震える身体を自分の手で包み込む。長引く快感の余韻が抜けなかった。
初めて‥他人から与えられた快楽は、俺の想像を遥かに超えていた。自慰の時とは比べ物にならない。強烈な刺激。
それでも、呼吸を整えようと深呼吸をする。深く息を吸い込み、吐き出そうとした瞬間‥それを狙い澄ましていたかのように、
ガシッと片足を持ち上げられ、ハッと見上げた。足首を握りしめながら、祐希さんの目が怪しく俺を捉えている。いつもの聡明さは消え失せ、怖いぐらいの貪欲な目に思わず足を閉じようと力を入れるが、逆に大きく開かされてしまう。
全てが露わになる格好。その最奥の部分に祐希さんの視線が集中しているのが伝わり、ジタバタと足を振り回す。途中、蹴りが顔面に当たっても構うもんかと覚悟を決めるが‥
「暴れるの?抱いて欲しかったんじゃないの?」
自分の身体に降ってくる、冷ややかな声に体が硬直する。俺がこんなに暴れると思わなかったのか‥祐希さんの瞳が今はゾッとするほど冷たい。
何の感情も貼り付いていない顔が間近で俺を凝視する。グッと近づいてきたせいで、またあのキツイ香水が鼻腔をくすぐった。
嫌な匂い。他の女性を連想させる匂い。
祐希さん自身は気付いているんだろうか‥。
他の匂いを纏いながら俺を抱こうとしている事に。
でも、
だからこそ不安が襲う。もし、ここで再び拒絶すれば祐希さんは、俺を抱いてくれないのではないか。
そのまま、離れてしまうのではないか。
1つの不安は次第に全身へと拡がる。ジワジワと侵食する。
捨てられてしまうかもしれない。年下のこんな男なんて。元々付き合えているのが不思議だった。甘いマスクの祐希さんにかかれば、女性など引く手数多なはずだ。何故、自分を選んでくれたのか今だに理解できない。無骨で何の取り柄もない俺を。だから、アッサリと捨てられる日なんて、案外早く訪れるのかもしれない。
そんな考えが蔓延り、喉奥が震える。呼吸が不安定になるほどの。
嫌だ、それだけは嫌だ。
拒絶してはいけない。
自分を包み込むように支えていた腕に密かに力を込める。小刻みに震えるのを何とか抑えながら、振り回していた足の力を抜いた。
もう抵抗の意思はないと伝えるために。
その意思を汲み取るように、また再び片足を高く持ち上げられた。今度はさっきよりも高く、臀部が浮き上がるほどに。
「よく見えるね、藍のここ‥」
「ひっ‥‥‥‥‥‥、」
そう呟きながら吐き出された息が、最奥の部分に吹きかかり、思わず引き攣った声が漏れてしまう。ビクッと身体が身震いするが、歯を食いしばり堪えた。
見られている‥
人目に触れるはずのない場所を覗き込まれる気配に息を飲み込む。耐えきれずに瞼を強く瞑るが、窄まりに突然、指を当てられ、腰がビクンと跳ねた。反射的に逃げ出そうと身構えてしまう。
しかし、祐希さんは気に留める様子もなく、最奥の入口に充てた指をグニグニと動かしながら、俺の反応を伺っている‥そんな気がした。
充てがった指が、入口を撫でたり、広げたりするたびに、身体の震えが止まらない。
「こうやってるとキツイな‥ほんとに経験あんの?‥」
独り言のように呟かれた言葉が部屋に静かに落ちていく。
確かめているんだろうか。俺の言葉を。
しかし、今になって、経験があると言った言葉を撤回する気にはなれなかった。
祐希さんは嘘に対して酷く敏感だからだ。
昔、ほんの少し冗談っぽく呟いた他愛もない冗談にも、眉間にシワを寄せ露骨に不服そうな顔を晒していた事をぼんやりと思い出す。
言えない。
言えるわけがない。
今更‥。
堪えるようにグッと唇を噛む。肯定も否定もしない俺を祐希さんはどう思ったのか。
しかし、
それは、次の行動で明らかとなる。
何の準備もされていない内奥に祐希さんの指が侵入する。乾いた指が内奥に捻り込まれる感覚に、短い叫びが口をついて出る。
「‥うっ、あああ‥、」
絞り出すような声が耳に届いているはずなのに、内部へと深々と挿入された指の動きは止まらない。長いしなやかな中指がまるで体温でも測るかのように奥へと潜り込む。
潤うはずもない入口が、突然の刺激に慄き、収縮を繰り返す。
「嫌だ‥やめ‥て‥」
耐えきれず、眼の前の彼に許しを請う。あまりの異物感と痛みに子供のように泣きじゃくってしまう。
すると、頬を伝う涙に不意に温かな湿り気を感じた。祐希さんの舌がペロリと舐めあげる。
「痛い?」
優しく気遣うような声色だが、そこには微かな残虐性も秘められている事にようやく気付く。
「いま、ローションないんだよね。だから、藍が選んでよ?このままするか、やめるか‥それとも‥」
そこで言葉を区切り、アルカイックな笑みを浮かべる。
「‥俺に舐めてもらうのか‥」
彼の口から到底出るはずもない言葉を耳にし、俺はただ涙目で彼を見つめる事しか出来なかった。
コメント
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多分藍くんはもっと甘々な初体験を想像してたんやろうね、でも祐希くんの気持ちも知らずに煽ってしまったのがアカンかった😅大人な祐希くんを嘘ついてまで煽ってしまった報いを受けてもらうしか(笑) 次回も楽しみに待ってます!