放課後になって体育館へ入るとまどかの元へ斗真が駆け寄って来る。
「まどか先輩、苗字教えてください」
なぜそんな話になったのか分からないまどかは大和に目配せする。大和がまどかの視線に気づき、口パクで何かを伝える。大和の言葉を理解するとまどかの顔が徐々に青ざめていく。
「全部言ったってどういうことよ大和」
怒りの籠った低い声。今にも大和に掴みかかりそうなまどかを見て瑠奈が仲裁に入る。
「まどか、もう隠し通すのは無理だったのよ。どうせ総体で分かっちゃうことでしょ?」
瑠奈の言葉で冷静になったまどかは一息で言い切る。
「本名伊集院まどか。伊集院家当主直系の孫で大和の幼なじみ。弟は神童の鬼って呼ばれていて私は卓球で全国優勝したの。通り名は神童の怪物とか鬼姉って呼ばれてるらしいわ。これでいいかしら?」
本人の言葉を聞き、納得している1年生を見てほっとしたのも束の間で篤人が予想外のことを言った。
「今朝話していた神童のバケモノって先輩の知り合いですか?」
まどかは篤人の話を聞き、ようやく朝の練習を見られていたことに気づく。大和と話していたことが筒抜けだったことにも気づき、まどかは焦る。どう答えたら良いか考えていると空気を遮るように優馬が入ってくる。
「大和!明日U20の練習に参加するか?総体前の最終調整ってことで」
総体まで残り2日。練習時間があまり取れていない大和を気遣ってのことだった。優馬は1年生の方を見て声かける。
「1年生も見学しに来る?さすがに練習は混ぜてあげられないけど」
優馬の提案を聞いて3人は満面の笑みで即答する。一方でまどかや大和は神童のバケモノの正体がバレないか心配しつつ明日を迎えることとなる。
U20日本代表で練習をしている大和を見て大和を追いかけて星蘭へ来た如月兄弟はもちろん、斗真も目を輝かせていた。斗真の兄である隆二との1on1をすることもあり、代表メンバーまで注目していた。そんな中で1人の仮面をつけた少女に目が行った。星蘭高校での練習もハードだがやはり、U20での練習はよりハードに見える。その中で1人淡々と練習をこなす少女も代表から注目されているようで自然と目で追う。するととんでもない光景を目の当たりにした。大和と隆二が少女の元へ行き10点先取の勝負を持ちかけたのだ。斗真は驚いて兄の元へ駆け寄る。自主練に入ったからか、咎める人は誰もいない。
「兄貴!流石に女の子1人にU20代表のキャプテンと大和先輩で勝負持ちかけるってやばいだろ」
2人は斗真の肩を軽く叩き、声を揃える。
「悔しいが、これくらいでちょうどいい」
驚いたのは斗真だけでは無い。如月兄弟もコートぎりぎりまで近寄って注視していた。勝負が始まるとあまりの凄さに驚きを隠せない。1対2で不利なはずの少女がハーフラインから先制点を決めたのだ。一方で決められた2人は最初からこうなることが分かっていたかのようにパスをしながら一気に駆け抜けて行く。ゴールへ飛ぶ大和へ隆二がパスを出す。アリウープが決まるだろうと思った1年生3人は目の前の事実に驚愕した。先程まで隆二の前にいた少女がゴール前まで戻り大和より先にボールを奪い取ったのだ。そして一気にドリブルをしてインサイドまで行き、シュートを決める。その後も大和からのパスをカットし、その場で3Pシュートをきめる。1点も取れていないのは大和たちも想定外のようで高速でパスを回し、最後隆二がダンクを決めた。しかし、仕返しと言わんばかりの勢いで少女はドリブルをしていき豪快にダンクを決め、2対10という圧倒的な差で少女が勝利したのだった。
「何がちょうどいいのかしら?」
大和や隆二は仮面の下でイタズラっぽい笑顔で笑っているであろう少女、まどかを悔しそうな表情で見る。周りの代表たちも見慣れた光景になっていたが2対1を見たのは初めてだったらしく、ざわざわしていた。
「やっぱバケモノって言われるだけあるな」
斗真はこの言葉を発した人の元へ行き、詳しく教えて欲しいと頼むと周りの人達も一緒に話だした。
「当時小学5年生だったあの子が神童のバケモノだったんだ。1人で何世代も上のU18の代表メンバーをオールコート、40分間戦って圧勝したらしいぞ。」
一緒になって聞いていた如月兄弟も驚き、大和の元へ向かう。
「大和先輩!この人どこの高校にいるんですか?」
大和はにやっと笑い、星蘭と答えた。それを聞いていたまどかは大和を軽く蹴り咎めている。
「まどか先輩だったりして…」
ふと和真が呟いた。どう返すか2人が考えていると後ろから隆二が現れる。
「んなわけねーだろ、こいつバスケ部入ってないし学校もほぼ行かずバスケばっかりだし。」
疑いの目を向ける1年生に大和が夢見すぎだろと続ける。
「こいつが学生の試合に出てくれるわけねえだろ。小学生の時にU18ボコボコにしてんだぞ。あとお前も名乗っとけ」
まどかの肩を軽く叩くとため息混じりに話し始める。
「桐生まお。大和のいとこでまどかの幼なじみ」
ぶっきらぼうに答えるまどかを見て大和が1年生にとんでもないことを言う。
「お前らもこいつと1on1したらいいじゃねーか」
きょとんとする3人を差し置いてまどかはいたずらっぽく答える。
「3on3ならいいよ。あなた達も試合前の良い練習になるでしょ?」
そう言ってまどかは大和と隆二の腕を掴み3人の前へ連れていった。
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