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成瀬りん
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ももは
551
エンジン音だけが、静かな車内に響いていた。
助手席の原田は落ち着かない様子で、何度もバックミラーを確認している。
その沈黙を破ったのは、畑中だった。
「……鷹野が変わった理由、心当たりはないんですか?」
原田は目を伏せ、小さく息を吐く。
「昔のあいつは……本当に優秀で、努力家だった。俺の誇りだったんだ」
感情を押し殺すような声だった。
畑中はハンドルを握る手に力を込める。
「じゃあ、なぜ――」
「それが分かれば、苦労しないさ……」
原田は乾いた笑みを浮かべ、額を押さえた。
その時――
ガタンッ!!
車体が大きく横へ揺れた。
「なっ……何だ!?」
原田が振り返る。
窓の外には、数体のモンスターが車体へ張り付いていた。
触手のような腕で車を締め付け、無理やり止めようとしている。
「クソッ……!」
畑中は迷わずアクセルを踏み込んだ。
エンジンが唸りを上げる。
右へ。
左へ。
急ブレーキ。
急発進。
畑中の正確なドライビングに耐え切れず、一体目が吹き飛ぶ。
さらに電柱すれすれを駆け抜け、二体目も激突。
最後の一体もフェイントによる激しい縦揺れで車体から振り落とされ、街灯へ叩きつけられた。
静寂。
畑中は小さく息を吐く。
「……これで撒けたな」
車は再び夜の街を走り始める。
しばらく沈黙が続いた後、畑中が静かに口を開いた。
「……今のも、あなたが作ったものですか?」
原田は苦しそうに頷く。
「……ああ。私の研究が元になっている。だが……まさか、あんな化け物になるとは思わなかった」
その言葉にも、畑中は何も返さない。
ただ前だけを見据え、静かに呟いた。
「……被害を出す前に、必ず終わらせる」
その一言には、怒りと覚悟が込められていた。
車は夜の道路を切り裂くように走り去っていく。
原田は流れる景色を見つめながら、小さく胸の内で呟いた。
(鷹野……お前は、どこで間違えたんだ……)
一方、その頃――
草むらに腰を下ろした公太たちは、静かに呼吸を整えていた。
虫の鳴き声。
風に揺れる草。
束の間の静寂だった。
「……なぁ」
公太がぽつりと呟く。
「鷹野って奴さ……なんで悪に染まっちまったんだろうな」
唯我は空を見上げたまま答える。
「人間なんて、環境と欲でどうにでも変わる。善にも悪にもな」
少し間を置き、続ける。
「……だが、どんな理由があろうと、人を傷つけた時点で言い訳にはならない」
その言葉は冷たく、揺るぎなかった。
一祟は静かに微笑む。
「……それでも僕は、人の心の奥底に本当の悪はないと信じたいです」
唯我が視線だけ向ける。
「綺麗事だな」
「ええ。でも、誰かが手を差し伸べれば戻ってこられる人もいる……そう信じています」
再び静寂。
「……そうならいいな」
公太は草を一本ちぎり、空へ放った。
その時――
ゴォォォォ……
風が変わった。
空気が重い。
肌を焼くような熱気が辺りを包み込む。
「っ……なんだ、この気配!」
公太が勢いよく立ち上がる。
唯我は静かに剣へ手を伸ばす。
一祟も表情を引き締めた。
地面が震えた。
空間が歪む。
そして――
闇の中から、ゆっくりと三つの人影が姿を現した。
一人は腰に長刀を差し、背筋を真っ直ぐ伸ばした剣士。
礼儀正しい立ち姿とは裏腹に、全身から凄まじい殺気を放っている。
もう一人は両拳をぶらりと下げ、独特な歩調で近づいてくる体術使い。
歩くたび、大地がわずかに震えた。
最後の一人は両手を後ろで組み、静かに立っているだけ。
しかし、その周囲では光の粒子が舞い、空間そのものがゆっくりと歪んでいた。
誰も口を開かない。
だが、それだけで十分だった。
三人は理解する。
――今までの敵とは、格が違う。
静寂の中、三つの影がゆっくりと歩みを進める。
新たな戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。
コメント
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あおいです🌷 第61話、読みました。畑中さんの冷静なドライビングと、原田さんの苦しみが混ざる車内の空気、すごく引き込まれました。「今のも、あなたが作ったものですか?」の問いかけに、原田さんが頷くしかないもどかしさ…胸が締め付けられます。 そしてラスト、三つの影の登場。剣士、体術使い、空間を歪ませる者——それぞれの佇まいだけで格の違いが伝わってきて、背筋が伸びました。公太たちの静かな緊張感がひしひしと伝わってきます。次が気になります…!