テラーノベル
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◇
「ティモシーさん大丈夫かな……。」
イリアが小屋の扉の方を気にしながら呟く。
「まぁ……死にはしないでしょ。」
リーナはあっさりとした調子で返す。
「ぶ、物騒ですわ〜!」
プリムローズが目を丸くして声を上げた。
その時、目の前の小屋のドアが開く。
「……はぁーーっ……!!」
開いた扉から転がり出るように、ティモシーが大きく息を吐き出した。
「うわっ!?ティモシーさ……え、だ、大丈夫ですか!?」
テルが慌てて駆け寄る。
「い……生きた心地がしませんでした……。」
ティモシーは壁に手をつき、しばらく肩で息をしていた。
顔色は青白く、額には冷や汗が浮かんでいる。
「お、お水飲みます……?!」
イリアが小走りに水を取りに向かう。
「冷や汗すごいわよ……?はいタオル……。」
リーナが差し出したタオルを、ティモシーは震える手で受け取った。
「ありがとうございます……ほんとに……。」
一口水を含み、ようやく人心地ついたのか、その表情に少しだけ血の気が戻る。
「す、すみません……格好悪いところを……。」
気恥ずかしそうに目を伏せるティモシーに、イリアは小さく笑いかけた。
「私も初対面の時は同じでしたよ……。」
「えぇ、わたくしもですわ……!」
プリムローズも大きく頷く。
「息をすることすら忘れるほどの威圧感でしたわよね……。」
その言葉に、当時の記憶が蘇ったのか、彼女はわずかに身震いした。
「えぇ本当に……おっしゃる通りです……。」
ティモシーは深く同意するように頷いてから、ふっと息をつく。
「はぁ……いえ、弱音を吐いている場合じゃありませんね。」
まだ完全には拭いきれない緊張を無理やり押し込めるように、彼は表情を引き締め直した。
「説明の時、半神様の視線が一瞬だけ浜辺に向いたので……完全に拒絶されたわけではないはず……。」
その分析には恐怖の記憶を単なる恐怖のままで終わらせまいとする、村長としての意地のようなものが滲んでいた。
「はぁ……あなた本当に真面目なのね。」
リーナが呆れ半分、感心半分といった様子で息をつく。
「いえ……村長としては全然なので……。」
ティモシーは謙遜するように首を振るが、その仕草にはどこか誠実さが滲んでいた。
「……ほら、これが正しい反応よ。」
リーナがちらとテルの方に目をやりながら呟く。
「……。」
テルは唇を尖らせ、何か言いたげに視線を逸らした。
先ほどの計画表のことを言われているのだと、すぐに察しがついたのだろう。
「とりあえず……私は灯篭の放流ポイントの巡回に行ってきます。」
ティモシーはタオルを丁寧に畳んで返しながら、居住まいを正した。
「了解です……。お疲れ様でした。」
イリアが小さく手を振る。
「はい……それでは。」
一礼して、ティモシーは踵を返した。その足取りは来た時よりもいくらかしっかりとしたものになっていた。
彼の背中が村の方へと遠ざかっていくのを、四人はしばらく見送っていた。
◇
「皆さーん、お待たせしましたー。」
イリアが小屋の戸を開けながら、努めて明るい声を出した。
「あっ……イリアさん!」
ニアがぱっと顔を上げる。ようやく知った顔が現れた安堵が、その声に滲んでいた。
「皆さん村長さんの話ちゃんと聞きました?」
「……うん。長かった。」
ルカが素直に感想をこぼす。
「大丈夫だよ。ちゃんとみんな聞いてたと思う。」
フローが苦笑気味にフォローを入れた。
「はぁ……村長、めちゃくちゃ緊張してたでしょう?」
リーナが呆れと労いの入り混じった声で言う。
「ああ見えて、この村の命運を背負って必死なんだから。」
「村長さんの堅苦しい説明は大目に見てあげてくださいっ?」
プリムローズが両手を合わせ、とりなすように付け加えた。
「まぁ、冷や汗すごかったから……。」
ミシェルがその時の光景を思い出したように呟く。
「なんか可哀想だったにゃ。」
ラテもしみじみと同意した。
「…じゃあ、今回のお祭りの決まり事をいいますね。」
イリアは手元のメモに視線を落とし、簡潔にいくつかの注意事項を読み上げていく。
灯篭の扱い方、立ち入ってはいけない場所、集合時間――。
淡々とした説明に、皆それぞれ頷いたり、時折首を傾げたりしながら耳を傾けた。
「これで以上です。わかりました?」
「……なんだか遠足みたいだねー…。」
ソフィアがどこか呑気な調子で呟く。
「まぁここまで言いましたけど……普通のお祭りなので。」
テルが肩の力を抜くように言葉を継いだ。
「屋台とか、好きなように回ってください。」
その一言で、張り詰めていた空気がふっと緩んだ。
一同は小屋を出ると、日はすでに傾き始め、村の通りには橙色の光が差し込んでいた。
コメント
2件
作者コメント┊︎ 圧かけ半神、わざとじゃないぞ?
第三十一話、拝読しました! ティモシーさん、めちゃくちゃ緊張してたんですね……。半神様と面会した後の青ざめ方が想像できて、思わず「お疲れ様です」と言いたくなりました。それでも村長としての意地で分析を始めるところに、彼の真面目さと責任感が滲んでいて胸が熱くなりましたね。 リーナの「呆れ半分、感心半分」のツッコミも絶妙でした。普段は飄々としている彼女が、こんなに真っ直ぐ労う言葉をかけるなんて、余程ティモシーの頑張りが伝わったんだなあと。 最後の「普通のお祭りなので」というテルの言葉で、ほっと空気が緩む感じがとても好きです。お祭り本番、どんな表情を見せてくれるのか楽しみです!
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