くちゅ‥
 
 荒い息遣いに呼応するように、粘着質な音が重なる。耳を塞ぎたくなるほどの卑猥な音。
 しかし、塞ぐ事も出来ない。
 うつ伏せになって、と指示を受け、抗うことなくその体制になっているからだ。それでも与えられる刺激に耐えきれず、自分を支える両腕が時折震え崩れそうになる。その度に、後ろから叱責が飛んだ。
 
 「んん‥‥あっ、‥‥」
 途中、ぐっと後頭部を押され、上半身がベッドに沈み込む。お尻だけが突き出すような体制になるが、それを気にする余裕はもう無い。
 
 祐希さんの両手が腰を固定し、柔らかい髪が双丘に当たる度に肌が粟立った。入口部分を舌先が這い回っていたのが、唾液をたっぷりと含むと、今度は内奥へと侵入を開始する。
 
 「痛いのは嫌だろ?」
 ‥あれから、結局一言も発することが出来ずにいた俺に祐希さんがそう呟き、ローション代わりだと告げ、最奥に口づけてからどれくらい経ったのか。
 初めての行為に、羞恥心が全身を襲う。
 が、拒む事は出来なかった。
 ただ、震えながら一刻も早くこの行為が終わるのを待つしかなかった。
 
 そして、
 
 傷付かないようにと、配慮しての事なのか‥祐希さんは、長い時間をかけて愛撫し続けた。
 大量の唾液を注ぎ込まれ、溢れたものが膨らみを伝い、それが太腿を伝って流れ落ちる感触に身震いしながらも、俺は耐えた。
 
 やっと解放された時には、息が上がり、攻め続けられた下腹部に、ジンと熱を灯したような、痺れるような奇妙な感覚が沸き起こる。
 どうかしてる‥こんな場所が疼くなんて。
 どうにも居た堪れない疼きを感じ、体制を整えようとするが、その前に、濡れそぼった入口に、グッと長い指が押し当てられる。そしてそのまま、内部を確かめるように押し入ってくる。
 唾液を含まされる前と違い、今度はすんなりと受け入れられた。痛みはさほどない。
 だが 、その指が出し入れする動きに変わった途端、排泄感も重なり、気持ち悪さが増大する。
 奥を抉る指の強さは徐々に増していき、身体は否応なく反応するが、気持ちだけが置いてけぼりにされているような心許なさが突然訳もなく心を支配していく。
 まだ続くのだろうか。
 
 「ゆう‥きさん‥も‥ええ‥から‥」
 
 終わりの見えない行為に、堪らず懇願する。その背中越しに、祐希さんのくぐもった様な笑い声が微かに聞こえた。
 「まだ、2本しか入ってないよ?3本入らないと痛いだろ?」
 耳元でそう告げた後、片手で俺の顎を持ち上げ顔を揺すりながら、祐希さんの瞳が妖しく微笑む。そしてすぐに唇を塞がれた。
 哀願する声も吐息も何もかもが、熱い唇に奪われていく。貪られる。痛いほど舌を吸われ歯列をなぞられ、飲み込み切れない唾液が顎を伝って零れ落ちていく。
 その間も、下半身を責める手は止まることなく‥とうとう、3本の指が中に侵入し、内奥を抉り続けた。
 
 
 何かを探るかのように、内部で指が蠢き、その指がある一点に触れた瞬間、身体がビクンと反応した。電流が走るほどの衝撃。
 
 「んんっ、‥‥‥」
 
 身体中が粟立つ。それは、今までの比では無かった。苦しいぐらいの刺激が身体中を駆け巡る。
 俺の反応に気付いたのか、唇を塞いでいた祐希さんがゆっくりと離れ、満足気に呟いた。
 
 「気持ちよくなってきた?俺の指、締め付けてんじゃん、もっと欲しい?」
 
 耳朶に唇を這わせながら、卑猥な言葉を発する声に、夢中で首を振った。
 今まで、味わったこともない感覚に、無我夢中で祐希さんに抱きつきたい衝動を抑えるのに精一杯だった。
 体の奥から何か得たいのしれないものが競り上がってくる。
 怖い。嫌だ‥
 
 「やっ‥だ‥これ以上は‥怖い‥」
 身を任せると決めたのに弱音がポロポロと滑り落ちる。
 自分の体の奥で、何かが蠢いている。
 未知の感覚は恐怖でしかなかった。
 だが、
 俺の言葉に対しての祐希さんの返事は辛辣だった。
 
 「は?怖い?こんなに勃ってんのに?俺が嫌なわけ?」
 「ちがっ‥」
 「泣くほど嫌なの?他の奴とは寝たくせに?」
 「そ‥それは‥ごめ‥、ちが‥」
 嘘だったんだ。そう言わないと抱いてくれないと思ったから‥
 涙を零しながら、あれは嘘だったと俺はついに白状した。経験などないと。
 でも、
 「そんなの今更信じると思うの?バカだな、藍は‥。‥クソ‥大事にしてたのに‥お前が大事だったから‥俺は‥」
 「嘘じゃな‥あっ、」
 
 「もういいって。ほら、足開けよ、今から抱くんだから‥」
 聞く耳を持たないとばかりに、乱雑に指を引き抜かれ、尻肉をバシンと叩かれた。ジンとした痛みの後、長い指が食い込み、悲鳴を上げる。
 直後、指で限界まで開かされた最奥の部分に、熱を持った狂気のような塊が押し当てられた。
 先端部分がツンと触れただけで、凍りつくような戦慄が走る。
 打ち震える自分の目尻から涙が一雫溢れるが‥祐希さんの欲望は留まらなかった。
 そのまま腰を深く沈み込こませる。
 
 俺の夢見た甘い初体験は、
 
 下半身が引き裂かれるんじゃないかと思うほどの激痛だった‥
 
 想像を絶する痛みに我を忘れて‥
 俺を苛む、祐希さんの背中に夢中でしがみついた。
 縋るものが、それしか無かったから‥
 
コメント
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祐希くんは藍くんを子供扱いしてたから抱かなかったわけじゃなく、大切だから抱かなかったんですよね~、だからついあんな事を言ってしまったけど不安だからこそちゃんと話すのは大事なんです!これに懲りたらもう嘘はついたらダメよ、藍くん!