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#廃校past complex
ユメミリ@夏の絶不調祭り
315
るる
74
#闇
ruruha
1,447
◇
小屋を出ると、潮の匂いを含んだ風が頬を撫でた。
日はまだ高いが、村のあちこちに吊るされた灯篭が、これから始まる祭りの気配を静かに主張している。
「お疲れ様ですー。」
イリアが軽く手を挙げて出迎える。
その声には気負いがなく、いつも通りの調子だった。
「すみません……お待たせしました。」
テルが小さく頭を下げる。
走ってきたのか、少し息が上がっていた。
「わたくしたちもさっき着いたところですわ!」
プリムローズが胸の前で両手を合わせ、明るく笑う。
焦らせまいとする気遣いが、その笑顔の端々ににじんでいた。
「まぁ…無事に着いてよかったわ。」
リーナは腕を組み、短くそう返す。
素っ気ない言葉の裏に、ほんのわずかな安堵が滲んでいる。
「えっと……とりあえずこのメモを。」
テルが折りたたんだ紙を差し出す。
手のひらほどの大きさに、几帳面な文字がびっしりと書き込まれていた。
寝る間を惜しんで書いたのだろう。
インクの掠れがそれを物語っている。
「……?」
イリアがその紙を受け取り、目を落とす。
「あ、今日の計画表ですか……?」
「はい……ほんと大まかにですが……。」
テルは照れ隠しのように視線を逸らした。
「大まかに」と言うわりには、時間割りから注意事項まで丁寧にまとめられている。
「す、すごいですわ……。」
プリムローズが紙面を覗き込み、目を丸くする。
「ありがとうございます……!」
イリアはメモを大事そうに畳み直しながら、ふと思い出したように付け足した。
「あ、あと……今からティモシーさんが半神の皆さんに顔合わせをしに行くみたいです。」
「あぁ…あの人もわざわざ丁寧ね。」
リーナがわずかに目を細める。
村長自らが挨拶に赴くという律儀さに、多少の意外さと、それ以上の好感を覚えたようだった。
◇
小屋の中は、外の浮ついた空気とは対照的に、妙な静けさが張り詰めていた。
「(き、気まずい……。)」
ニアは膝の上で指先を絡ませながら、そっと部屋の空気を窺った。
「(だって西棟の人たちと関わりないもん……!)」
同じ屋敷に住んでいると言っても、名前と噂程度しか知らない相手ばかりだ。
何を話せばいいのかもわからないまま、時間だけが過ぎていく。
「……。」
隣に座る鈴凛は、いつも通り表情を変えず黙っている。
その沈黙が、いつもより重く感じられた。
「(リンちゃんまで黙ってる……。)」
「(誰か助けてぇ……!)」
救いを求めるように視線を巡らせるが、誰と目も合わない。
それぞれが、それぞれのやり方でこの気まずさをやり過ごそうとしているようだった。
「(い、いや……ここはわたしが……。)」
このままでは埒が明かない。
ニアは小さく息を吸い込み、意を決したように口を開いた。
「み、みんな」
コンコン。
小屋の扉がノックされる。
「きゃぁっ!?」
不意打ちのノックに、ニアは椅子から跳び上がりそうになった。
「にゃっ!?」
膝の上にいたラテも驚いて小さく鳴く。
「……悪目立ちしてるアル。」
鈴凛が呆れたように呟く。
「うぅ……。」
ニアは羞恥に顔を赤らめ、俯いた。
「……誰かしら。」
ローラが扉の方へ視線を向ける。
誰もが動こうとしないまま、扉だけが静かに視線を集めていた。
「……イリアたちじゃない……。」
ナターシャがぽつりと呟く。約束の時間にはまだ早い。
だとすれば――と、皆の頭に一様に緊張が走った。
「……誰も出ないなら私が出ますね〜?」
沈黙に痺れを切らしたのか、ラグドールが軽い調子で腰を上げる。
ラグドールがドアノブに手をかけようとした時。
扉がゆっくりと開く。
「失礼します……。」
「あぁ、え?ど……どうぞ……?」
開けるより先に開けられて、ラグドールは思わず間の抜けた返事をしてしまう 。
「すみません……。」
入ってきたのは、緊張の面持ちを隠しきれない様子の男だった。
「……えー……我が村の不躾な招待に応じていただき、心より感謝いたします……。」
その声は、あらかじめ用意してきた言葉を、一言一句取りこぼすまいとするように、慎重に紡がれていた。
「私、ベネディクタ村の村長ティモシーと申します。」
「歓迎の場として、このような飾りのない簡素な小屋を選びました非礼、どうかお許しください。」
「……畏れながら……」
その言葉遣いはあまりに丁寧すぎて、かえって空気をこわばらせる。
「……この人……台本読んでる。」
ルカが小さく、しかしはっきりと呟いた。
「る、ルカくん静かに……!」
ニアが慌てて袖を引くが、時すでに遅し。
「……。」
ティモシーは一瞬、言葉に詰まったように黙り込んだ。
「………すみません…。」
小さく謝ってから、彼は仕切り直すように咳払いを一つ挟んだ。
「え、えー……畏れながら、『千夜の漂着祭』についてご説明申し上げます。」
「本夜執り行われますのは、我ら人の世の『願い』を乗せた灯篭を海へと流し……」
「遥か海の向こう、皆様の座す『神域』へと漂着することを祈る儀式にございます。」
「灯篭の灯火は、暗き夜の海を渡るための道標。」
「皆様に届くよう、村人が一期一会の祈りを込めて手作りしたものでございます。」
その声には、緊張の硬さとは裏腹に、確かな熱がこもり始めていた。
「皆様にとっては人間の小さき願いなど、波間に消える泡沫に過ぎぬやもしれません。」
「ですが、我らにとっては、一千の夜を越えてでも神域へと届けたい、切なる祈りにございます。」
「どうぞ、今夜ばかりは海からの風を受け止め、我らの灯火をその目にお留めいただけますと幸甚に存じます。」
「……。」
言い切った後、ティモシーは深く息をついた。緊張の糸が、わずかに緩んだ瞬間だった。
「えー……以上をもちまして、『千夜の漂着祭』のご説明とさせていただきます。」
「これより私は、祭りの運行管理と、皆様をお迎えする最終の安全確認のため、一度現場の指揮へと戻らせていただきます。」
「それでは、偉大なる半神様…。」
そう言って、彼は深く頭を垂れた。
「今夜の祈りが、皆様と我ら人間との、良き架け橋となりますよう。」
「……失礼いたします。」
その背中が扉の向こうへ消えるまで、部屋には誰の声もなかった。
緊張の余韻だけが、しばらくその場に漂っていた。
コメント
2件
作者コメント┊︎ 頑張ってぃもしー
テルのメモのクオリティが尋常じゃないですね…「大まかに」と言いながら時間割りから注意事項までびっしり、寝る間を惜しんだインクの掠れに彼の必死さがにじんでて胸が熱くなりました。そして村長ティモシーさんの登場シーン、ルカの「台本読んでる」が的確すぎて笑ってしまいました。あの緊張感と、それでも本気で伝えようとする熱意が混ざり合った空気感がとても好きです。