テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
75
第12話「気付けば」
外は、すっかり暗くなっていた。
先生は、そのまま駐車場へ向かう。
ゆかりは、少し後ろからついていく。
声はかけない。
ただ、見ているだけ。
先生は、自分の車に乗り込む。
ドアが閉まる音。
エンジンの音。
静かな夜に、少しだけ響く。
ゆかりは、その場に立ったまま。
動かない。
車のライトが、ゆっくりと灯る。
そして。
車が、動き出す。
そのまま、通り過ぎると思った。
でも。
ゆかりのすぐ近くで、止まる。
何も言わない。
窓も開かない。
ただ、そこにある。
(……)
ゆかりは、少しだけ立ち止まる。
理由は、分からない。
でも。
気付けば、足が動いていた。
ドアに手をかける。
迷いはなかった。
そのまま、開ける。
中は、少しだけ暖かい。
静かな空間。
ふわり、と。
あの香り。
視線を落とす。
助手席の足元。
小さな白い花が、一輪。
スノードロップ。
最初から、そこにあったみたいに。
ゆかりは、特に気にすることもなく。
そのまま、座る。
ドアを閉める音。
それだけで、外の音が消える。
先生は、何も言わない。
ゆかりも、何も言わない。
車は、ゆっくりと動き出す。
どこへ向かうのかは、分からない。
でも。
それでよかった。
(第12話 終)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!