テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
24
応援団達はそのまま皆で体育館へ向かい、他の生徒は着替えるためにそれぞれの教室へ戻って行く。
俺と渉は大翔の後に付いて体育館へ向かい、すでに練習を始めている他のメンバーの元へ途中参加する。
女子はダンス部の考えたヒップホップで踊り、男子は全員長めの黒ランを着て、太鼓に合わせ空手の組手のような演武で自団を鼓舞する。男子は全員下駄を履いているので、動きにくい。
大翔が一番前に立ち、その一歩後ろの右横に渉が立つ。その後ろに、他の男団員達が扇のように広がって立っている。団長のかけ声に合わせて、他の奴らが同じ動きをする。
そんな奴らとは少しだけ離れたところで、俺は紅と書かれた白地の大旗を持ち、太鼓に合わせて旗を回す練習をする。そのため、まだ陣に参加できない。この役はもちろん自分からではなく、大翔からの強制である。
応援団に一人いる旗を振る係を、旗手と呼ぶ。旗手役は応援団の隣で旗を振り回す役目だけでなく、旗手場という見せ場を持っている。
紅白互いの旗手が応援団の前に立ち、相手の旗手を挑発するように、太鼓に合わせて旗を回転させたり、放り投げてキャッチしたりといった技を披露する。団長や副団長と同じように目立つこの旗手役、しかしやりたいという奴は少ない。
練習で筋肉痛、血豆を作ることは当たり前。しかも、一人で全生徒の前で旗を振るプレッシャー。俺だってやりたくなかった……誰もしないせいで、俺にお鉢がまわってきたのだ。お前は組手しなくていい、楽な役目にしておいたとか言って騙された……。
俺は旗手の動きが全て描いてあるプリントを体育館の床に置いて、それを見ながら動きを確認していく。
両腕で旗を支えるので、この役が決まってから毎日のように腕立て伏せをすることを義務化された。そのため、俺の腕は日夜湿布を求める結果となった。今日も帰ったら、貼って寝よう。
旗を振ることに関しては腕力で解決できるが、問題は旗を空中にほおってキャッチしたりする技と、腕を軸にして一回転や二回転させる技だ。これだけは、練習を重ねないとできない。
軽めの鉄でできたパイプ部分を回転させるたびに、それを落としては館内に渇いた音を響かせてしまう。一週間前から練習していても、一度も回転に成功したことがない。これはまいった、恥ずかしすぎる。
一度手を止めて渉たちの方に視線をやれば、ややバラバラながらも動きを覚え始めている。俺もあっちだったら、彼の傍にいれたのにと思う反面。これでよかったと大きく息を吸って吐いた。
館内の窓から校庭が見える。リレーの練習が終わってから、白組が校庭を使って練習している。
白組の団長は生徒会長を務める二年生の|青柳《あおやぎ》|響也《きょうや》。白い学ランを着て、完璧に動きをこなしている。コンピューターかと思ってしまうほどの正確さ。
校内一位の頭脳明晰、しかしそれを鼻にかけることがない好青年。だからこそ、女子たちにはモテモテ。
団員から少し離れたところで、一人の男子生徒が旗を振っている。顔の右側に火傷の痕を持っている……たしか、|笹本《ささもと》|司《つかさ》だ。そいつが白の旗手らしく、白と書かれた赤地の大旗を振り回している。そいつの動きに集中して見いっていると、旗が空中に向かって放たれる。小柄ながら逞しく鍛えられた腕がキャッチして、それを横に振り次のモーションをした。
「できてんのかよ……もう……」
やべぇ……という気持ちで旗を放り投げること数回、全て床に落としてお終い。そうしているうちに、放課後の練習が終わってしまった。
俺は焦りからもっと練習したい気持ちがあったので、大翔にもう少しだけと申し出て見た。すると、彼の隣にいた渉がそれを制止してくる。
「鳴海さん、今日は駄目だ。あんたの腕が限界だろう。ほどほどって言葉はそのためにあるんだぜ……」
言われて初めて気付いたが、旗を持つ自分の手が震えている。仕方なく旗を倉庫にしまって、教室に戻り着替えを済ませた。
大翔は教師の立川のところへ寄るというので、渉と二人きりで帰ることになる。校門を出てからしだいに言葉数が少なくなり、河川敷の土手を通った際、無言で歩くことになった。
二人とも疲れていたし、俺なんかふらふらしながら歩いている。しかも、渉が隣にいるせいで気が気じゃない。少しだけ後ろを歩いていれば、振り返って来た。
「鳴海さん、やっぱりなんかあったでしょ?」
「え……だから、ないって……」
「だったら、なんで後ろ歩いているのさ。なんか、変……」
「そうか?疲れているからさ……」
そう言い訳しながら、彼より数歩先を歩いて急ぐふりをする。渉が隣にきて並んで歩く。それでも、二人して無言だった。なんか付き合う前みてぇと思っていれば、分かれ道に来た。俺の家は左で、渉は右。
「じゃ……」と言っていつものように一歩進めたとき、両肩を掴んで逃げられないようにするとキスしてきた。噛みつくようなキスはすぐに離れ、渉が口元を拭いながら「また明日」と言って背中を向け去っていく。
しばらく間をおいてからキスの感触を呑みこみ、揺れる足で家に帰った。
家に帰りついたとたん、母親の夕飯という言葉を無視して二階にある自室に入る。ベッドの毛布に潜って、オナニーをした。息が荒くなる。枕の横にあるティッシュを掴んで体液を拭いた。キスした感触を忘れないために、唇を指でなぞる。
本日何度目かのため息をついて、部屋に転がっている学生カバンから携帯を取り出した。渉宛にメールを送る。
「すまん、明日から旗手の練習するから一緒に帰れない」
送信して、丸めたティッシュをゴミ箱に放り投げた。しかし力の入らない腕では感覚が違うので、手前に落ちてしまった。
枕に顔をうずめて、彼の声を思い出す。
あの声だけあればいい。それだけで、俺は幸せになれる。でも、今は……今は一緒にいたら、それこそ毒だ。
思い出を作りたい、最後だから。それならセックスだって我慢できる。渉の声だけあればいい。それなのに、何故か涙が溢れた。
泣いているうちに眠ってしまったが、腕の痛みに夜中の二時に目を覚まし急いで湿布を貼って寝直した。渉からの返信はなかった。
コメント
1件
うわあ…めっちゃ切ない😭💔 主人公、無理して旗手やらされてるし、渉くんとの距離感に悩んでるし…「最後だから」って言葉がすごく気になるんだけど!? キスのあとの自室でのシーン、声だけで幸せになれるって思ってるのに涙が止まらないとこ、もう胸が苦しくなったよ…。渉くんからの返信ないのも気になる〜! 次どうなるんだろ、続きが気になって仕方ないよ😢✨ 柚木さん、文体がリアルで感情移入しちゃいました! 体育祭本番が怖いような楽しみなような複雑な気持ち…応援してます🔥