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玲於は一瞬、手を止めて鏡越しに俺を見る。

「また急にどうしたの?」


「んー、なんか、行ってみたくなった。だめ?」


「……ふふ、霄くんがオフのときにそんな言い方するなんて、珍しい」


俺はなんとか了承を得ることに成功した。



──そして夜。


「玲於~、モンエナ飲みたい。あと、アイス食べたい。コンビニで買ってきてくれない?」


「え、さっき通ったとき要らないって言ったのに?」


「お願いっ。一生のお願いだからっ!」


「……もう、仕方ないなぁ。いい子に待っててね?」


「も、もちろん!」


玄関が閉まる音を聞くや否や


俺はすぐに立ち上がった。


心臓がバクバクとうるさい。


こんなこと、きっとバレたらただじゃ済まない。


でも、確かめたい。


俺を“好き”だと言ったその目の奥に


どんな“真相”があるのか。


(あ、あった……)


部屋の一番奥


『立ち入り禁止』の札が掛けられた扉。


鍵は掛かっていない。


(やば……)


開けた瞬間、空気が変わった。


壁一面に貼られた写真。


どれもこれも──俺。


通学路


コンビニ


電車内


ベンチでスマホをいじってる俺


寝落ちしてる俺。


中には、俺の部屋の中と思われる構図まである。


足元が震えた。


そして、部屋の中央──


ダブルベッドの上に、俺と寸分違わぬラブドールが横たわっていた。


「うそ……」


開いた口が塞がらない。


背筋が凍る。


足元から冷たさが這い上がってくる。


パソコン


そばに貼られた付箋にログインコード


…雑すぎる。わざととしか思えない。


でも、指は勝手に動いていた。


PCを起動し、コードを打ち込むと──


ログインが成功。


「……姫野霄 専用ファイル 01~11」

「ラブドール 霄くん ファイル01」


恐る恐るクリックすると、次々と開かれるフォルダ。


俺の盗撮写真が、延々と。


そして、ラブドールの俺にコスプレをさせた写真。


セーラー服、ネコミミ、ナース


やがてベッドの上で玲於と行為に及ぶショット


写真の数は…5,000枚以上。


「……っ!」


手が震えた。パソコンを勢いよく閉じる。


パスコードが目の前にあるのもおかしい。


まるで――


(まさか、気付いてた?最初から……)


その時だった。


「やっぱりここにいた」


背後で、扉が開く音がした。


ビクッという効果音がなりそうなぐらい肩が跳ねて、身体が、動かない。


恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは──


笑顔の玲於。


「霄くん、見ちゃったんだ」


優しい顔だった。


──今までと、同じように。


でも、その目の奥にあったのは、どこまでも深い、底の見えない執着の色だった。


(やばい、やばい、やばい──)


心の中で警報が鳴り響く。


逃げなきゃ。でも、足がすくんで動かない。


玲於はゆっくりと俺に近づいてきた。


その瞳は、いつもと同じように優しかったけれど

今なら分かる。


ただ単に、俺が鈍感だっただけで。


「…こ、この前玲於のスマホに俺の盗撮写真があったときからおかしいとは思ってたけど…な、なんなのこれ…っ?」


「はは、やっぱスマホ覗いたんだ?」


玲於の手が伸びてきて、俺は思わず身を縮める。


「俺さ、1年前に霄くんがSNSでソラとして活動してんの見て、好きになって、それ以降ずーっとストーキングしてたんだよね」


「ストーキングって…そ、それに俺のこと好きって…またソラの話?」


他のおっさんや信者にはソラが好きだと称えられるのは別に良い


でも、玲於にソラが好きだと言われるのは、なんか嫌だ。


結局誰も、俺の中身には興味無いんだって思い知らされるから。


「違うよ、俺が好きなのは自然体の霄くんだもん。ネットのソラなんて、一部でしかない」


「俺の中身なんか、嫉妬深くて陰キャでなんの取り柄もない……そ、そんな俺なんか好きになるはずが…っ!」


「好きだよ、ネットの猫かぶりなソラくんも、普段の素直じゃない霄くんも」


玲於が一歩、また一歩と近づいてくる。


俺はその度に後ろへ下がるけれど


……部屋の端はすぐそこだった。


「ずうっと見てきたんだからさ」


──壁際。逃げ場は、もうない。


玲於の足音が、じわりじわりと距離を詰めるたびに、俺の鼓動は一段と早まる。


頭では「逃げなきゃ」って叫んでるのに、足が、腰が、動かない。


なのに心の奥底では、――ほんの一部だけが震えていた。


それは恐怖でも怒りでもない。


もっと、ずっとタチの悪い感情。


(……こんなにも、俺のこと見ててくれたんだ)


コスプレ、ラブドール、写真、写真上の「俺」


冷静になればなるほど、歪んだ執着の痕跡ばかりだ。


それなのに、俺の中に湧いてくるのは


どうしようもない、優越感と高揚感。


(誰よりも、俺を見ててくれた)


玲於の目が、俺を見ている。


いつもの優しさに包んだ表情のまま、その奥底にあるのは完全なる所有欲。


「俺ね…霄くんに好きになってもらおうと必死だったんだよ?だから気を引くために嫉妬させるような言い方もしてきたし、わざと約束もドタキャンした」


玲於は壁際に俺を追い詰めると、その長い腕を広げて俺の両側を塞いだ。


俺はまるで檻の中の鳥みたいに身動きが取れなくなる。


「わ……わざ、と?」


「うん。霄くんが俺のことで病んで上手いことリスカまでしてくれたらそれだけ俺のことを考えてくれる時間が増えるでしょ?」

キミだけのラブドールなんてウソ

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