テラーノベル
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その日の校舎裏のコンクリートは、
いつもより白く見えた。
……いや、
眩しいだけかもしれない。
翠は、壁に手をつこうとして、
指先が空を掴んだ。
「……?」
視界が、ふっと揺れる。
音が、遠くなる。
——なんで、ここに来たんだっけ。
胸が苦しい。
息が浅い。
でも、怖い理由が思い出せない。
「……大丈夫……」
誰に向けた言葉かも、分からない。
膝が折れて、
そのまま座り込む。
冷たい。
コンクリートが、やけに現実的だった。
排水管と草の隙間から不自然に光が照らしている。
スマホ。
「……あ」
焦って画面を確認する。
録画中。
赤い点。
——いつから?
止めようとして、
指が迷う。
「……止め……」
でも、
止めたらいけない気がした。
何か大事なことを、
していたはずで。
でも、
それが何なのか、
どうしても、出てこない。
頭の中が、
白いノイズで埋まる。
殴られた記憶も、
声をかけられた記憶も、
全部、輪郭だけ残して消えている。
残っているのは、
「ここは危ない」
それだけ。
なのに、
体は動かない。
呼吸が、うまく吸えない。
「……赫、ちゃん……」
口から零れた名前に、
自分で驚く。
——なんで、今、赫ちゃん?
理由が、続かない。
視界の端で、
影が動いた気がした。
でも、顔を上げる力がない。
——誰か、いた?
——それとも、ただの風?
分からない。
翠は、
壁に背中を預けて、
ずるずると滑り落ちる。
「……俺……」
“何をしてるんだっけ”
その続きを、
どうしても言えなかった。
翠の手の中で、
スマホがまだ動いている。
赤い点だけが、
無言で、全部を記録している。
理由を忘れた翠と、
忘れなかった証拠。
そのズレが、
静かに、翠を追い詰めていく。
目を閉じると、
校舎裏の音が遠のいた。
倒れたのか、
倒れかけただけなのか。
——それすら、
もう、はっきりしなかった。
コメント
1件

ああぁちょっとほんとに翠さん?? 大丈夫ではないんよ(