テラーノベル
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永田町の夜を切り裂き、多脚ドローンが機械的な羽音を立てて迫る。
そのレンズ越しに、日本中の茶の間へ「凶悪犯・黒嵜」の虚像がリアルタイムで垂れ流されている。
「兄貴、囲まれてます! これじゃ塔に近づく前に、世論っていう壁に押し潰されちまう!」
山城がレンズを避けるように顔を伏せる。
だが、俺はあえて正面からカメラを睨みつけた。
「志摩、準備はいいか。…俺を撮ってるその電波、逆利用させてもらうぜ」
『……了解だ。放送衛星のプロトコルに潜り込んだ。お前が「麒麟の塔」の外部端子にデバイスを差し込めば、編集される前の『生の記録』を全国のモニターに強制送還してやる』
俺と山城は、ドローンの射線を縫いながら、千代田の闇にそびえ立つ漆黒の巨塔――
通称「麒麟の塔」の基部へと滑り込んだ。
そこには物理的な門番はいない。
代わりに、踏み入れた者の心拍数や瞳孔の動きから「敵意」を検出する、不可視の精神防壁が張り巡らされていた。
『おや、強行突破ですか。榊原の息子らしい、短絡的で美しい結末だ』
久我山の声が、塔の壁面全体から振動となって伝わってくる。
「短絡的で悪かったな。……だが、俺たちは理屈で動いてねえんだよ!」
俺はデバイスを接続端子へ叩き込んだ。
瞬間
街中のデジタルサイネージが激しく明滅し、久我山が隠蔽してきた「真実の映像」が流れ始めた。
都庁爆破の真犯人である組織の工作員、そして地底で蠢いていた「麒麟」の全貌。
『…ふむ。情報の毒には、情報の毒を、というわけか。面白い』
久我山が指を鳴らすような音が響くと同時に、塔のセキュリティレベルが最終段階へと跳ね上がった。
エントランスの重厚な防壁が開き、そこから現れたのは、これまでの守護者とも葬列とも違う
「俺と同じ顔」をしたクローン――組織が俺の遺伝子情報から造り出した、最強の刺客だった。
「……親父を殺し、俺をハメた。次は『俺自身』をぶつけてくるってか」
目の前の「俺」が、無機質な笑みを浮かべて脇差を抜く。
残された時間は、あと75日。
自分自身を切り捨てなければ、頂上へは辿り着けない。
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