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少女にはお金がなかった。
だが、一目でいい。
どうしても、とある一枚の絵画が見たかったのだ。
ヘレンという人から聞いた螺旋階段を降りた先のサロンには、13枚の美しい絵画。30個以上のとても高価そうな見たこともない壺。それらの随所にみずみずしい花が飾られてあった。
少女はやっと一枚の絵画を探し当てた。その絵画は産まれたばかりの赤子を抱いた女性の絵だった。
「綺麗……」
少女の発した言葉はやがて溜息へと変わった。ここへくれば全ては解決すると思っていたからだ。一時、おばあちゃんから貰った小遣いと今まで使っていなかったお金で、この絵を買おうとしたが、ヘレンという人はとんでもない値段を言うので一瞬思考が停止して、何も考えられなかった。
そこで、一目見ようとしたのだ。
どうか、この絵に封じられた死神が蘇らりますように。と、少女は祈った。
――――
ノブレス・オブリージュ美術館の館内を見て回ることもあまりせずに、少女は家路に着いた。途中、背筋に悪寒のような何とも言えない気持ちがして、何度も後ろを振り向くが、ここホワイトシティは暗闇が支配していた。嵐のようなさっきまでの記録的な猛吹雪が嘘のように静かな粉雪へと変わっている。
「あ、お嬢ちゃん……ちょっと、お尋ねしたいことがあるんだが」
凍てついた空気の中で氷った街路樹の脇を通った。引き締まった筋肉の男に突然声を掛けられた。
だが、少女は無言で、立ち去ろうとした。
突然。
男は少女を裏路地へと引っ張りこんだ。