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“私には使えない銃”として、慌てて投げる姿勢に入ったのだが。
不味い、相手はこれさえも把握しているみたいだ。
左腕を前に構えて、此方が投擲する前から防御する姿勢が整っている。
その間も右手は腰のマシンガンへと手を伸ばしているのが見えるので……ここは。
「なぁっ!?」
ガンサバにおいて、というかフルダイブVRゲームにおいて。
“予想外”の動きをされると、人間は一瞬戸惑って行動が遅れる。
理解出来ない光景、予想と違う行動。
これらに対して、脳が理解するまでのタイムラグが発生するのだ。
そういう反応に、このゲームは“システムアシスト”が発生しない。
つまり、素のままの反応が露骨にアバターに現れる。
という事で、振りかぶった相手の武器を……向こうじゃなくて、窓の外へと投げ捨ててみた。
私の情報を知っている側からしたら、まず間違いなくぶん投げて牽制して来ると思ったはず。
だからこそ此方の動きを観察し、左腕を犠牲にしてでも武器の投擲を防御。
その後右手で掴んだマシンガンで、私を仕留めるつもりだったのだろう。
しかしながら、私がやったのは攻撃ではなく武装の破棄。
セーフティを外せばまだ使える筈の武装を、これでもかって程の勢いで窓の外へと投げ捨てたのだ。
この意味のない行動、そして向こうからすれば予想外の行動はちゃんと効果を発揮したらしく。
今対戦している相手、sevenは目を見開いて驚きの声を上げ。
更には一瞬だけ身体が固まって、銃を抜くのが遅れている。
身体は既に防御体勢に入っていたし、構えた左腕も行き場を失っている様に見えた。
本当に少しの時間だけ、“プロ”の名を持つ彼女でさえ無防備な姿を晒したのだ。
けど……私にとっては、これで“充分”だ。
「ふっ!」
「ちょいちょいちょい! マジかい!」
すぐさまハンドガンを抜いて、出鱈目に発砲。
相手に当てられるなんて思っていない、完全に威嚇射撃。
それでも“もしも”があるからこそ、相手の反応は早かった。
此方に銃を向ける事よりも、回避を優先させたseven。
これも仕方のない事。
ガンサバにおいて、攻撃よりも回避を優先させないプレイヤーは基本的に生き残れないから。
御自慢の滑らかで素早い動きを披露しながら、室内を移動していくが……その分、私には時間が出来た。
だからこそ物陰に飛び込み、ハンドガンを放り出しながら爆発物を準備。
手榴弾のピンを抜いて室内に設置されている棚などの、“家具の上”へと次々放り投げた。
すぐさまズドンズドンと爆発音が鳴り響くが……こんな程度で仕留められる相手な訳もなく。
「うひゃぁぁっ!? 今回は派手だねシックス! まさか目くらましとか、ヤケクソって訳じゃないんでしょ? 今度は何をしてくるのかなぁ~?」
楽しそうに声を上げるsevenが、再び室内に向かって銃を乱射してきたのが分かったが……。
部屋全体が、ミシミシミシっと鈍い音を上げ始める。
まぁ天井付近に手榴弾を投げ込んだ訳だしね。
古い建物だし、一番ダメージが行くのがどこかと言われれば。
「ちょぉぉぉっ!?」
今までウッキウキで銃をぶっ放していた彼女だったが、次に聞えて来たのは何かが崩れる音と、相手の悲鳴。
そして、物陰からチラッと顔を覗かせてみると。
『お見事、夢月。位置の把握も、相手の誘導も完璧だな』
「流石にコレは、偶然が重なっただけだよ……でもやっぱり重いんだね、グランドピアノって」
現状sevenが立ちまわっていた室内。
その上の階には……古ぼけているとはいえ、立派なグランドピアノが設置されていたのだ。
このゲームでは車やら家具やら、そういう物だって“ただのオブジェクト”では無いのだ。
だからこそ、ピンポイントで“予想外な攻撃”を仕掛けるのなら……ここかなぁって。
そんな雑な作戦の下、家具上部に爆発物を放り投げて“天井ごと”落とした。
という訳なのだが……これだけだったら、それこそ此方もどうなるか予想は付かなかった。
けど明らかに重そうな物が上層階に設置されており、こんな……今にも崩れそうな古い建物という事も相まって。
狙った場所がピンポイントに崩れるという、随分と上手く事が運んでくれた。
そして、その結果が。
「ぐぇ……」
上から降って来た天井の崩落と、見事に落下して来た大きなピアノに押し潰され。
先程まで捉えるのが不可能だと思っていたsevenが、地面に横たわったまま動きを封じられていた。
そんな彼女に向かって走り出し、相手の後頭部に銃を押し付けてから。
「私の勝ちだ」
ズドンッと一発、向こうの言葉なんか待たずに発砲。
まだ何か持っていて、反撃されても怖いので。
とか思っての行動だったのだが。
『ウガァァァ! そんなの有り!? 嘘でしょ!? あんなピンポイントで崩落って起こせるモノなの!?』
『はいはーい、負け惜しみ言わないで下さいねー。偶然だろうと何だろうと、今回は6keyの勝利ですからねぇ~。現実なら再戦なんて存在しませんから、仕方ない仕方ない』
『ぬおぉぉぉ! 悔しぃぃぃ!』
無線から、大音量の声が響いて来た。
間違い無く今目の前で倒したsevenの声なのだが……アバターの方は、目の前でピクリとも動かないので違和感が凄い。
ついでに言うと、耳がキーンってする程のでっかい声が聞えて来る。
キャラクター的には今目の前で爆発物を使ったから、そっちの方が影響している筈なんだけど。
個人的には、sevenの叫び声の方が大きかった気がする。
『ねぇシックス、もう一回! もう一回やらない!? ねぇお願ぁぁい……今のめっちゃ凄かったのに、私を殺す時の表情が正面から見られなかった!』
なんか凄い事言ってるし。
悔しいからもう一回対戦してリベンジ、とかではないんだ。
『あぁもう、終わり終わり。今日はお試しで一戦だけって言ったじゃないですか、この後皆で打ち合わせですよ? 少なくとも6keyがもう一度戦うとしたら、次は“4card”さんの番ですから』
『ケチー! 早乙女さんのケチー!』
向こうの二人、別に私達みたいな兄妹って訳でもないだろうに。
仲、良いなぁ……羨ましい、私もあんなコミュ力が欲しいよ……。
などと思っている内に、ブツッと無線が途切れた様な音が聞こえて来て。
『お疲れ夢月、良くやったな』
「う、うんっ! 頑張った。凄く緊張したぁ……」
兄の声が聞こえて来て、ホッと胸を撫で下ろすのであった。
なんか勝手に向こうの無線切っちゃったみたいな雰囲気だったけど、良いのかな?
『何はともあれ、良い絵が撮れたのは確かだ。このままPVに使っちゃうけど、良いよな?』
「うん、元々そういう話だったもんね。そっちは大丈夫。また注目浴びちゃうのは、ちょっと胃が痛いけど……」
『ハハッ、こればっかりは仕方ないさ。今のお前は、目立つ事が仕事でもあるからな。4cardの方は戦ってみたい! って雰囲気でも無いから、このまま打ち合わせ入っちゃって大丈夫か?』
おぉ、彼の方はsevenと違って好戦的ではないのか。
それは助かる……というか、もう一回他の賞金首と対戦とか、無理。
結構短い対戦時間だったというのに、何か物凄く疲れた……。
相手は自分より格上だってずっと認識しているからなのか、何をやっても上手くいかないんじゃないかって気がして来てずっと不安になるのだ。
実際彼女に向けてちゃんと銃を構えたのなんて、最後の一発だけだし。
それ以外は、全て牽制目的。
これさえも綺麗に回避行動を取られていたのが分かったから……正直、撃ち合っても勝てる気がしないのは確かだ。
「うん、それでお願いします。もう一戦って言われても、ちょっと困っちゃうかな……今回だって運が良かったとしか言いようがないし。立て続けにやっても、多分あっさり負けるだけだと思う」
『自信がない所は相変らずか、まぁ良いさ。んじゃ一旦ログアウトして、普通にパソコンの方から通話を繋ぎ直してくれ。とはいえ、賞金首同士でのサブキャラプレイ、そのルール確認程度だから。あんまり気負わなくて大丈夫だぞ』
「うぅ……なんかソレでも、無駄に緊張するんだけど……」
『帰りに甘いもん買って帰ってやるから、もう少し頑張れ。何が良い?』
「我儘言って良いなら……チーズケーキ、食べたい……」
『あいよ、任せろ。帰り道に新しいケーキ屋が出来たみたいでな、色々買って帰るから楽しみにしておけ』
という事で、賞金首同士の決闘は幕を下ろした。
今回はこんなオンボロ屋敷だったから良かったけど、もっとしっかりした場所とか広い所だったら確実に負けていた。
というか実際彼女の動きを見て思ったんだけど、正面からsevenの動きに対応するとか無理。
私の技術じゃ、狙っている間に蜂の巣にされる未来しか見えない。
しかも銃を奪い取られる瞬間にセーフティを掛ける瞬発力と判断力とか、ヤバ過ぎでしょ。
こっちがあまり銃に詳しくないって情報を前もって知っていたのかもしれないけど……それでも、本番でソレを実用的に生かして来るとか信じられない。
こういう弱点も減らしていかないと、その内普通のプレイヤーからも同じ事をやられる可能性があるって事だもんね。
うぅぅ……やっぱり何度やっても、銃って難しいよぉ……。