テラーノベル
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新宿の喧騒を離れ、俺たちが辿り着いたのは
街灯さえも計算されたように配置された静寂の街、千代田区・永田町。
先ほどまでの泥と硝煙が嘘のように、整然とした石造りのビル群が冷たく俺たちを見下ろしている。
「……気持ち悪い街ですね。空気が死んでるみたいだ」
山城が首元をさすりながら呟く。
新宿の喧騒に慣れた俺たちにとって、この徹底的に管理された「清潔さ」は、どんな腐臭よりも不気味だった。
「志摩、久我山の居場所は特定できたか?」
俺は襟を立て、監視カメラの死角を縫いながら通信を送る。
『ああ。奴は今、国会前にある政府直轄のデータセンター、「麒麟の塔」の最上階にいる。そこがこの国の全個人情報を一括管理する、新しい『心臓』だ』
志摩の声に、今までにはない緊張が混じっている。
『和貴、そこはさっきの特殊部隊とは比較にならないセキュリティだ。物理的な扉なんてない。すべてが「生体認証」と「行動予測AI」で守られている』
「AIが俺の動きを予測するってのか? ……上等だ」
俺はわざと、監視カメラの正面に姿を晒した。
刹那、街中のスピーカーから、聞き覚えのある穏やかな声が流れる。
『……ようこそ、黒嵜君。君の父、榊原もかつてこの道を歩いた。だが、彼は途中で足を止めた。君はどうかな?』
「久我山か……!」
声の主は、俺の現在地を完璧に把握している。
だが、不思議と殺意は感じられない。
それは、実験動物の進路を眺める観察者のような、絶対的な余裕だった。
『君をテロリストとして処理するのは簡単だ。だが、私は君に「選択」を与えたい。100日を待たず、この国をリセットするためのスイッチ。それを君自身の手で押してみないか?』
突如、路上に設置された無数のデジタルサイネージが、俺の「これまでの戦い」を映し出した。
都庁での爆発、地下での死闘。
だが、その映像は巧妙に編集され、俺が民間人を傷つけているかのように加工されている。
「……これが、お前の言う『現実の操作』か」
『人は見たいものしか信じない。そして、私が君を「悪」と言えば、それがこの国の真実になる』
周囲のビルから、最新型の多脚ドローンが次々と這い出してきた。
銃口ではなく、録画用のレンズを無数に備えた「情報の狩人」たちだ。
「山城、走るぞ。…俺たちの『真実』を、あの塔のてっぺんに刻み込みに行ってやる」
残された時間は、あと76日。
虚構に包まれた聖域で、泥塗れの野良犬たちが牙を剥く。
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