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「時間だ。出ろ」
独房内、藁束の上で膝をかかえてうずくまっていたオゾンのところに、牢番ではない兵士がやってきた。連れて行かれる。牢番の中から連行役に選ばれたらしいドロージも、オゾンの手を縛る縄を引いて同行することになった。行き先は同じ建物の中ではない。何やら街中を歩かされる。街は中世ヨーロッパ風の街並みになっていた。それなりに人は多く、栄えているという様子はある。まあ、闘技場が置かれているというほどの街であるのだから、そんなに田舎であろうはずもないのではあるが。で、そんなに歩くってほど歩くという距離ではない、闘技場なるものが見えてきた。いわゆるひとつの円形闘技場である。円といっても楕円形であって、完全に真ん丸で出来ているというわけではないが、とにかく内部がすり鉢状になっていて、バトルフィールドみたいな場が底部にあり、それを階層状の観客席が取り囲んでいるという構造になっている。
「お前さんがオゾンかね」
「ああ」
「若くはないな」
と言う禿げ頭の男は、牢番でも兵士でもなかった。どうやら闘技場付きの、戦士のための教官か、指導員のような立場の人間のようだ。オゾンは手のいましめを解かれた。自由になる。監視はいるし、逃げられそうな雰囲気ではないが、ともかく手足だけは自由に動かしていいということになったようだ。
「ここに並んでいる武器や盾であれば、好きなものをどれでも選んで持って行っていい。なんなら二本持っていく、なんて真似も可能だ。おすすめはせんがな」
オゾンの前には剣だの槍だのがたくさん並んでいた。言葉の通り盾もある。だが鎧に類するものはなかった。
「まあ正味な話、どれを持って行っても同じだ。どうせ喰われるだけだ。それがお前さんの役目だ。だが、素手で餌を放り出したんでは観客が盛り上がらんからな。というわけで、なんでもいい、好きなものを持て。素手で行く、というのは止めたほうがいい。食い殺される前に、観客から石を投げられる羽目になるからな」
オゾンには剣術の心得も何もない。長い分だけ、槍の方がまだしも剣よりは扱いやすいかもしれない……とは思ったのだが、置いてある槍はどれも重たすぎて振り回すのも無理そうであった。しょうがないから、軽そうな剣を一本と、皮でできた盾をひとつずつ取り、両手に持つ。
「よし。お祈りとかがしたければ今のうちに済ませろ。闘技場に入ってからは、命乞いとかはやめておけ。余計苦しむ羽目になるだけだからな。それじゃな。冥福を祈る」
オゾンは追い立てられるようにして、闘技場の中に進み出た。中に入って分かったが、浅く砂が敷き詰められていた。その下は土だか石だか分からないが、硬い地面になっているようだ。さて、オゾンが中央まで進み出ると、オゾンが入ってきた方の入り口とは反対にある巨大なゲートが開かれ、そこから出てきたものは。
「グワォォォォォォ!」
巨大な、赤いドラゴンであった。背中には二枚の大きな翼がある。そして大きな口には、大量の牙が並んでいた。
(俺はなんでこんな目に遭っているんだ……?)
考えても分かるようなことではないが、考えずにはいられないオゾンであった。