきれない。
碧の手にはいつの間にか銃が握られており、その銃口からは硝煙が立ち昇っている。
彼は、一瞬で男たちを制圧したのだ。
その隙に紛れて逃げたのか、いつの間にか長官は姿を消していた。
碧の、恐ろしいまでの早撃ちと正確さだった。
まるで、人間業とは思えない。
「遼くん、早くお家に帰ろっか」
碧はそう言うと、俺を吊るしていた鎖を銃弾で撃ち抜いた。
金属が砕け散る音とともに、俺の体は自由になった。
だが、媚薬と拘束で限界に達していた俺の体は、その場に崩れ落ちそうになった。
しかし、碧が素早く俺の体を支え、優しく抱き留めてくれた。
彼の腕の温かさが、俺の全身を包み込む。
「大丈夫? 遼くん」
碧の声は、いつも通り怖くて優しかった。
その声の響きは、俺の心を深く揺さぶる。
だがその目には、今まで見たこともないような激しい怒りと、深い愛情が宿っていた。
その複雑な感情が入り混じった瞳に、俺は言葉を失った。
彼の感情の深さに、俺はただ圧倒されるしかなかった。
「……っ」
俺はまだ息が苦しくて何も言えず、ただ碧に体を預けるしかなかった。
彼の腕の中で、ようやく安堵の息を吐く。
全身の力が抜け、意識が遠のきそうになる。
朦朧とする中、ひょいっと体を持ち上げられ、気づくと車の後部座席に座らされた。
運転席には見知らぬ黒服の男がいて、無言で車を発進させる。
媚薬がまだ効いているようで、体が熱くてどうしようもない。
全身が火照り、皮膚の下で血が沸騰しているかのようだ。
視界が揺れ、頭の中がぐるぐると回る。
「…っ、は…ぁ…はっ…はあ……」
俺は胸の辺りを抑えて呼吸を整えようとするが、うまくいかない。
喘ぎが止まらず、苦しさに顔を歪める。
喉が渇き、舌が張り付くような感覚。
すると、俺の隣に碧が座ってきて
「遼くん、これ飲んで。呼吸も落ち着くはずだよ」
と小瓶を渡された。
しかし、ついさっき媚薬を飲まされたトラウマから俺は反射的にそれを拒んだ。
首を横に振り、碧から視線を逸らす。
碧は眉を少し下げて困った顔をしながら、その瓶の蓋を開け
中の液体を口に含んだ。
その仕草に、俺は困惑した。
かと思ったら、唇を寄せてくる。
「え」
反射的に顔を背けようとすると、顎を掴まれて固定され、碧の唇が重なった。
温かい
いや、熱いと言っていいほどの温度が、ダイレクトに俺の唇から伝わってくる。
生温かい舌が、俺の唇をこじ開け
「んぅっ!?」
小瓶の中の液体が生々しい感触とともに口移しで流し込まれる。
不意打ちのキスに、俺は息を呑んだ。
口の中に広がる甘さと、微かな苦味。
必死に抵抗しようとしても、顎をしっかりと固定され
碧の力は強く、俺は飲み込むしかなかった。
喉の奥に、甘く
しかし清涼感のある液体が流れ込む。
コクリと喉が鳴り、液体が喉を通る。