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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。はい、現在足腰に力が入りません。なぜか?それはもちろん。
「けだもの」
「うぐっ」
シーツで身体を隠しつつ、最近覚えたジト目で下手人に抗議します。
「知りませんでした。ルイはお猿さんなのですね」
「うぐぐっ」
「足に力が入らないんですけど。腰が痛いし」
「だっ、だってよぉ…」
「言い訳しない」
「…はい」
よしよし、反省していますね。
「でもよ、シャーリィだって途中からノリノリで…」
「しゃらっぷ」
「…はい」
余計なことは言わない。長生きの秘訣ですね。
「でも……忘れられない時間になりました。感謝します、ルイ」
「俺もだよ。その、次はもっと優しくする…」
「もう次ですか、お猿さんですね」
「うぐぅっ」
「ふふっ…冗談ですよ。ですが、一線を越えた以上覚悟をして頂きますよ」
「何をするんだ?」
「もちろん、貴方は今すぐに『ターラン商会』から『暁』へ移籍していただきます」
「マジかぁ」
なにを驚いているのか。私の大切なものになった以上当たり前のことです。
「でもなぁ、姐さんに何て言えば…」
「マーサさんには私からも話をします。恩がありますから、筋は通したい」
『ターラン商会』との関係が険悪になったら最悪ですからね。まあ、今はそれよりも。
「足が痛いのでマッサージを希望します」
「おっ、おう」
で、ルイスなんだけどよ。その、何だ。うつ伏せになって真っ白で細い脚を出してくるシャーリィを見てると、まあ…な?ほら、俺まだ十四歳だし。思春期だし、シャーリィの言う通りお猿さんな訳で……そのまま延長戦になっても…不可抗力って奴だよな?な?
「良いわけがないでしょうが、この猿」
「すんません」
シャーリィです。このお猿さんにお説教してます。
「私は脚のマッサージを希望したんですよ?誰がピストンキメろと言いましたか」
「出来心なんです」
「益々力が入らなくなったんですが、今日の仕事は無理そうです」
「ごめんって」
むう、そんな捨てられた犬みたいな顔しないで下さい。やり難い。
「はぁ…私は一日休みます。シスター達にちゃんと伝えるように」
「俺殺されない?」
「大丈夫ですよ、多分」
「多分かよ」
で、ルイスなんだけどよ。
「つまり、貴方は初心を貫徹出来ず流されてシャーリィに手を出して足腰立たなくなるまでハッスルした挙げ句延長戦をキメてシャーリィをダウンさせたと」
「はい、その通りっす」
怖ぇぇぇぇっ!!!!!!
俺今正座させられてんだけど、目の前にシスターが仁王立ちしてんだよ。俺死んだかな。
「はぁ……若さに任せて無茶をしないように。シャーリィは貴方と違って繊細なのですから」
「ウッス」
「まあ、その辺で良いじゃねぇか。目出度い事なんだからな」
ベルさんが助け船を出してくれた!
「それはそうですが、こうもあっさりと」
「まあ、俺ももう少し時間がかかると思ってたけどな。今回の件でお嬢の尻に火が付いたんだろ」
「あの娘は大切なものを失うことを極端に恐れます。恋心を自覚して、ルイスの気持ちも分かった。なら、あの娘ならどんな手を使ってもルイスを手に入れようとする」
「ああ、その通りだ。良くも悪くも一皮剥けたな、ルイ」
「おう」
「マーサになんと言えば良いのか…」
「それは、明日あたりシャーリィと一緒に筋を通してくる。シャーリィが一緒に行きたいって言ったんだ」
「ふむ。マーサもシャーリィには甘いので案外すんなりといきそうですね」
「そっちは安泰か。ルイ、うちに来るからにはビシバシ鍛えるからな?お嬢を護れるように」
「望むところだ、ベルさん。遠慮無く頼むぜ!」
「おう」
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。あれから三日後、私はルイを連れて『ターラン商会』の本店に来ています。
「と言うわけで、ルイを頂きますね」
「唐突すぎてついていけないんだけど?いつの間に口説き落としたのよ」
マーサさんが呆れてます。
「マーサさん直伝、押して駄目なら引いてみろです」
「食われたんだよ、姐さん。色々察してくれ」
食われたとは失礼な。食べましたけど。いろんな意味で。
「はぁ……ルイの恋心は知ってたけど、まさかこんなに手が早いなんてね…。でも、シャーリィ。いきなり引き抜きとは穏やかなやり方じゃないわよ?」
「もちろん、この件でマーサさんとの仲が悪くなるのは本意ではありません」
「それで?」
「売り上げの取り分、現在の半分から40%にしてください」
「…貴女の取り分が減ることになるのよ?」
「構いません、それが私の通せる精一杯の筋です」
交易の見込みもありますし、実は全く痛くないんですよね。
「…そう、新しい商売は上手くいきそう?」
「さて、所詮は子供の浅知恵ですからね。失敗するかもしれません。でも、マーサさんに損はありませんよね?」
「その代わりにルイスを寄越せと?」
「駄目ですか?」
駄目なら仕方ないです。『ターラン商会』は敵です。
「……貴女を敵に回すと怖いのよね。何をするか分からないし」
「私は個人的にもマーサさんと今後も仲良くしたいと思っています。ルイを…ください」
「いや、物みたいに言うなよ」
「……分かったわ、期待の人材だけど…貴女に手を出したのは事実。こうでもしないとカテリナも納得しないでしょう」
「では?」
「売り上げの60%は貰うわよ」
「商談成立ですね。では、本題を」
「いや、俺達の事が本題じゃないのかよ?」
「違いますよ、だってルイはもう私のものですし。事後報告に過ぎません」
「おっ、おう」
「それで?本題って何かしら?シャーリィ」
「これです」
私はエレノアさんの手土産である魔石を見せます。
「あら、また手に入れたの?」
「はい、鑑定をお願いします」
「見るだけで分かるわ。水色でしょう?それは水の魔石よ」
「ほうほう」
「貴女が持ってる奴より大きいし、高値で売れるわよ。金貨百枚…いいえ、星金貨一枚にはなるわね」
「マジかよ!」
星金貨とは帝国に存在する貨幣の最上位。金貨数百枚の価値はあります。
「星金貨一枚ですか」
「ええ、流石にうちでも取り扱えないわね。どうするの?」
「使い方を教えてください。それと、私の魔石同様再充填のサービスもお願いします。金貨一枚で」
「良いわよ。充填なんて片手間で出来るし。誰が使うの?」
「ルイです」
「俺っ!?」
「私からのプレゼントです。ワンピースのお返しですよ」
「額が違うんだが」
「気持ちの問題です……いらないの?」
「その不安げな上目遣いやめろ、断れねぇじゃねぇか」
「決まりですね」
「早速尻に敷かれてるわけね、ルイス」
「誤解だ、姐さん!」
「手足のごとく扱いますよ」
「やめろ」
「それと、裁縫の手配をお願いします。このワンピースを修繕して貰いたいんです」
引き裂かれたワンピースを取り出してマーサさんに見せます。
「買い直した方が早いわよ?」
「大切なものなんです」
「シャーリィ…」
「分かったわ、任せなさい。腕利きに頼んであげる」
「ありがとうございます」
よし、マーサさんに認めて貰いましたしルイにプレゼントも渡せた。ワンピースも直りそう。ならば憂いを消し去ったので、次の段階に進めそうです。
気持ちを新たに、シャーリィは『蒼き怪鳥』に対する新たな手を打とうとしていた。