それにハッとして、リリアンナは慌てて膝折礼をした。
「あ、あの……初めまして。私はリリアンナ・オブ・ウールウォードと申します。ゆえあってランディ……えっと……辺境伯様のお世話になっています」
しどろもどろになりながらも何とか名乗ると、セレンが柔らかな笑みを浮かべる。
「こちらこそ初めまして。僕も色々あってライオール卿のお世話になっています。一応表向きは皆さんの護衛ということになっていますが、見ての通りの優男です」
クスッと笑っておどけてみせるセレンに、リリアンナの緊張の糸が少し解れた。
ぱっと見、確かにセレンは穏やかで繊細な印象だが、ランディリック同様、服の下に鍛え抜かれた身体を隠し持っている気配が伝わってくる。
恐らくは剣の腕前もそれなりに立つのではないかと思われた。
「彼はこう言って謙遜しているがね、なかなか腕の立つ男だから騙されてはいけないよ、リリー」
そうして、それを裏付けるみたいにランディリックが軽い調子でそんな言葉を付け加えるから、場の空気がふわりと和んだ。
「もぉ、ランディったら……騙すだなんて!」
それでリリアンナもいつもの調子でランディリックのことを〝ランディ〟と呼んでしまう。
「お二人は仲が良いのですね」
途端セレンにそう指摘されて、思わず口元を覆ったリリアンナだったのだけれど……ランディリックはすました顔で「はい、とても」と肯定した。
そのことにリリアンナがランディリックを驚いた眼で見詰めると、「隠していてもボロがでてしまうよ、リリー」と何でもないことのように言い切られてしまう。
「僕は彼女の後見人として幼い頃からリリーのことを見てきた。そういうわけで僕らはお互いを愛称で呼び合っているんだ」
「なるほど……」
ランディリックの堂々とした物言いに、セレンも納得したように頷いた。
「リリー。セレンはニンルシーラを出るまでは僕らの護衛ということになっているけど……侯爵家のご子息だからね。汽車の中でまで兵士らと同じ扱いというわけにはいかない。だから……僕の隣の客室に乗ってもらうことになる」
自分たちと同じように一等客室へ乗ることになると告げたランディリックに、リリアンナは瞳を見開いた。
自分たちと離れたところですでに車内へ乗り込んでいるクラリーチェだってモレッティ男爵に嫁いだ未亡人――貴族だ。
だが、クラリーチェは二等客室だと聞かされている。
そのことをリリアンナがランディリックに問うと、クラリーチェ自身が、自分は雇われの身だから……とそちらを希望したらしい。
ナディエルはリリアンナの世話があるから、侍女ではあるものの、リリアンナと一緒の一等客室というだけのことみたいだ。
コメント
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ランディリック、もしかして牽制?(笑)