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満ちてゆく
にじさんじenパロ
卒業ライバー出てきます
シュウは夜の影が灯る頃、俺の元に来た。
「ごめん、ミスタ。ありがとう、また来てもいいかな」
それだけ。悲しそうな微笑みを浮かべて、泣きそうな声で言った。
言葉が出なかった。いつかこの時が来ると分かっていた。それなのに、いざこの瞬間に立ち会うと何も言えなくなる。
今、ぼやけた視界にシュウとの思い出が過ぎる。
シュウと初めて会った日、母様(ははさま)は俺たちを兄弟と言った。それは運命のようで必然のようだった。
俺たちは毎日、母様の結界の中で走り回った。シュウは人間、俺は半分狐。絶対に勝てない勝負にもシュウは付き合ってくれた。
夜は母様のふわふわのお腹で、寄り添って寝る。
どれもこれも、避けがたく全て、終わりがくる。
俺はただ涙を堪えて、笑って、頷くことしか出来なかった。
それでもシュウは満足そうに去っていった。
その後ろ姿には、きらめきもときめきもなかった。ただ、静かで強かだった。
これから彼は母様のところに行く。
大木の下、尻尾を丸めて佇む、白い大きな狐、母様に。
しばらくして、シュウの気配は結界から消えた。俺は母様の元に走った。
いつも通り。何も変わらない。俺は何も言えずに近づいた。母様は呪文を唱えた。それはシュウも初めて会った時と同じ呪文。
夜の影は濃くなった。俺たちは眠れるはずもなく、空を見る。いつか、これでよかったと笑い合える日まできっと、彼は戻らない。
「… 俺が、置いてかれたみたいじゃん…」
震えて掠れた声。あいつが勝手に行っただけなのに、ただ正しい場所に戻っただけなのに…。
それでも空は移りゆく。夜の影も次第に薄くなる。
開けてゆく。
母様の尻尾が俺の背中につく。あの頃と変わらない、暖かくて優しい。
変わりゆくものは仕方がない。もう戻れない。
満ちてゆく。満足感でも寂しさでもない。涙が零れるような寒色の暖かいもの。全身に行き渡って、零れてゆく。
俺は母様のお腹で眠りについた。
あれから、何年経っただろう。覚えてないけど、母様はよく来客を招くようになった。小さなリス、精霊界の友人。けれど、人間は誰一人呼ばなかった。俺への母様なりの気遣いなのか、母様自身のケジメなのか。俺はきっと、動物や精霊と生涯を過ごすことになると思っていた。母様の隣で、笑って、うさぎの子供と遊んでやって、精霊達に見守られて、“愛されてる”と感じていた。母様は誰にも同じ。俺は、特別じゃない。当たり前だった。それでよかった。母様は幾千、幾万、幾億の時を過ごしてきた。
くまの子供が母様の尻尾を揺らす。母様は尻尾でその子を撫でる。昔の俺の姿がくまの子供に重なった。
あぁ、母様はいつの時もこう過ごして来たんだ。
その時、シュウの姿と母様が重なった。俺は2人がいたから、ここにいる。
それなのに、2人は俺だけの傍にいる訳じゃない。
じゃあ、なんで、なんで、俺は_。
ここに、いるんだろうか。
賑やかな結界内に音がなくなった気がした。大きく息を吸う。それなのに。
カラカラだ。水が見つからないんだ。
シュウ。君は今、何をしているんだろうか。
空が晴れてゆく頃、結界が崩れた。崩壊じゃない、何者かに寄って、“壊された”。
知ってる匂い、知ってる気配。振り返らない。分かっているから。彼はあの日と同じ事を言う。
「ごめん、ミスタ。」
シュウの視線の先には母様がいる。あの日と同じ悲しそうな微笑みに、泣きそうな声。
彼が何をしようとしているか、分かった。
「何もない。けど、全て差し出すよ」
今度はちゃんと応えた。
彼は何も言わずに笑って頷いた。
そして、呪文を唱える。
それは、母様が唱えてた呪文。結界が下りてくる。同じ呪文のはずなのに、違う色の結界が下りる。
そして、俺の知らない呪文が聞こえてくる。
明るい光と共に母様がすっと消えていく。
シュウは語りかけた。母様に。ただ見ることしか出来なかった。それでも、暗闇の中でその光はずっと残り続けた。かつての3人しか居ない空間が、生死を超えて、本当の意味で繋がった。
空が荒れてゆく。光は届かず、空気は冷たい。
母様の姿はない。それでも暖色の冷たいものが体に残った。
シュウは言う。
「ごめん、ミスタ。君の大切なもの、全て奪ってしまった」
今のシュウは、どこか幼くみえた。それはあの頃の俺を見ているようだった。
俺はよく、失敗した。あらゆる事が上手くいかなかった。その時、よくうつむいて、涙を堪えた。
今のシュウもそうなんだ。
「何もない。けど、全て差し出すよ。そう言ったじゃん。元々母様は俺のものじゃないから…!」
シュウは顔を上げて、俺を見る。
「…ミスタ、泣いてるよ」
俺の目からは、数え切れない程の粒が零れていた。
母様はもういない。あるべき所に還ったんだ。
ぼやける視界にはシュウが映った。彼も泣いているじゃないか。
俺は彼の涙を拭った。そして、母様がしてた様におでこをくっつける。
「大丈夫だよ、俺たち、また会えたじゃん。」
シュウの清楚な笑い声が聞こえる。あの頃と変わらない。森は静寂に包まれる。俺はシュウから手を離す。
体が軽い。今度は暖かくて優しいものが満ちてゆく。
「ミスタ、この近くに神社があるんだ。そこで一緒に暮らそう、話したい事がたくさんあるんだ」
俺は笑顔で頷いた。これから先、どうなるかなんて分かんない。それでも、この暖かさは消えずに残った。
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