テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ダノッチ、あの噂知ってる?」
「最近鬼機関で有名なヤツ」
珈琲片手に頬杖を突きながら花魁坂はにっこりと笑う。無蛇野はあいも変わらず無表情のまま話半分に聞く。
「素性も、名前もわかんない鬼の話」
「鬼か?」
「そっ、鬼」
「…鬼なのに、鬼機関が認知してないのか」
「そうそう、でもいくつかわかっている事があって」
花魁坂の話を要約すれば、女の鬼で年齢出身その他が不明。分かっているのは性別と特徴的な目の下の二つ並んだ黒子。鬼機関に所属していない故、服は制服じゃなく白のワイシャツと黒い半ズボン黒いパーカー。又同様の理由で進出鬼没で何処からか情報を仕入れているのか分からない。鬼が…特に女子供が危険ならば助けに行くと言う。
まぁつまり忠実に作り込まれた噂か、御伽話のような事実か…の2択だ。
くだらないと言う言葉を無蛇野は珈琲で流し込んでおいた。
指を動かせば倒れていた人が起き上がってくる、1人また1人と立ち上がる。けれどその顔に生気は無く全てが虚な目をしていた。
「なぁ教えてくれないか?」
「ここに君の親はいるのかな?」
優しそうな声色のまま死に体の集合体が目の前に迫り、翳る。後ろに下がろうと思ったけど壁に背中が着いた、いやだ死にたくない。
「こんなもん、見なくて良い」
暗くて怖いこの場所に今まで聞こえなかった優しい声が聞こえた。あんな貼り付けたような優しさじゃ無くて割れ物を扱うように丁寧で暖かい声。
その声が聞こえた途端に近付くそいつらよりも早く、目を塞がれて体が浮いて引っ張られる。目を塞いでいた何かが離れてそれが手だと初めて分かった。
俺を抱っこで抱き抱えながら壁や床を思い切り蹴りあの怖いヤツから逃げていく。
「怪我はないか?」
「…だい、じょうぶ」
前を向いたまま左手ででおれを支えて走るおねぇちゃん。そっと聞いてきてさっきまで怖くて震えていたのにおねぇちゃんの体温で手の震えが止まった。怪我をしてないことを伝えると、さっきの怖いヤツなのじゃなくて優しそうにふんわりと笑った。
「君早いね」
「君って鬼なの?」
「せっかくだしさ、逃げないでもっと話そうよ」
離れたと思ったのにいつの間にかあの人は隣にいた。怖くて怖くて、おねぇちゃんの服をギュッと掴んだ。
「生憎こっちは、話すことなんざ一つもねぇんだわ」
腕の中で止んでいた震えがまた起こって、縮こまる少年の頭を左手でぎゅっと覆った。
「ちゃんと握ってて、絶対離すなよ。」
服を握る小さい手を首に回してしっかり掴まるように言い聞かせる。僅かに頷いた少年を確認して一層速度を上げる。
「だから、逃げないでよ」
困ったように呟きながら着いてくる、あの制服からして九分九厘っつーか100%桃太郎機関の人間。桃太郎の奴らが一般市民を巻き込むとは考えにくい、要するにこの男の子も鬼ってことか。
「君は鬼なの?」
「名前は?」
横からは俺を追いかけてくる桃機関の男、後ろからは俺が鬼かどうかを見極めようと走る女隊員。
「あっ、俺?俺は唾切って言うんだ」
四季が返事を返さないのは自分の名前を知らないからかと思った唾切と名乗る奴は意気揚々と自己紹介をする。ついでにと後ろから追いかける女の桃太郎、桃草も紹介された。
だからなんだと言いたいのを飲み込んで無視を続けることに決めた。
「君の名前は?」
「言うかよ」
良い加減しつこい唾切に苛立ちを覚えながら暗い地下駐車場に人工じゃない光がさす場所を目指す。
一際明るく光が差し込む地下から上がる道が見えた四季は未だ質問し続ける唾切に再び乱雑に返して、自分の指を少し噛む。
「…一つだけ答えてやるよ」
「俺は、鬼だ」
振り向いて四季はニヤリと笑う。指を噛みちぎりボタボタと流れた血を素早くスナイパーライフルに造り替える。
「時間がねぇんだわ、一発で見逃してくれよ」
構えたまま言い切って胴体を狙い撃ち放つ弾丸に気を取られて足を止める唾切と蓬。
その隙に四季はスナイパーライフルの衝撃を上手く使い出口へと吹き飛んで走り去る。
「あらら、逃げられちゃった…」
「やっぱり鬼だったんっすね」
「漸く子供の鬼を見つけて研究できると思ってたのにな」
「残念」
「大丈夫か」
駐車場から程遠い入生田寺近辺のビルの屋上へ着地して、未だに震えている少年をそっと屋上へ下ろす。
「……お母さんも、お父さんも…」
「…ごめんな、俺がもっと早く行ければ」
ごめんと謝りながら1人置いていかれた子を抱きしめる、あのまま一緒に死んだ方が良かったなんて絶対考えないでほしい。
「ごめんな」
その瞬間に地面が大きく揺れた。対して高くは無いけれど屋上は存外にも揺れる。
下からは多くの悲鳴が聞こえる、その周辺には黒スーツの…鬼機関の人間が避難を先導していた。
二、三度大きな揺れが起きてゆっくりと止まる、瓦礫の心配のため頭を守るために覆い被さっていたがもう大丈夫そうだ。
「鬼機関に行けばなんか分かるかな…」
よし行こうかと再び抱き抱えて屋上から飛び降りる、倒壊する気配のない建物の屋根に飛び移りながらいつか聞いた京都支部へと向かう。
「よいしょ」
屋根から周囲を見渡して桃太郎がいない事を確認する。そのまま地面に降りて門を潜る。
地震が原因とは思えないような壊れ方をしている玄関を進めばピッタリと閉まっている襖が目に入る。
「おいで、確か此処が鬼機関の京都支部だ…」
襖を開けた先には血塗れの畳と、そこに倒れている瞼を閉じたおばぁさん。そっとおばぁさんの首に触れれば酷く冷たくて既に生きていないと分かる。
「これ、何が…あったんだ」
地下への階段は長く続いていて先は見えないほどの暗さと、風の低い音が響いた。
行くしかない…
「良いか、絶対に離れないでくれよ」
「うん、分かった」
汗が滲む手で少年の手を握って一段一段と階段を降りれば、徐々に濃くなる血液と死臭が混ざり合い濃く深くなる。
床にも壁にも夥しい数の血痕が広がっていて触れた瞬間に跡を残して落ちてく乾いたものから、壁に垂れていってる真新しいものまである。
本当に何があったんだと訝しげに眉を顰めれば心配そうに男の子が見上げてくる、大丈夫と言う意味も込めて頭を撫でる。
靴音が響く廊下を進んでいけば開けた場所に数十人の鬼機関の奴らとそれを先導する黒シャツの男。
「…別んとこから行くか」
そう言って歩き出せば地下なのに開けた庭に着いた。庭の端には1人怯えて膝を抱えてしゃがみ込む女の子がいた。
「大丈夫?何があったの?」
泣き腫らした顔で鼻を啜りながら顔を上げる。その顔は絶望に満ちていて到底年端も行かない子がして良いはずがない表情だった。
「立てるか?取り敢えず中入ろうぜ」
「…パパと、ママ…が」
「中にいんのか?」
「…うん」
小さくうなづいてまた下を向く、男の子は左女の子は右の手で支えながら抱っこをする。
スニーカーを縁側で脱いで木板を慎重に進んでいけど誰もいない。
「おねぇちゃんは、誰?」
「おれも聞きたい」
「…一ノ瀬四季」
泣き止んだと思えば2人して名前を聞きたがり静かにしない、致し方ないと正直に答える。
「四季おねぇちゃん、パパとママそこ」
服をくいくいと引っ張られて真っ直ぐと指差している、慎重に襖を開ければ雑多に並んでいる死屍累々の数々。どれもこれも抵抗なく口は開かれていて腕は筋肉の力を失ってダラリと落ちている。
此処に居ると言うことは…つまりはこの子の両親はもう…
「私はね、めいっていうの」
「パパとね…ママが、付けてくれたの…」
腕の中で大粒の涙を静かに流す少女も、同じ境遇で涙を堪える少年。
あぁ、なんと残酷なものだろうか。
平穏と愛情を無条件で享受して当然なのに…それを突然理不尽に壊される。
「此処にお前の…めいの両親をこうした奴って居るの?」
「…わかんない、でも先生が…唾切って言ってた」
『唾切』
「そうか、わかった」
「ありがとな。めい」
煮えたぎる腑を押し殺してめいにも少年にも笑いかける、本能はいつでも暴れられるようにでもしておけば良い。
「行くよ」
人を、正確には鬼を探す為に長い廊下を再び歩き出した…それなのに辿り着いた一室には桃の、唾切の気配がした。
2人を下ろして端で待っているように伝えれば、恐る恐ると2人はうなづいた。
頭を撫でてアイツの唾切の待つ部屋へと手をかける。
「誰かな」
襖を開け切る前に唾切に声をかけられる、開いた空間からは異様な血の匂いが充満して廊下にこぼれ出している。
「もう、忘れたのかよ」
二重になった襖に肩と頭を付けて寄りかかる、頭が斜めになったことで前髪がサラリと傾いた。
「!あぁ君か、また会えて嬉しいよ」
「お生憎様だな、俺はお前みたいなクソ野郎には2度と会いたくないんだわ」
以前も唾切の前で行ったように薄皮を噛みちぎり溢れ出した血を振り翳して固めAK-47を片手に造形する、時間にして1秒にも満たない。
「早いね…流石、鬼神の子だ」
「意味のわかんねぇ事言ってんじゃねーよ」
「やっぱり知らなかったんだ」
「お父さんは良い桃太郎だったでしょ。」
「ね、一ノ瀬四季ちゃん」
腰を下ろしたままにっこりと下卑たクソみてぇな顔をして俺の名前を呼んだ。
「なんで、テメェが親父のことを知ってんだよ」
「調べて貰ったんだ…色々とね」
「そうか、もう良い黙ってろ」
「お前は人間じゃねーよ」
親父との残された思い出を記憶をコイツに土足で踏み荒らされて覗かれた気分だった。つまり、最悪。
「人間じゃない鬼に言われたくはないんだけど」
「鬼より外道なんだよ、テメェは」
「さっきもそれ無蛇野君から聞いたな…」
「もう黙れ、俺がぶっ殺してやるから」
腕のAK-47(アサルトライフル)をAKM(アサルトライフル)に変える。より軽量化させた状態で唾切に向かって打ち込んだ。
最速で進む銃弾は唾切を貫通させるどころか、地面へと落ちた。
「あ゛?」
薄ら笑いを貼り付けたままじっくりと上から下まで観察をしてくる、なんで弾丸が落ちたかが理解はできねぇ…なら数ブチ込むか。
M134ー…通称ミニガンを連射しながらぶん回す、部屋は一瞬にて弾丸の雨で満たされる。
けれども唾切が指を軽く動かせばそこらに転げ落ちる死体が文字通り肉壁となって弾丸を受け止める。受け止めきれなかった弾丸はさっきと同じように地面に沈んでいった。
「…もしかして、鬼神の力使わずに僕に勝つつもりだったの?」
「その棺桶か…さっさと出せよ」
「君は勘が鋭いのかな」
軽く開いている棺蓋からは暗い闇がのぞいている、パキッと唾切の指が鳴れば棺蓋を掴む真っ白な手が現れる。
まるで生きているかのようにその死体は動く、だがあるはずの眼は黒く穴が空いていて纏っている白いスーツとは対の色だった。
あの服、あれ…桃太郎だ…。
「仲間の死体ですらお前の…人形にしちまうのかよ…」
震える声で溢せば諦めに近いため息が吐き出された。
「君馬鹿だろう?」
「あ゛!?」
真面目に言い訳でも聞いてやろうとしたのにいきなり馬鹿と罵られる。意味わかんねぇよ
「馬鹿は自分のものさしが正しいと信じて疑わない。」
「新興感染症をただの風邪だと言ってデモを起こす奴、動物性食品を一切食べない者が家畜を勝手に逃したりもする。」
「個人で信じるのは馬鹿じゃないが馬鹿はそれを人に押し付ける」
「彼は自分から人形になることを望んだんだよ」
反論の声を出そうとした瞬間に畳に体が引っ張られて膝を突く。さっきの銃弾と同じで徐々に膝足でもキツくなり上半身も畳に伏せることになった。
「これは彼の能力」
「操る対象が桃太郎の場合、その人の能力も操られるんだよ。」
上から降ってくる声を聞きながら体を押し潰さんとする圧に耐える。
汗は止まらないし、鼻血も垂れ始めた。
「彼は空気中の酸素に細菌を混ぜて重さを変えられるんだ」
見下してくる唾切をを睨みつけど、嘲笑うかのような笑みは絶やすことを知らない。
「俺の、血蝕解放は…銃なんだよ」
「まぁ、見てれば分かることでしょう」
押し潰されていく肺の僅かな空気で声を出す、肋骨はミシミシと軋む音が聞こえて苦しい。圧縮される肺では酸素を吸うことも吐くことも苦痛でしかない。
歪んだ顔で笑ってやれば苦虫を潰した様な顔で知っていると吐き捨てられる。
「じゃあ、これも…知ってんだろッ!」
「!」
アメリカ製、1905年に誕生したM1905(コイツ)の刀身で唾切のズボンを切り裂く。
服に意識を移した一瞬を狙って這いずれば、重力が消えた部分が出てきた。
「ゲホッ、…」
「女の子だからって手抜きすぎたね」
女の子だから…その言葉が昔から大嫌いだった、勝てばこっちが弱いことになって、負ければ手を抜いたからと言い訳を吐き逃げる。
正々堂々もできないクズが大嫌いだ。
親父を殺したアイツを未だ見つけられないのをアイツが管轄している地区を探しているんだと言ってしまいたくなる自分も大嫌いだ。親父にはまだ謝れてない、親父は俺が殺したも同然なんだ。
「ウルセェよ、揃いも揃って女の子だからって」
「それしか言えねぇのかよ!!」
M870(ショットガン)をぶっ放せど歪んで瓦礫まみれの畳に消えていく。
「ちなみにこんなこともできるよ」
パキリとなって指と連動して操られている桃太郎が動いて手を上下に空間を作りながら向かい合わせる。途端に空気が歪んで部屋に風が巻き起こり、前髪がゆらりと縦横無尽に動く。こんな事なら前髪留めとくんだったと今更な後悔をする。どうせしたところで遅いのに変わりは無いけれど。
「この手の空間細菌の酸素を通常の100倍の重さ変える!」
「円をイメージして圧縮していく」
「するとほら」
空気が圧縮されて黒く濃く変わっていく。
「重さ数百トンの『酸素の球体』が出来上がる。」
あんなん食らったら致命傷どころじゃねーな…避ける、
「これ避けたらさ、この部屋貫通してどこまでいくと思う?」
「あの部屋とかかな?」
「ほら、ゴミ溜めみたいなさ」
桃太郎なんざ、大嫌いだ。こんな発言を簡単にできて鬼を人だと思えない、何もしてなくても殺しにかかる。
「ほんとクソ野郎だな」
「そんなクソ野郎に負けちゃう君は何者なんだろうね」
片手で拳銃のような形を作り構える。軽く舌打ちをした俺の心臓に狙いをつけて上にあげる。
「数百トンの衝撃が圧縮されて…って聞こえてないか」
腕で構えていれど腕の骨なんざ軽く折って右脇腹に止まったそれは、骨も内臓も容易く砕き壊していく。
圧によって口からもボタボタと血が流れ落ちて喉につっかえて血を伴った咳が続け様に吐き出される。
「どうだった、体の内部から押し潰される感覚は?」
「そこそこ…ってとこだよ!」
滲む汗も歪んでいる顔も無視してニッコリ笑ってやる、酷く冷め切った目に相応しい形だけの笑みを浮かべている。
「君は…四季ちゃんは自分が鬼神の子って知ってるんだっけ?」
「くっだらねcえな…どうでも、良いわ」
咳混じりに啖呵を切ってみても折れた腕は未だ治らないし、砕けた骨の修繕にも時間がかかる。
「じゃあ、話してあげるよ僕が君を狙う理由も含めて…さ」
「だからさ、君を殺さない程度に痛ぶって半殺しぐらいにして持ち帰ろうとしてるんだよ」
「わかった?僕が君を、一ノ瀬四季を狙う理由が」
「さっきから…言って、んだろ」
「くだらねぇってよ!」
片膝だけ付いたままスナイパーライフルを落ちた血を固めて引き摺り出す。
打ち出した弾丸の反動に体力は負けて後ろに倒れ込んだ。
すいません、力尽きちゃいました…一旦ここまでで区切ります。
続きはちょくちょく書いてるので溜まったら2話目として投稿する予定です…。
コメント
3件
うわ〜四季女体化がテラーにないからありがたい。続き楽しみにしています!!