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ルイスの発言を聞いたクラッセル子爵は、目を見開き、口を開けていた。
あんな顔初めてみたかもしれない。
「君が、ロザリーと交際を!?」
すぐに平常の顔になったクラッセル子爵は、頭を下げ続けるルイスを見ていた。
ルイスはその場から立ち上がる。
私は彼の背をじっと見ていた。
「僕は、昨日の間にロザリーに告白しました」
「そ、それで――」
「ロザリーは僕の想いを受け入れてくれました」
「ロザリー、この男の話は本当なのかい!?」
二人の会話は続く。
ルイスは遠まわしに話すわけでもなく、核心を突いてきた。
私はコクリと頷き、事実であることをクラッセル子爵に伝える。
隣にいたマリアンヌは「まあっ」と驚いていた。
「本当です。私からもお願いします。ルイスとの交際を認めていただけないでしょうか」
「確認するけれど、それは君の本心だよね? この男に強引に迫られたわけではないんだよね?」
「はい。私の本心です」
クラッセル子爵は私たちの言葉を受け入れたくないようで、私に細かく確認をとってくる。
ここで長々と話しても、動揺しているクラッセル子爵では理解が追い付かないだろうから、私は短く答えた。
「……ロザリーが好いているのなら、婚約をみと、み――」
クラッセル子爵は言葉にするも、最後の部分はとても口にしたくないようで顔をしかめている。
「……認めよう」
間を空けてクラッセル子爵がルイスとの交際を認めてくれた。
「ありがとうございます。お義父さま」
「ただし、学業を優先させること。ロザリー、君は僕の後を継いでもらいたいからね」
「もちろんです。それはルイスとも約束しました」
思った通り、クラッセル子爵は交際の条件を出してきた。
私はルイスと約束をしたと、正直に告げる。
恋愛に溺れて将来の選択肢を狭めることはしないと。
「ルイス君、交際は認めたとはいえ……、ロザリーは僕の跡継ぎになる。音楽科を卒業して演奏家の資格を得るまでは――」
「承知しました。それまでロザリーと肉体関係を持たないことをお約束します」
ルイスはクラッセル子爵に誓いを立てた。
卒業までルイスと肉体関係を持たない。
きっぱりと口にされると、私は平常心を保てなかった。
(顔に出してはだめ。お義父さまが怪しんでしまう)
昨日までなら、そのような誓いを立てても平然としていただろう。
だけど、私は知ってしまった。ルイスと一夜を共に過ごしたことで。
「約束を破れば僕は君を絶対に許さない。二度とロザリーには会わせないからな」
「ロザリーと結婚できるなら、俺は二年、待ちますよ」
「さて、どうだか」
ルイスはクラッセル子爵の脅しにも屈しなかった。
五年も私の事を想っていたのだ。更に二年、延びたとしてもどうってことないのだろう。
話の区切りはついたものの、ルイスとクラッセル子爵の間に重い空気が流れていて誰も会話に割り込める雰囲気ではなかった。
「お父様、お話は終わりよね?」
ただ一人、マリアンヌを除いては。
「終わった、ね」
「じゃあ、屋敷に入りましょう!」
マリアンヌは場の空気を破り、クラッセル子爵の背を押す。
それを合図に、皆が屋敷の中に入った。
「夕食まではまだ時間があるわよね」
出迎えを終えたメイドと使用人たちはそれぞれの仕事に戻った。
あと一時間もすれば、夕食の準備が整うだろう。
私はメイドに荷物を渡し、部屋に運んでもらう。
「俺は――」
「部屋は用意してあるわ。夕食も用意してある」
「なら、一泊していくかな」
「僕は帰ってもらってもいいけどね」
「お父様! ロザリーの恋人になんて言い草なのかしら」
「マリアンヌ、黙って――」
「お父様こそ、意地を張るのは止めてください。ここはロザリーが良縁に結ばれたことを喜ぶところではなくて?」
「……」
マリアンヌは客人に失礼な態度を取っている、クラッセル子爵を叱る。
クラッセル子爵は渋い表情を浮かべていた。
「ルイスは素敵な男性です。ロザリーの相手は彼が相応しいと思いますわ」
「君はロザリーとルイス君に味方するんだね」
「ええ!」
「はあ……」
マリアンヌの主張を聞き、クラッセル子爵は深いため息をついた。
「空いている時間があるのだったら、ロザリー、課題曲をルイス君に披露してみないか?」
「ルイスに……、披露?」
「曲の練度をあげることも大事だが、観客に伝えることも大事だ」
「伝える……」
「ルイス君を試験官だと思って、当日に近い状態にしてみたらどうかな」
「なるほど」
編入試験は三人の試験官が演奏を評価する。
いつもは指導者であるクラッセル子爵一人だが、そこにルイスとマリアンヌが加わったら三人になる。当日に近い状態になるのだ。
「ロザリーの演奏、聞いてみたい」
「私も!」
ルイスとマリアンヌも賛同している。
会話の成り行きで私たちは演奏室に入った。
クラッセル子爵とマリアンヌ、ルイスは椅子に座った。
グレンはピアノに座り、私は楽器をケースから取り出したのち、弦の調律をする。
「ロザリーが好きな時に始めておくれ」
調律が済み、私は中央に立って、ヴァイオリンを構えた。
息を深く吸い、それを吐き出したところで、演奏を始める。