テラーノベル
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彼女の足音は軽やかでまるで風のように閉鎖されているモールの反対側の通路を駆け抜けた、まるでどこに警察が潜んでいるのかを知っている様にそれを避けて逃走する
上空ではヘリコプターのローター音が低く唸り、モールの屋上では狙撃手が無線で指示を受け、素早くスコープを覗き込む、ターゲット確認するが動くのが早く
ましてや彼女の頭を撃ち抜いたら、腕に抱いている赤ん坊を落としてしまう、彼の指が引き金に触れるが、真希の動きは予測不能で狙撃手に「待った」の指令がイヤホンから飛ぶ
真希は大通り添いを走り、幹線道路の方へ逃亡する、背後では真希を追いかける晴美の「晴馬!」という叫び声と、康夫の「止まれ、真希!」という怒声が追いかけてくる
真紀の心臓は激しく鼓動し、晴馬の小さな体を抱きしめる手に力がこもる
逃げなきゃ!この子を守らなきゃ!
大通りを抜けた先、5メートル下に広がる川沿いの堤防が見えた、真希は一瞬立ち止まり、息を切らしながら周囲を見回す、サイレンの音が近づき、ヘリコプターのホバリングが彼女の頭上から聞こえる
後ろからは康夫と晴美、細川捜査官、そして警察の足音が迫ってく、真希は晴馬を胸に強く抱きしめ、堤防の縁によじ登った、キラリと夕日をバックに真紀が右手に持っている包丁が光る
キャー―――ッ
「真希ちゃん!何をするつもりなの!」
「近づかないで!これ以上近づいたらこの子と一緒に飛びおりるわ!」
「真希ちゃん!やめて!」
「やめろ!!」
晴美と康夫が叫ぶ
川の水面が夕暮れの光を反射して冷たく静かに流れている、とても流れが速い、真希の目は一瞬、晴馬の小さな顔に落ち、決意のようなものが宿った
「あなたに何がわかるの!子供の頃から夢見ていたのよ!子供は三人!ハンサムな夫がいて、市内から少し離れた郊外にある白い壁と屋根が灰色の庭付きの家に住むのよ!」
彼女の言い分はまるで晴美の生活を反映している様だった
「真希ちゃん!そこから降りて!」
今すぐ突風が吹いて彼女が晴馬ごと川に落ちるかもしれない、晴美は恐怖でずっと叫んでいた
「くそっ!あの女」
康夫もなす術がなく、じっと真希を睨んでいる!
「どんなにあたしが欲しくても手が届かないモノをあんたは持っているのに、毎日毎日、フードコートに来て、子供が寝かせてもらえないや、なまけ者の旦那の給料が安いだの、よくもあれだけ愚痴を垂れ流せるもんだ!」
「あれはただの世間話よ!」
晴美も叫び返す
「子供のいないあたし達をあざ笑ってもいたでしょう?知ってるんだから、年頃になっても結婚してない女を見て、アンタ達はえり好みしすぎているとか、何か欠陥がある人間のように見下していたわ!」
「いいがかりよっっ!」
そう言いながらもフードコートでママ友達と話していることを思い出す、真希の言う通りだった、あのママ友軍団の会話をずっと真希が聞いていたのなら、どうしてこんな行動を取るのかも理解できる、しかしそれがどうしてうちの子供なんだろう、他のママ友の子供でもよかったのに
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