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彼らは常に、私のことを神だと言った。
私はその時、それを信じてはやまなかった。
だからこそ、あれだけ長く鎖国していたし、様々な事象から目を背けていた。けれど、そうやって盲信している間にも時は過ぎていく。
欧州各国は力をつけ、アメリカと呼ばれる国からの使者が私の元を訪ねてきた。
正直なところ、私は億劫になって現実から逃げていたのかもしれない。
だからこそ、開国した。
現在の時。
荒波に飲まれてしまったような気がする。
遠くなっていく意識に鞭を打ち、覚醒させる。
「(大丈夫だ。負けることなんてないから)」
言い聞かせるように、言葉を自分の中に解き放つ。
全ては我が祖国の為、神である天皇の為。大丈夫、力はあるんだ。負けやしない。
「hay、大変そうだな?」
「っ、」余裕そうな顔を見せるほど相手は余裕があるのか。こんなやつに負けるほど、私は弱いのか。
戦況も、何もかもがアイツの方が上だ。
私の仲間は先の戦いで負けてしまっている。けれど、諦めるわけにはいかない。
苦しくても、辛くても。
天皇自らが、降伏を伝えた。
我が国は、祖国は、負けた。
ずしりと体にのしかかる事実に、目を背けてしまいたい。耳を塞いで、聞こえないふりをしてしまいたい。
でも、そんな事は許されない。
長崎、広島に落とされた原爆はたくさんの被害を生んだ。
後日、日本には連合軍が訪れた。
全部部隊が日本全土に駐留し終わった頃には、私は限界を迎えていた。続く戦いの最中で沢山の怪我を負い、死にきれずに哀れに生き残ってしまった私は、病院の一室で毎日を過ごしていた。
怪我の痛みは、結局のところは変わらない。
そんな時、一人の人物が訪れた。
「Hello、Japan」
「……、はろー。アメリカ」
私は、コイツが嫌いだ。けれど、痛みでひりつく喉は言葉を発さない。
心の内に留めておいた言葉が、視線になって相手に向けられる。
「そんな睨まないでくれよ?傷つくだろう?」
どうして、そんな事をコイツが言える。恨みと怒りでどうにかなりそうだ。
そう思っていると、自然と口から言葉が漏れ出す。
「…長崎や、広島は多くの被害に遭ったぞ。」
「ふはっ、面白いことをいうな。けれど、俺はちゃんと注意をしただろう?」
……。しばし、無言の時間が続く。
「(わかってる。今の現状は全て、この国のせいだ。)」
けれど、それを私自身が認めてしまえば死んでいった人々がどう思うのか。
考えたくもないな。
前々から、確かに違和感があった。
けれど、今はその違和感が頭痛となって誇張してくる。
バンっ!
大きく、そして勢いよく扉が開かれる。
唖然とした顔のまま、アイツを見る。
「ヘイ日本、調子はどうだい?」
アイツ特有の謎の声の大きさで、また少しだけ頭痛がひどくなる。もう、ダメなんだろうか。
思考が暗闇に落ちる最中、アイツは俺の手を掴み言った。
「外に出よう」思いもしない言葉に、声が出ない。
「………、ぁ、」言葉が詰まる。嫌なわけではない。
ただ、…。
「お前のせいで私たちは傷ついた。」
「お前がこの国を表すのなら…、守る神ならば!!、どうして、」
「…お前のせいでアイツは死んだんだ」
死んでいった兵の家族。
どんな視線を、向けてくるだろう?悲しみなのか、それとも、困惑か、その悔しさをかたどった怒りか。
「私、は」
そういった瞬間、アメリカは私の手を掴み颯爽と駆け出した。
着いた場所は花畑だった。
綺麗な紫色のヒヤシンスが咲く花畑。
「っ、き、れいだ。」張り裂けるような喉の痛みの状態から、言葉を紡ぎ出す。
「日本、大日本帝国。」
突然、名前を呼ばれる。そうしたら、アメリカは確かめるように私の頬に触れる。その手は頬に触れ、首筋に行く。
「な、」顔が茹蛸の如く赤くなる。
それでもコイツは気にもとめずに、触れるのを続ける。
「お前のところの、花言葉。」花言葉?、ヒヤシンスのか?
「紫色のヒヤシンス。それは、」
「 ごめんなさい 」
言われてから、数分経って覚醒する。
確かに、紫のヒヤシンスの花言葉はごめんなさい、だつた。
「………、」反省をしている?本気で、謝ろうとしている?
自らが行ったことを、しっかりと……。
長い間、沈黙が続いた。
そのあと、アメリカは拙く言葉を声に出す。
「俺たちは、国の象徴だ。
それは、国の意思を体現する存在でもあって、国というものを人の身で表す存在だ。
けれど、俺たちにも意志がある。」
「それ、は国の方針と違うものでもあったりする。だから、…。
なんて、きっと言っちゃいけないけどさ。」
「‥‥許してもらえるなんて思ってもいないけど。」
「…、ごめんなさい。傷つけてしまって。」
そういったあと、また黙りこくってしまった。
ああ、コイツはそんか思いで生きていたのか。
許してはいけない。
けれど、コイツはひどく孤独に怯えて、それでも上を目指すが故に、一人になって、力を持って。
いつしか、人と国と関わらなくなった。
話していた時のコイツは、ひどく幼い子供に見えた。
「…、お前も、被害者なんじゃないのか。」
「え、」
「勘違い、ではなかったのかもな。お前は、まだ子供だよ。
…まあ、確かにお前がしたことは許されない。それに、私は許さない。
でも、加害者でもある。…私、もな。」
「アジア内での戦いで、罪のない一般人を殺したよ。人質も、実験台にして殺した。」
そう、私も、アメリカも。
…、みんな被害者で、加害者なんだ。
*
貴方たちは、永遠を生きる
私たちは、化け物だ。
それは、不死身であることが、歳を取らぬことが物語っている。
でも、化け物にも心がある。
だからこそ、心無いことを言われれば傷つくし、褒められれば嬉しい。
私たちは、化け物だ。
国を人の身で体現し、国をその身で表す。神様なのかしれないし、永遠を生きるその場に居合わせてしまった化け物なのかも知れない。
だとしても、心があるから思いがある。
何かを国が追い求めたとしても、私たちが不快に感じればそれは嫌だ。やりたくなんかない。
人を、傷つけたくない。
結局のところ、私たちは人の世に振り回される不死身なのだ。