屋上に立つ少女の目には、絶望しか映っていなかった。「もう終わりにしたい」と、心の中で呟きながら、
彼女はゆっくりと足を一歩前に踏み出す。怖さなど感じない。この世界にいること、それが彼女にとって最大の恐怖だった。
明日を迎えることさえ、彼女には耐え難い苦痛である。後ろを向いて、空を仰ぎ見る。深呼吸をして、
もう一歩、後ろに踏み出したその瞬間、少女は屋上から身を投げた。
落下する間、星空が目に焼き付き、やがて彼女は闇に飲まれていった。
霜月メイ16歳 その短い生涯を終わらせようとした。
ドックン、と自身の心臓の音が耳に響く。体中が激しい痛みに包まれながら、メイは目を覚ました。
「おい、大丈夫か?立てるか?」目の前に、同じ年頃の男性が彼女を抱きかかえていた。
「私、生きてるの?」とメイが尋ねると、少年は困惑したように答えた。
隊員 広瀬 翔太(ひろせ しょうた)「何いってるんだ、突然倒れたんだ。今から討伐だぞ、行けるか?」
「討伐?」彼女が周りを見渡すと、軍服を着た少年たちが心配そうに彼女を見ていた。
そこへ、一人の男性が入ってきた。隊長 桐生 蓮(きりゅう れん)「おい、どうした?列に戻れ。」
少年たちは迅速に列に戻り、彼女を抱きかかえたままの少年も列に戻った。
蓮「何があった?」翔太は「いえ、大丈夫です。めまいがしただけです」と報告した。
蓮はうなずいて、「そうか、では出発するぞ」と言い、メイを抱えたまま軍隊は森の中へと進んでいった。
「いったいどうなってるの?私は…」混乱するメイに、翔太は言った。
「おい、ここで逃げたら隊員降ろされるぞ!あこがれて入隊したんだろう!」彼の言葉は、
メイにとって意味不明だった。彼女の記憶には、軍隊に入隊したことなどない。
意識が徐々に戻ってきた。確かに、彼女は屋上から飛び降りたはずだ。その後、いったい何が起こったのだろう?
混乱するメイの頭の中で思考が渦巻く。しかし、確かに彼女は生きている。体中が痛み、頭も激しく痛むが
何とか少年たちの列に入って歩いている。
森の中を進む中、翔太が言っていた「討伐」という言葉を思い出す。「ねえ、討伐って何?」と少年に尋ねた。
「最近、森の中に魔獣が出て人を襲うんだ。その討伐だ。」
「ま、魔獣って……?」メイには全く理解できなかった。この状況は一体どういうことなのか?
その時、ピーッ!!と笛の大きな音が響いた。「出たぞ!魔獣だ」と翔太が叫ぶ。
メイは驚きと恐怖で声を上げる。「え、えええ!」
翔太は冷静に言う。「練習通りにやれば問題ない。」隊員たちは素早く自分たちの持ち場に着いたが
メイはその場で立ち尽くしてしまった。「あいつ、何やってるんだ」と翔太が不審そうに言う。
その瞬間、メイの前にゆっくりと魔獣が現れた。おびえるメイは、動くこともできずに
その場に立ち尽くしてしまった。魔獣の冷たい視線が彼女を貫くように感じられ、メイは全身が震えた。
「撃て!」隊長の声が響き渡ると、少年たちは一斉に銃を構え、目の前に現れた魔獣めがけて撃ち始めた。
しかし、その魔獣は予想以上の俊敏さで軽やかに上空へと舞い上がり、少年たちの攻撃をかわすと、
瞬く間に方向を変えて尻尾で彼らをなぎ払った。
その光景を目の当たりにしたメイは、恐怖に震えながら頭を抱えてしゃがみ込んだ。その時、
魔獣は再びメイの方へと近づき、彼女の目をじっと見つめた。メイが何かを感じ取ったかのように
「え?」と小さな声で呟くと、不思議なことに魔獣は突如として真っ二つに裂けた。
「やったか?」隊員の一人が声を上げるが、すぐに別の声が返ってきた。「いいえ、逃げられました。」
どうやら魔獣は彼らの目の前から姿を消したらしい
その時、一人の上官らしき人がメイのもとへと近づいた。
副司令官の天城 凌(あまぎ りょう)「お前、死にたいのか?なぜ持ち場につかない?」
彼の声には怒りと不安が混じっていた。メイはただただ混乱し、
何が起きているのかさっぱり理解できない状態だった。
その時、蓮が割り込んできた、「すまない、俺の責任だ」と謝罪した。
しかし凌は「隊長の責任だけでは済まない、一歩間違えたら全員の命が危険にさらされていたんだぞ」
凌はメイの前に立ち、鋭い目で彼女を見下ろした。「貴様、いつまでそうしているつもりだ?」
その時、隊長の蓮が、副司令官の凌に向かって言った「待て、俺の責任だと言っているだろう」
凌は冷笑を浮かべ、蓮を睨み返した。「そうか。ならば部隊長も懲罰を受けてもらうぞ。」
その緊迫した空気を割るように、司令官、御堂 國光(みどう くにみつ)が二人の間に割って入った。
「まあいいじゃないか。誰もケガしてないんだしさ、今日は新人達の初討伐なんだから、その辺にしとこうよ。」
凌は不満げに眉をひそめた。「國光様、あなたのその甘さが、隊の規律を乱しているのです」
連は軽く頭を下げた。
國光は凌に向かって手を振った。
「凌もそんなに怒らないで!さあ、今日は大事な会食があるし、ここは一旦帰りますか」
そして、部隊は森から引き返し始めた。翔太に支えられながら、メイもゆっくりと歩いていた。
翔太は心配そうにメイに声をかけた。「お前、大丈夫か?」
メイは疲れた声で答えた。「ありがとう、私、何がどうなっているのか…」
翔太は優しく微笑んで「お前、名前は?」メイは少し戸惑いながら答えた。「霜月メイです」
「オレは広瀬 翔太だ、新人同士がんばろうな」
翔太はふと思い出したように言った。「でも、あの魔獣、メイを襲わなかったな。」
メイは魔獣のことを思い出した。自分の目の前に来た魔獣は、何かを訴えているように見えた。
しかし、それが何かはわからない、メイの頭はまだ整理がついていなかった。
登場人物紹介
メイは、現世で壮絶ないじめに遭い、その苦しみから逃れるために自ら命を絶った悲しい
過去を持つ少女。彼女はいつもうじうじと悩む性格で、自信のなさを内に秘めている。
しかし、その繊細さが、時には他人の心の痛みを深く理解する力となる。
翔太は、メイと同じく新人隊員であり、彼らが所属する部隊において
新人隊員の中でトップクラスの成績を誇る優秀な存在。
常に周囲の仲間に気を配り、優しく面倒見がいいため、多くの隊員から信頼されている。
彼の存在は、新しい環境で戸惑うメイの大きな支えとなる。
蓮は部隊長としてその名を知られ、剣術の腕は抜群だ。
厳格な指導者でありながら、時には優しさを見せる一面も持つ。
隊員一人ひとりを大切に思い、その成長を常に見守っている。
彼のリーダーシップと人柄が隊員たちの信頼を集め、全員が尊敬の念を抱いている。
蓮の存在が部隊の団結力と士気を高め、どんな困難にも立ち向かう力となっている
凌は常に冷静沈着で、的確な判断力を持つ人物だ。その鋭い洞察力と厳しい指導により
隊員たちから一目置かれ、時には恐れられる存在でもある。頭脳明晰で戦略的思考に長けており
その能力は隊の中でも際立っている。凌の存在が部隊の作戦成功に大きく寄与し
彼のリーダーシップは隊の信頼を一層強固なものにしている。
國光は、一見おちゃらけた感じで周囲を和ませる存在。しかし実は
魔獣討伐において天才的な能力を持つ。その軽妙な態度の裏には、鋭い戦略眼と
卓越した戦術が隠されており、数々の戦場で驚異的な成果を上げてきた。
しかし、その素顔や過去についてはまだ多くの謎に包まれており、隊員たちの間で
一層の興味と敬意を集めている。司令官の存在が部隊の士気を高め、常に新たな挑戦へと導いている。
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