『貴方ノ為ならどんな罪モ犯ス』〜桃の花は赤く散る〜
第9輪 綺麗ナ瞳ニ赤イモノ
ポタッポタッ……。
目の前には貴族の当主が天井から吊し上げられ…。血を流していた。
『あ、あぁ…!』
(みんな、死んでる…?そんな…っ。)
『どう、して…っ?どうしてこんな酷いことができるの…っ!? 』
『主様を傷つける人は…誰であろうと許しません。それが貴族でも、誰であっても。報いは受けさせます。』
彼の狂った忠誠心は異常だ。
『他に…やり方はなかったの…?私が一度でも頼んだ……?』
『…主様の思いに報いることが私の役目――。』
『私はこんなこと望んでない!!』
『…どうしてそんなことをいうんですか?私は主様のためにしたのに……。』
『こんなこと、私は…っ!』
『私は貴方を敬愛しているのです。他の誰にもこの気持ちは負けません。ずっと、私だけの主様でいてくださいね。』
『…。』
(私が彼を正気に戻してあげなきゃ。
主として正しい道へ私が彼を導くんだ。)
『ユーハン…貴方のした事はフィンレイ様やみんなも知ってるの。出頭して。罪を償って。』
『どうして…なのですか?私は貴方のために…。』
『……。』
私はユーハンを睨みつける。
『私はずっと貴方の為に…。どんなことも犯してきた。それなのに…。どうして分かってくれないのですか?どうして…。』
『ユーハン…。』
一方その頃。ドアの外――。
『主様!!開けてください!!』
『くそ…っ。まさか、主様…。』
『ユーハンと心中する気か?』
『っ、そんなことさせてたまるか!』
ガチャガチャ…ッ!
いくらドアノブを捻っても鍵は開かない。
『っ……こうなったらドアを壊して…!』
『ダメっ!』
中から主様の声がする。
『ユーハンは私の声しか届かない。みんなが何をしても無駄だよ。お願い。』
『主様…っ。でもこのまま黙って見てるなんて…っ!』
ユーハンは私を見つめながら近付いてくる。
『…あぁ、そうですね…私を分かってくれない貴方なんてもう――。殺してしまいましょうね。』
『っ……。』
ユーハンは剣を抜いた。
(本気なんだね…ユーハン…。)
『っ、それ以上主様に近付いたら許しません!!』
『ナック、ラト……っ?』
窓から音を立てず2人が入ってきた。
『おや…。ナックさんにラトさん…。そうですね、2人なら窓から入ることも可能ですね。』
『フフ、主様を傷付けるなら許しませんよ。ユーハンさん。』
『…。』
ギュッ
私はユーハンの手を握る。
『主様…。』
『寂しかったんだね…。いいよ。一緒に死んであげる。』
『主様……!』
私は主様を抱き締める。
『そんな、主様……っ。』
『…っ?え…っ。』
私の胸にナイフが刺さってるのが見えた。
『……。』
『そん、な…っ。主、様…。』
ユーハンは口から血を流し…。床に倒れ込んだ。
『……っ。』
『主様、それは…。』
『これなら油断させられるでしょ。抱き締めれば相手に隙が生まれる。私なら尚更。』
『ふ、ふふ…っ。最愛の人を抱き締めて殺されるなんて…なんて最高の死なんでしょう…。主様……。』
その言葉を最後にユーハンは事切れた。
ドガンッ!
扉を壊してみんなが入ってくる。
『主様!』
『ユーハン……っ。』
主様の頬に血がついていた。
『お怪我を…?』
『これは…返り血だよ。ユーハンを刺した時についたの。』
『そう、ですか…。 』
『執事の失態は…私がカタをつけるべき…私は――主だから。』
『……。見事なご采配でしたよ――。』
『っ……。』
私は涙を流す。
主様は涙を流した。その雫はとても綺麗で…
魅入ってしまった。
次回
終輪 桃ノ花は赤ク染まル
コメント
2件
読んでる時に「ユーハァァァン!!」ってなりました。結構ガチめに涙出ました。次の話楽しみです!