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僕が生きてるこの世界には色が無い。
色が無いって言っても真っ白っていう訳じゃなくてモノクロの世界なのだ。
昔は世界に色がついていたと聞くが本当だろうか。
とはいえ本にも絵がついているが、
色は無いのだから。
そんな世界、面白いはずが無い。
周りを見渡したって、
白黒の人々。
白黒の建築物。
白黒の生き物。
更には空だって白黒。
つまらない。
いつから世界には色がついてないのだろうか。
色がついている世界はどんなに綺麗なのだろうか。
常日頃、そんなことばかり考える。
でもそんな世界にも機転の日が訪れた。
僕はすることが無いから散歩へ向かったある日のこと。
ある女の子を見かけた。
その子には色がついていた。
一度も目にしたことがない “ 色 ” を
その子が歩いた場所、触れた場所。
全てが色に染まった。
そんな初めてを兼ね備えた人が珍しくて思わず声をかけてしまった。
「ねぇ、君、名前何?」
今思えばこんな珍しい重要な人物をみんなは見もせず、
通り過ぎて行くのが1番の疑問だったのかもしれない。
「私は由夢。あなたは?」
「僕は…白樹」
「しろき?珍しい名前だね。漢字は?」
「普通に色の白に難しい方の樹」
「そうなんだ」
「私は理由の由に夢」
気づくと僕に色がついていた。
周りは相変わらずモノクロなのに。
きっと由夢が傍に居るからだろうか。
「なんで由夢には色がついてるの?」
そう僕は聞いたが由夢は不思議な顔をするだけだった。
「あぁ、君の世界には色が無いんだね」
『君の世界』?
同じ世界に生きているのになぜそういう風に言うのだろうか。
「色が無いっていうか…モノクロなんだ」
「じゃあ白と黒っていうこと?」
「そう」
「へ〜…なんだか似たもの同士だね」
似たもの同士?
由夢が見てる世界もモノクロなのかな?
でも “ 似たもの同士 ” っていうことは違うのかな。
そんな疑問が頭の中を飛び交った。
「私の世界にはね色があるの」
「でも眩しいんだ。目が痛いくらいにね」
目が痛いくらいに眩しい色。
でも色があるのって羨ましいな。
そう思う自分が居るのがなぜだか嫌な気持ちになる。
「今、羨ましいって思ったでしょ」
そう小馬鹿にしながら僕に言う。
「でも、そんなに世界は甘くないんだよ」
由夢は切なそうな顔をしながらそう言った。
なんだか僕の心まで締め付けられる気分になった。
「白樹は色がついている世界に行ってみたいって1度は思ったことある?」
「うん、あるよ」
「私も1度だけモノクロの世界を味わってみたいって思ったんだ」
「でも無理だと思う」
「なんで?」
「もう目が眩しい位の色に慣れちゃってるからモノクロの世界行っても多分….」
そう言いながらどんどん俯いていく由夢。
「多分、錯覚でモノクロに見えないと思うんだよね」
微笑みながらそう言うが、
なんだか笑っているようで笑ってない。
そんな顔に見えた。
そんな時、僕の周りには色がついた。
というより世界に色がついたんだ。
きっとこれも由夢のおかげだって
思ってもいいのかな。
そんなことを考えたせいだろうか。
ますます由夢を知りたいという気持ちが
増していく気がした。
なんだか恋のようだ。
恋をしたから世界に色がついたって
言ってもいいのだろうか。
そんなことを考えていると
「やっと世界が彩りに包まれたね」
ってそう言いながら由夢は
とびっきりの笑顔を僕に見せた。
𓂃◌𓈒𓐍 𓋜
由夢side
私の見えている世界には色がついているけど、
それは皆と見えている色とは全くの別物。
よくイラストを描く時に影が重要だって言う。
影を描かないと絵の色が眩しく見えてしまうから。
そんな影がないイラストは
まさしく私が見ている世界と同じものだった。
空も人も何もかもが眩しい。
昔は世界には影があったって言うけど、
なんで影は消えたんだろうっていつも考える。
1度だけモノクロの世界に行ってみたいって、
そう思う時がある。
でもきっとそれは不可能な事だと思う。
だって、きっと『今』に慣れたせいで、
錯覚で色がついているように見えてしまうのだから。
家に居ると色が多すぎて頭が痛くなる。
そう思って私は外に出た。
相変わらず外も眩しい。
そんなことを考えながら歩いている時、
「ねぇ、君、名前何?」
と1人の男の子が私に話しかけてきた。
よく見るとその子の瞳には光が無く、
まるでモノクロの瞳のようだった。
「私は由夢。あなたは?」
私がそう答えると
「僕は…白樹」
と少し嬉しさ混じりで答えてくれた。
「しろき?珍しい名前だね。漢字は?」
私は白樹が気になって色々聞いてみたが、
今思うと意味の無い質問だったかもしれない。
「普通に色の白に難しい方の樹」
「そうなんだ」
「私は理由の由に夢」
そういえばさっきよりも色を眩しく感じなくなった。
まるで白樹のモノクロの瞳に当てられて
眩しい色が中和されているような感じだった。
「なんで由夢には色がついてるの?」
急にそんなことを聞かれて驚いた。
私だって『なんで君の瞳はモノクロなの?』って。
そういう風に聞きたかったが、
あまりにもそれは失礼だと思って
声に出ないよう我慢した。
そこで気づいたんだ。
きっと白樹がみている世界には色が無いんだって。
「あ、そっか。君の世界には色が無いんだね」
「色が無いっていうか…モノクロなんだ」
「じゃあ白と黒っていうこと?」
「そう」
「へ〜…なんだか似たもの同士だね」
自分で言っておきながら、
なんだか嬉しくなってしまった。
「私の世界にはね色があるの」
「でも眩しいんだ。目が痛いくらいにね」
ふと私の口からそんな言葉が零れていた。
私をもっと知って欲しいという気持ちと
誰かにずっと話したかったという
気持ちのせいだろうか。
「今、羨ましいって思ったでしょ」
だって目がキラキラしているもの。
「でも、そんなに世界は甘くないんだよ」
私は突き放すようにそう言った。
でも白樹は私を心配そうな瞳で見つめていた。
多分きっと私は今、
酷い顔をしてるんだろうなって、
そう実感した。
ふと白樹の瞳を見ると、
ほのかに色がついていた。
私のおかげだろうか。
そうだといいな。
「白樹は色がついている世界に行ってみたいって1度は思ったことある?」
自分でも言うつもりは無かった。
無かったんだけど
少しの期待だけでも持たせて欲しかった。
「うん、あるよ」
「私も1度だけモノクロの世界を味わってみたいって思ったんだ」
「でも無理だと思う」
「なんで?」
「もう目が眩しい位の色に慣れちゃってるからモノクロの世界行っても多分….」
息が詰まる。
この先を言うのが怖い。
言ってしまったら本当にそうなんだって思っちゃうから。
でも私の口は止まってくれなかった。
「多分、錯覚でモノクロに見えないと思うんだよね」
そう言って笑ったが上手く笑えていただろうか。
そんな不安の波が押し寄せた。
そんな時、
白樹の瞳が徐々に色に染まっていった。
あぁ世界に色が染まったんだなって。
一瞬で理解した。
それと同時に先を越されちゃったなって。
置いてかれちゃったなって。
そんな虚しさを感じた。
でもよく見ると、
なんだか前より世界が眩しくなくなった気がした。
これは白樹のおかげなのだろうか。
白樹のモノクロと私の眩しいくらいの色が
中和されて、
丁度いい感じの色に変わってくれたのだろうか。
そんな出来事があったせいだろうか。
私はきっと白樹に恋してしまったのだ。
でも今考えると、
恋したおかげで色が中和されたのかもしれない。
そう思う。
きっと白樹も同じ気持ちだろう。
そう思って私はこう言った。
*「やっと世界が彩りに包まれたね」*って。