コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『おい、お前達。ここはどこだ?』
『…………』
『…………』
『無視か……。まぁ良い。答えないなら力づくでも聞き出すまで!』
そう言って襲いかかったのだが、二人共あっさり返り討ちにあったのだ。
そして、意識を失った俺達はどこか分からない部屋に連れて来られた。
(あれからどのくらい時間が経った?)
周りを見渡すと、そこは見慣れない部屋だった。
自分の家ではない。病院の一室だろうか。
ベッドの上で横になっていたようだ。
(ここはどこだ?)
自分がなぜここにいるのか思い出そうとする。だが何も思い出せない。記憶喪失というやつなのか。とりあえず起き上がることにする。
上半身を起こしてみると頭がクラリとした。ひどい頭痛に襲われ思わず顔をしかめる。すると突然部屋のドアが開かれ誰か入ってきた。反射的にそちらを見るとそこには一人の少女がいた。年齢は自分と同じくらいに見える。栗色の髪が特徴的だ。
彼女はこちらを見るなり驚いたような表情を浮かべていた。そして手に持っていた盆を落としてしまった。だがそんなことは気にせずにそのまま走って部屋から出て行ってしまう。
いったいなんでこんなところに人が来ているんだろうと思った。自分は確かにここに入院しているわけだしここは病院であることは間違いないのだが、それでもまさか病室に人が来るとは思っていなかったのだ。それにここは基本的に関係者以外は立ち入り禁止になっているはずだ。それをあの子がどうやって入ったというのだろうか。私はただぼんやりとその光景を見つめていた。見慣れてしまった真っ白の部屋の中にいる彼女はいつも通り無表情でこちらを見ることもなく視線を落とし続けていた。彼女が一体どんなことを思って私に会いに来てくれたのかは分からないけれど、少なくとも私が何かを言うべきことでないことだけは確かだと感じた。そんな私の思いとは裏腹に彼女はベッドの横まで来るとゆっくりと顔を上げて私を見た。それはどこか泣き出しそうな顔をしていてそれが余計に辛かった。どうしてそんな顔をしなければならないのだろうと不思議に思った。だってこれは仕方のないことだ。これが当たり前なのだ。誰も悪くないし何も間違っていない。むしろ喜ばしいくらいのことなのになぜそんなにも悲しげにしているのだろう。そして何故、私は彼女を慰めようとしているのだろう。ああ、そうか。私はもう長くはないということなんだ。ようやくそこで気づいた。自分の命が長くないということにではなく、自分がもうすぐ死ぬということを認識したのだ。今までなんとなく分かっていたつもりだった。でもそれは漠然としていてどこか現実味がなかったように思う。こうして死の恐怖に直面してみるとそれが実感できるような気がした。怖くて怖くて仕方がない。これからどうすればいいというのだろうか。このまま死んでしまうしかないんだろうか。何もできないまま死んでいくしかないのだろうか。そんなことを考えているうちに涙が出てきた。怖い。死にたくない。もっと生きていたい。こんなにも生にしがみついている自分に気づいて愕然としてしまう。いつの間にこんな風になってしまったのだろうか。あの時の私なら違ったはずだ。あの時というのはもちろん私が前世の記憶を取り戻したときのことだ。私はあのとき何を思ったっけ。そうだ、生きることを諦めようとしたんだ。全てを諦めようとしていた。どうしてそうなったんだろう。何かきっかけがあったはずなのだけれど思い出せない。そもそもあれは何がきっかけであったのだろう。記憶を失っている間に色々あって忘れてしまったのかもしれない。きっとそうに違いない。だって今の私には思い出せないもの。とにかく生きたいという気持ちが強くなったのはこの瞬間からだ。それだけははっきりしている。それからどれだけ泣いたことだろう。泣いていても事態は何も変わらないということは分かっているのだけどそれでも泣くしかなかった。他にできることなどない。結局泣き疲れるまで泣いてしまうことになった。