コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
腰から、服の隙間に手を入れて素肌を探っていく。
外気を纏った、まだ少し冷たい手。
ぞくりと背筋を伸ばすと、張り詰めた背中を指が這う。
「あの時、坪井くんに……来て欲しかった。芹那ちゃんに、会いに行くより……」
「わかった、もう絶対しない」
ブラのホックに手をかけて、慣れた手つきで外してしまう。
「お前は、俺以外の男なんて知らなくていい……知らないままがいい、ずっと」
芹那の企みの話をしているのだろうか。
安心したような声に、少しだけムッとしてしまう。
「ふーん、坪井くんはこんなに慣れてるのに?」
悔しくて言い返すと「うっ」と坪井は小さく呻き声を上げた。
少しだけダメージを受けたみたいだ。
「……慣れてるのに、です」
「狡いよね」
「……ごめん。でも」
言いながら、真衣香を抱き上げた坪井がぐんぐんと足早に部屋の中へ急ぐよう歩き出した。
「これから先の俺は、全部お前の好きにして」
「ちょっと、やだ! 離して、お、重いから……!!」
しがみつきながらも、ポコポコと背中を攻撃すると「重くないよ」と笑いながら、ゆっくりと身体が解放された。ホッとしたのも束の間、すぐに視界が覆われてしまう。
ギシッと何かが軋む音。
降ろされたのはベッドの上で、何かが軋んだ音はベッドのスプリング。
真衣香はもう既に坪井の腕の中だ。
「あと、他の人からの着信とかごめん、番号も変える。元々青木に教えた時点で今日が終わったら変えようと思ってたから」
「え?」
「あ、スマホね。別に、入ってる連絡先の中で必要な人なんてほとんどいないから。お前が、気にしてるのもわかってなかった。俺の中では顔も覚えてない女ばっかりだったから」
しゅんとしたような声は許しを請うように弱々しくなっていき、だけども真衣香に触れる手の力は決して弱められることはなかった。
「それでも嫌なの、もう私以外の女の人と二人で出かけたりしないでね……今日みたいに」
「うん」
真衣香の手を取り、指に、手首に、キスを繰り返して頷く。
「やきもちばっかり妬いても呆れないで、嫌いにならないでね」
「……嫌いに? 俺が、お前を?」
聞き返されて、当たり前のように真衣香は頷く。
すると「はぁーーー」なんて。
長い長いため息が真衣香の耳に届く。
思わず身体を震わせた真衣香を思い切り抱き締めて、胸元にぐりぐりと顔を押しつけられた。
「な、何!?」
「お前ってほんと、俺を喜ばせる天才だよね」
幼い子供のじゃれ合いのようなそれから、徐々にゆっくりと、服の上からその形を確かめるかのよう、胸元に坪井の唇が何度も触れる。
次第に漏れ出る熱い吐息と、艶めいた声が部屋に響き、受ける坪井の呼吸も負けじと乱れていった。
その乱れた呼吸に真衣香の身体は、はしたなく疼き出す。
早く欲しい。
全部欲しい。
自分以外の全てを忘れて欲しい。
内側から、いい子ばかりの仮面を剥ぎ取るように、湧き出る本音をもう隠せない。
「どうしたら、もっと……嬉しい?」
「え?」
「私のことだけしか、どうしたら考えられなくなる?」
坪井の指先が触れるたびに。ピクリ、ピクリと何度も身体が震えて、真衣香の口から甘い声が漏れる。
快感が程よく羞恥を奪って、大胆にさせてくれているみたいだ。
「……え」
起き上がって、たくましい胸元を、トンと押して。
真衣香は、くるりと体勢を逆転させた。
こんな風に彼を見下ろすのは初めてのことだ。
「私から、したら、嬉しい?」
「え、え! いや、ちょ、嬉しいけど……、っう、あ、待って立花……っ」
坪井が身につけているオーバーサイズのパーカーをふわりと捲し上げて素肌に指を滑らせる。
すると驚いたことに、その口から熱のこもった声が漏れた。
「ちょっと、も~、待って。喜ばせすぎだろ、俺ばっか嬉しい」
間近で見る初めての照れた顔。
愛おしくて、そっとキスを落とした。
張り詰めた彼の欲情に気がついた真衣香が、さらに密着させるよう、そこに体重をかけ、微笑むと。その形はより明確に、そして熱くなった。
すると何かを観念したように、また深いため息が聞こえてくる。
「……どこでそんなの覚えてくるの」
「坪井くんから」
「教えてないだろ、怖いなぁ、お前は」
どこまで可愛くなっちゃうんだろうな、と。今度は少しさみしそうに囁いて。
手を伸ばした坪井が、やはり慣れた手つきで真衣香の服を剥ぎ取っていく。
既に坪井の手によって乱されていた下着が、頼りなく身体を隠していたけれど。
それもすぐに暴かれて。
上に乗ったまま、けれど主導権はやはり譲ってなどくれなくて。
声が枯れるほどに、淫らな声を出した。
「可愛い」と何度も囁き、汗を滴らせながら真衣香を求める姿。
突き上げられる熱を何度も何度も、この夜、真衣香は受け止めることとなってしまった。
けれど心地いいのは。真衣香の中にある狡さも、醜さも、隠したかったもの全て。坪井の身体の中に刻み込むよう深く浸透させて。
交わり合えた夜だったから、だろうか。